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世界のでん粉需給動向

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最終更新日:2018年11月9日

世界のでん粉需給動向

2018年11月

調査情報部

【要約】

 2017年の世界のでん粉生産量は、全ての種類で前年を上回り、特にばれいしょでん粉は市場規模としては小さいものの、高い増加率を示した。一方、消費量は、2018年までいずれの種類においても堅調に推移するものと見込まれている。

はじめに

 本稿では、世界の主な天然でん粉(コーンスターチ、タピオカでん粉、ばれいしょでん粉、小麦でん粉)および化工でん粉について、2017年の生産・消費動向および2019年までの消費見通しについて、英国の民間調査会社LMC Internationalの調査結果を中心に報告する。

本稿に関する注意点

○でん粉は、基本的に需要に応じた量が生産・供給される体制であることから、世界全体において、一部を除き生産量≒消費量であり、在庫については考察していない。
○本稿における調査対象は、天然でん粉、化工でん粉のみであり、糖化製品は、含まれていない。
○数値については、全て製品重量ベースであり、増減率については、それぞれトン単位の値を比較したものである。
○本稿中の為替レートは9月末日TTS相場の値であり、1ドル=115円(114.57円)である。

1.生産概況

 2017年の世界のでん粉生産量は、4134万1000トン(前年比3.5%増)とやや増加した(図1)。このうち、コーンスターチが全体の約44%と最も多く、次いで、化工でん粉、タピオカでん粉がともに約22%、ばれいしょでん粉が約5%、小麦でん粉が約4%となっている。

 増減の推移を見ると、でん粉全体では、2000年の調査以降、一貫して増加傾向にある(表1)。また、昨年に引き続きすべての種類で前年を上回っており、特にばれいしょでん粉は市場規模としては小さいが、前年比6.3%増と高い増加率を示した。

 でん粉価格は、需給バランスよりも原料価格の変動による影響を大きく受ける。2017年の各種でん粉の輸出単価(注1)を見ると、コーンスターチ、タピオカでん粉および化工でん粉は前年を下回った一方、ばれいしょでん粉および小麦でん粉は前年を上回った(図2)。2015年に小麦でん粉が一時的に最も安価になったものの、タピオカでん粉は5年連続で下落しており、2017年には他のでん粉と比べて、最も安い単価となっている。これは、タピオカでん粉の主な輸入国である中国で、2016年3月にトウモロコシの臨時備蓄政策(注2)の見直しにより、コーンスターチの価格が低下し、輸入タピオカでん粉との競合が激化したことなどが要因とみられる。

(注1)種類別でん粉価格を比較するため、便宜上、輸出単価を用いる。
(注2)詳細については、「中国の穀物需給動向〜穀物政策の変更をめぐる現状〜」『砂糖類・でん粉情報』(2017年6月号)を参照。

表1 種類別でん粉生産量および消費量の推移

図1 2017年の種類別でん粉生産量

図2 種類別でん粉の輸出単価の推移

2.種類別動向

(1)コーンスターチ

 コーンスターチの生産は、アジアが生産量全体の約7割を占め、次いで北米、欧州などとなっている(表2)。2017年の地域別生産量を見ると、南米以外のすべての地域で前年を上回った。消費量を見ても、生産と同様、アジアを中心に北米、欧州が主要地域であり、2017年は、すべての地域で前年を上回った。消費量は、2018年、2019年とも、いずれの地域も前年を上回るとされている。

 世界最大のコーンスターチ生産および消費国である中国では、生産量をさらに増加させている。食品原料用途だけでなく、インターネット通信販売による消費が2桁の伸びをしていることから、配送の際に使われる包装や製紙に使われるでん粉の需要が伸びており、今後も大きく増加することが見込まれている。加えて、中国産コーンスターチは経済発展の著しい東南アジアの旺盛なでん粉需要にも応える状況となっている。なお、世界第2位の生産国である米国のコーンスターチ市場は安定したものとなっている。

表2 コーンスターチ生産量および消費量の推移

(2)タピオカでん粉

 タピオカでん粉の生産は、アジアが生産量全体の9割弱を占め、次いで南米、アフリカなどとなっている(表3)。2017年の地域別生産量を見ると、生産量の1割弱を占める南米で前年を下回ったものの、アジア、アフリカ、中米・カリブ海では前年を上回った。消費地域も、アジアが消費量全体の8割以上を占め最も多く、次いで南米、アフリカなどとなっている。同年の消費量は、すべての地域で前年を上回った。消費量は、2018年以降も引き続き、いずれの地域も前年を上回るとされている。

 世界最大のタピオカでん粉の生産・輸出国であるタイでは、2017年の生産量は、340万トンと前年の350万トンを下回ったが、長期的に見ると依然として、高い水準にあると言える。中国国内では、タピオカでん粉と競合するコーンスターチの価格が下がっているにもかかわらず、中国が最大の輸出先であることに変わりはない。中国におけるでん粉への需要の高まりや、2017年末の多雨の影響による生産の落ち込みを受け、でん粉原料用キャッサバの供給が非常にタイトになっており、タピオカでん粉価格は2017年9月に1トン当たり345ドル(3万9675円)だったものが、2018年6月には同500ドル(5万7500円)と大幅に高騰している。

表3 タピオカでん粉生産量および消費量の推移

コラム1 キャッサバの原産地、
南米ブラジルの軽食ポンデケージョ

 タピオカでん粉の原料のキャッサバは南米が原産地である。キャッサバはタピオカでん粉に加工されるほか、食事やお菓子の原料として調理されている。

 日本でも一部パン屋などで見られるようになったポンデケージョは、本来ブラジルの食品であり、タピオカでん粉を材料として用いる。ポンデケージョとは、ブラジルの公用語であるポルトガル語で日本語に直訳するとチーズパンとなるが、チーズとタピオカでん粉がほぼ1対1の割合で入っているため、濃厚なチーズの味と弾力ある食感が独特の食べ物である。

 ブラジルでは朝食や軽食として食べることも多い。街角の軽食スタンドやポンデケージョ専門店などブラジル全土にあり、ブラジル人にとって身近な存在と言える。大きさは一口サイズのものと子供の握りこぶし大のものがあり、前者はグラム売りで10個程度が封筒型サイズの紙袋に入れられて渡されることも多い一方、後者は1個ずつ販売されている。どちらが多く見られるかは、地域による。なお、焼き立てが一番おいしく、冷めると固くなるため、店頭ではウォーマーに入れられており、温かいうちに食べるのが良い。

 店舗によってレシピが異なることから、大きさ、値段、味もさまざまである。都市部では、中にクリームチーズやミルクジャムなど入っていたり、バンズの部分がポンデケージョで作られたバーガーがあったり、アレンジが加えられた商品もある。

 スーパーマーケットでは、タピオカでん粉も売られているほか、卵と水を加えるだけでできるポンデケージョミックス粉も安価で手に入るため、家庭でも簡単に作ることができる。

 


 

(3)ばれいしょでん粉

 ばれいしょでん粉の生産は、欧州が生産量全体の約6割を占め、次いでアジア、北米などとなっている(表4)。2017年の地域別生産量を見ると、北米は前年を下回ったものの、アジア、欧州は前年を上回った。消費量を見ると、アジアが最大の消費地域で、その他、欧州、北米が主要地域となっており、2017年は、これら主要消費地域を中心に前年を上回った一方、消費量が少ないアフリカは前年を下回った。消費量は、2018年、2019年とも、いずれの地域も前年を上回るとされている。

 ばれいしょでん粉は、独自の機能性(注)から強い引き合いがある。主産地である欧州では、2016年の単収が非常に高かったことから、生産意欲が高まり、2017年のばれいしょでん粉生産量も好調であった。2017年の単収は前年と比較すると減少したため、でん粉生産量も減少となった。なお、2018年のでん粉原料用ばれいしょの生産は、干ばつの影響を受け、大幅に減産する見通しであることから、2019年のばれいしょでん粉生産量も減産し、価格が高騰することが見込まれる。

 欧州に次ぐ主要生産地である中国の生産量は、食品用途などの世界的なばれいしょでん粉の強い需要を受け、1割程度増加する可能性がある。

(注)透明で粘性が強いことなどの特徴があり、水畜産練製品や製菓などに使用される。

表4 ばれいしょでん粉生産量および消費量の推移

(4)小麦でん粉

 小麦でん粉の生産は、欧州が生産量全体の5割以上を占め、次いでアジア、大洋州などとなっている(表5)。また、2017年の地域別生産量を見ると、欧州、北米で減少したものの、その他の地域では軒並み増加した。消費量を見ても、欧州、アジアが主要地域であり、2017年は欧州で前年を下回ったものの、その他の地域では前年を上回った。消費量は、2018年、2019年とも、消費量の少ない中米・カリブ海を除いたいずれの地域も前年を上回るとされている。

 小麦でん粉は、コーンスターチとともに糖化製品の主な原料であり、競合関係にある(注)。低コストの原料として成長が期待されており、欧州以外でも、中国や豪州などで生産が拡大している。

(注)小麦でん粉は、製造過程で作られる副産物(小麦グルテンなど)から得られる収益が大きいため、生産コストが抑えられ、価格競争力が高い。なお、小麦グルテンは、食品のほか、ペットフードや水産養殖用飼料などさまざまな用途に利用されている。

表5 小麦でん粉生産量および消費量の推移

(5)化工でん粉

 化工でん粉の生産は、アジアが生産量全体の約4割を占め、次いで欧州、北米などとなっている(表6)。2017年の地域別生産量を見ると、生産量が比較的少ないアフリカおよび南米を除いた地域で増加した。消費量を見ると、生産地域と同様、アジア、欧州、米国が主要消費地域であり、2017年はこれらを含むほとんどの地域で前年を上回った。消費量は、2018年、2019年とも、いずれの地域も前年を上回るとされている。

 化工でん粉は、全でん粉の中で、コーンスターチに次いで大きな市場であり、消費量は前年比3.6%増と、前年に引き続き全でん粉の中でも大きく伸長している。これは、加工食品だけでなく個人間の電子取引が活発化したことにより、段ボールなどの包装資材向けの引き合いが増加している中国によって需要が押し上げられているためである。なお、価格に対して、原料コストが占める割合は少なく、今後、クリーンラベル(添加物を含まず、消費者に分かりやすく食品成分を表示すること)への対応が競争力に影響してくるとみられる。

表6 化工でん粉生産量および消費量の推移

コラム2 増加する化工でん粉需要

 化工でん粉は、天然でん粉と比較し、付加価値が高いことから収益性が高いとされる。特に新興国においては、経済成長するにつれ、加工食品の消費が増加するだけでなく、さまざまな商品の包装資材向けの化工でん粉の消費が増加する。化工でん粉は食品に加えて、包装資材や製紙にも利用されているため、化工でん粉需要は、経済成長著しいアジアがけん引し、2022年には化工でん粉の年間生産量は1000万トンを超えると予測されている()。
 


 一方で、食品の分野では「クリーンラベル」を求める動きがある。クリーンラベルとは、でん粉に限らず、食品において添加物を含まず、消費者に分かりやすく食品成分を表示することであり、食品の分野で注目されているキーワードの一つである。先進国はもちろんのこと消費の増加する新興国においても、消費者の食品の生産方法や原材料への意識の高まりから、生鮮食品やオーガニック食品などを選択する傾向が強まっており、食品向け化工でん粉のクリーンラベルも重視され始めている。

  ただし、クリーンラベルの理念を突き詰めると、人為的な変化が加えられた化工でん粉を添加した食品は、クリーンラベルに該当しないとする考え方もあるため、この動きが化工でん粉需要の増加に大きく影響するかは不明である。

おわりに

 世界のでん粉消費量は2017年以降、年約3%の割合で増加し、2022年には4800万トンに迫る勢いであると予測される。生産も2017年から2022年までにすべてのでん粉で10〜20%以上増加すると見込まれている(図3)。特にタピオカでん粉、小麦でん粉の増加率は高く、またコーンスターチについても、業界再編などにより、最大の市場として着実に拡大すると見込まれている。また、化工でん粉は経済情勢が大きく影響し正確な見通しを立てづらいものの、消費量は堅調に推移すると見込まれる。

 世界的なでん粉需要の高まりの一方で、2018年の欧州の干ばつによるでん粉原料用ばれいしょの減産やタイやベトナム、カンボジアにおけるキャッサバモザイク病の感染によるキャッサバの減産など、マイナス要因も発生しており、今後の生産についても注視する必要がある。

図3 種類別でん粉消費量見通し

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272