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最終更新日:2019年8月9日
でん粉の原料となり得る農産物としては、キャッサバの他に、トウモロコシやかんしょが生産されている。世界的に最も多くでん粉用原料とされるトウモロコシについて、生産量は大幅に増加しているものの、でん粉への製造設備がないことからコーンスターチは生産されていない。トウモロコシは国内で一部飼料として消費されているが、多くはタイなど近隣国へ、飼料向けに輸出されているとみられる。かんしょについても、でん粉への加工は行われていない。また、でん粉用原料となり得る農作物を輸入し、でん粉を製造することも行われていない。
国内で生産されるでん粉はキャッサバを原料としており、キャッサバ生産量は2015〜2017年にかけて増加傾向にあった(図1)。キャッサバが2018年に減産となったのは、キャッサバよりも市場価格の良いトウモロコシに転作が進んだためとみられる(図2)。
キャッサバは全土で生産されており、バッタンバン州、バンテイメンチェイ州、クラチエ州、パイリン州、ウドンメンチェイ州、コンポントム州、トボーンクモム州、モンドルキリ州が主要な生産州と言える(表1)。前述の通り、収穫したキャッサバをそのまま輸出し、隣国で加工されることが多いため、タイ国境のバッタンバン州、バンテイメンチェイ州が上位2位、ベトナム国境のクラチエ州が第3位の生産量となっている(図3)。なお、生産されているキャッサバは20品種が確認されているが、実際に広く栽培されているのはタイで開発された数品種である。
キャッサバ生産は国内総生産(GDP)の4%を占め、輸出することで外貨を獲得できる主要産業の一つであり、今後、増産と国内外の投資を呼び込むことが期待される分野である。キャッサバの生産や供給を管轄するカンボジア農林水産省(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries)は、キャッサバ供給の安定化のため、作付け前に契約を結んだ相手に生産したキャッサバを納める契約栽培モデルの導入を計画しているが、現時点では、収穫期に各生産者によって生産されたキャッサバをその日の買い取り価格によって、集荷業者や加工業者(現地では通称で「エージェント」と呼ばれる)、または直接、製造業者へ販売する方法が一般的である(詳細は後述)。
主産地のバッタンバン州で約20年キャッサバ栽培を行っている小規模生産者(家族および季節労働者の8人で生産)の事例は以下の通りである。
・栽培面積 2ヘクタール(作付け:11月、収穫:3〜4月)
・キャッサバ販売先 集荷業者:70%、加工業者(エージェント):30%(契約栽培はしておらず、収穫後、集荷業者やエージェント に販売する)
・出荷状態 生キャッサバ100%(乾燥などの加工は行っていない)
・キャッサバの品種 タイで開発された品種
・中央・地方などの政府(行政機関)による支援や指導 なし
・使用している農機 所有しているのはトラックのみ。収穫用の機械は借用(近隣の別の農家から借りてきた農機を使用。農機 は周辺の農家で共同利用している)。
キャッサバの流通について、前述の通り、多くの生産者はでん粉製造業者との契約に基づきキャッサバ生産を行っているわけではなく、収穫したキャッサバの買い手(集荷業者、エージェントまたは製造業者)と数量や価格の条件交渉をして販売先を決定している(図4)。なお、エージェントや製造業者は、タイなどの外国企業が資本参加することも多い。生産者は、国内だけではなく、タイなど隣国に母体のある集荷業者やエージェントへ直接販売する場合も多く見られ、こういった点からも外国資本に依存したキャッサバ産業の構造が見て取れる。
生産者は、基本的に小規模な家族経営の生産者であり、その多くは、収穫した生のキャッサバを、その時々の買い取り価格によって選択した集荷業者やエージェントへ販売している。エージェントや製造業者へキャッサバを販売する集荷業者は、生産者が兼業している場合もあり、生産規模が大きくなるにつれ、その傾向は強くなる。これは、でん粉工場への原料搬入に車両が必須であることも理由の一つである。集荷機能も担う生産者は、自ら収穫したキャッサバに加えて、周辺の生産者のものも集荷し、まとめてエージェントまたは製造業者へ販売する。
バッタンバン州の生産者兼集荷業者(家族9人で生産)の一例は以下の通りである。
・栽培面積 5ヘクタール(作付け:10〜11月、収穫:3〜5月)
・キャッサバ販売先 製造業者:60%、エージェント:40%
・中央・地方などの政府(行政機関)による支援や指導 なし
・使用している農機 所有しているのは小型のカット機のみ(写真6)。大型のものは借用。
・周辺の農家からの集荷 1日当たり200〜300トン
でん粉製造工場が直接、生産者から生の状態のキャッサバを原料として購入し、自ら乾燥させる他、エージェントを通じて、乾燥処理済みのキャッサバを調達する例も多く見られる。
キャッサバの収穫期になると、生産者または集荷業者がステーションと呼ばれるエージェントの原料中継場へ、乾燥前の生のキャッサバを持ち込む。ステーションの入口には日々更新される買い取り価格が表示されており、生産者や集荷業者はこれを見て、その日にエージェントへ販売するか否かを判断する(写真7、8)。エージェントは買い取ったキャッサバを敷地内でカットし、天日による乾燥を行った後、国内外のでん粉などの製造業者へ販売する(写真9〜11)。
バッタンバン州のエージェント、VAC NI DA Collecting Stationを一例として示す。
・設立年 2011年
・資本はカンボジア51%、タイ49%。
・ステーション 州内に5カ所(総敷地面積195ヘクタール)
・従業員数 25人(各ステーション5人ずつ)
ステーションでは、タイ向けの乾燥キャッサバを1日当たり200〜300トン生産している。またキャッサバチップは、5カ所のステーション合計で同400〜500トン生産されており、これも全量タイへ輸出される。輸出量は毎年10〜15%増加している。
原料作物であるキャッサバについては農林水産省が管轄している一方、でん粉生産については工業工芸省(Ministry of Industry and Handicraft)が管轄している。ただし、でん粉生産量に関する統計については公表されておらず、今回同省からの情報は得られなかった。しかし、バッタンバン大学キャッサバ生産支援研究室が関係省庁や企業などにタピオカでん粉の販売状況について聞き取りを行い、タピオカでん粉生産量を推計している。これによると、2018年のタピオカでん粉の生産量は24万1122トンとみられる。
でん粉製造は、主に9社によって行われている(表2)。この9社は、それぞれ1カ所ずつ製造拠点を持ち生産を行っている。最近、中国をはじめとする外国資本によるキャッサバ産業への投資は拡大しており、キャッサバ産業は変化の時を迎えている。
いずれも設立は2008年以降であり、この9社のうち1社が国内で唯一、天然でん粉に加え、化工でん粉の製造設備を持っているものの、現地聞き取りによると、現在、異性化糖の生産を停止しているとのことである。なお、同社の化工でん粉の製造能力も大きくないものとみられる。また、糖化製品については、国内で製造している企業はみられない。
前述の通り、キャッサバは主要農産物として生産されているものの、国内で、でん粉などへ加工する製造設備や技術力が不足していることから、隣国のタイやベトナムへ、生かカット、乾燥といった単純な加工をしたのみで、でん粉用原料として輸出されている。このデメリットとして、キャッサバの価格が低く抑えられ、生産者が受け取れる利益が少ないことなどが挙げられる。政府としても、でん粉など付加価値を持たせた商品の製造、輸出を実現するため、外国企業による投資に期待している。
生産されたでん粉について、国内の需要はわずかであることから、多くは輸出され、国外で原料として利用される。この背景として、でん粉を使用する国内の食品メーカーは外国企業であることが多いことが挙げられる。これらのメーカーは、複数の国で生産を行っているため、独自の調達ルートで一括して購入した原料をカンボジアへ輸入し利用するのが一般的であるとみられる。
輸入品を含む一般的なでん粉の消費は多くはなく、プノンペンなど大都市においては、スーパーマーケットやショッピングモールの普及が進んでいるものの、数は限られる。さらにこれらの客層は、外国人や富裕層が主であり、外国産のでん粉や糖化製品が販売されているものの、カンボジアのでん粉消費のごく一部を占めるにすぎない。なお、カンボジアで広く食べられているタピオカでん粉を使った「サゴ」についてはコラムで詳しく述べる。
コラム タピオカでん粉を原料とするカンボジアの「サゴ」カンボジアでは、中小規模のでん粉製造業者によって生産される「サゴ」と呼ばれるタピオカでん粉を原料とした食品がある。なお、東南アジアの国々で見られるサゴやしを原料とするサゴでん粉とは異なるものである。でん粉と言えばこの「サゴ」というくらいカンボジアの人々にとって、身近な食品である。町の雑貨店や市場で簡単に手に入り、原材料、賞味期限や製造元の表示などはなく、ポリ袋に入れられた状態で量り売りされている(コラム−写真1)。白い粒状のものや色素でカラフルに着色された棒状のものなど形状はさまざまだが、一般的に、屋台などでココナッツミルクや砂糖、果物などと組み合わせてデザートとして食べられる(コラム−写真2)。一般的なカンボジアの人々にとって、粉末のタピオカでん粉よりもこのサゴの方が身近で販売量は多いと思われるものの、生産量や販売額などのデータは存在しない。 |
世界的に見ると量はまだ少ないものの、キャッサバおよびキャッサバ加工品の輸出量は増加傾向にあり、2017年は前年比6.9%増の386万4635トンとなった(図5)。このうち、乾燥キャッサバが7割超、生キャッサバが約2割を占める。輸出単価としては、生キャッサバが1トン当たり60ドル(6540円)である一方、乾燥キャッサバが同160ドル(1万7440円)と、大きな差が見られるため、輸出額ベースで見ると乾燥キャッサバが占める割合が大きく増える。なお、輸出の多くはタイ向けであり、タイ側にとってもカンボジアは最大のキャッサバ輸入元である(図6)。しかし、タイはキャッサバ生産量が3000万トン弱あることから、カンボジア産キャッサバがタピオカでん粉に利用されている量は一部にとどまるとみられる。
2017年のタピオカでん粉の輸出量は7万8986トンとわずかであるが、2015年の3万トン台と比べると大きく増加していることが分かる(表3)。タピオカでん粉の輸出先としては、過半を中国が占め、インド、タイが続く。過去3年間の輸出先の推移を見ると、大半を占めるのが中国であるのは変わりがないが、インド向けが徐々に増加していることが分かる。なお、日本向けの輸出は行われていない。