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中国のでん粉需給動向

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最終更新日:2020年12月10日

中国のでん粉需給動向

2020年12月

中国農業大学 経済管理学院 楊ト瑩、司偉

【要約】

 中国のでん粉生産は、コーンスターチを中心に拡大している。需要は主にでん粉糖、製紙および食品向けで大きく増加している状況にあり、国内の旺盛な需要に応えるため、タイ産のタピオカでん粉を中心に輸入が急速に拡大している。一方、輸出量は輸入量と比較し少ないものの、主力であるコーンスターチのインドネシア向け輸出割合が緩やかに拡大している。

はじめに

 中国のでん粉は主にトウモロコシ、ばれいしょ、キャッサバおよびかんしょを原料としており(写真)、中国農産品加工年鑑などによると、総生産量は2017年に2720万トンに達した。総生産量に占めるコーンスターチの生産量の割合は95.4%であり、世界最大となっている。本報告では、世界のでん粉需給に大きな影響を及ぼす中国のでん粉需給および貿易の状況について、2001年以降の動向を概観する。なお、本稿中の為替レートは2020年10月末日のTTS相場であり、1米ドル=106円(105.60円)である。

 

1.でん粉の生産動向

(1)でん粉の総生産量の推移

 2001〜2017年にかけて、中国のでん粉生産は順調に拡大し、生産量は2001年の568万トンから2017年には約4.8倍の2720万トンまで増加した(表1)。

 年別に見ると、2001〜2008年は生産の急増期に当たり、2005年に生産量は1000万トンを超えた。その後、2009〜2015年は伸びが鈍化し、2009年および2014年に生産量はそれぞれ前年比0.8%減、同7.7%減となった。中でも2014年の著しい減産は、主にコーンスターチ産業の苦境と国内需要の低迷によるものであった。

 2014年は、過去数年間にわたるトウモロコシ臨時備蓄制度(注)などが実施されたことにより、原料価格が高止まりしたことでコーンスターチの製造コストが上昇した他、中国の経済成長率が低下し、(1)食品産業における需要の鈍化(2)製紙産業の低迷(3)アルコール産業や化学産業における製造コストの上昇による輸出の鈍化−によって、あらゆる産業ででん粉の需要が減少した。

 しかし、2016年以降は再び成長期に入り、2017年に生産量は2720万トン(前年比15.5%増)と3000万トンに迫る勢いを見せている。

(注)トウモロコシの安定供給を確保するため、中国政府が北部4地域(黒竜江省、吉林省、遼寧省および内モンゴル自治区)を対象に、供給過剰であったトウモロコシを最低買付価格で購入し、備蓄する制度(2008年開始)。最低買付価格により農家は安定した利益を得ることができたが、市場価格との格差が生じ、在庫が積み上がった。

 

(2)種類別でん粉の生産割合の推移

 でん粉の総生産量に占めるコーンスターチの生産量の割合は、2000年初頭は80%台後半を維持、2004年以降は90%台で推移し、2017年は95.4%となった(表1、図1)。

 一方で、タピオカでん粉の生産量の割合は2001年に7.7%であったが、2010年に2%を割り、一旦反転したものの、2015年には1.7%と初めてばれいしょでん粉の生産量の割合(1.9%)を下回ることとなった。この変化は主にキャッサバの供給不足(注)などを受けて、過去4年間でタピオカでん粉の製造コストが高騰したことによるものであった。さらに2017年には、タピオカでん粉の生産量の割合は1.2%まで低下した。これは同年末の多雨の影響により主要輸入相手国であるタイやベトナムでキャッサバの生産量が落ち込んだとともに、当時はエタノールの市場価格が高騰したことで、キャッサバが主に高収益の見込めるバイオエタノール産業などに流れてしまったことが要因として挙げられる。

 ばれいしょでん粉の生産量の割合はおおむね2%程度と低いが、変動幅は小さく、2015年以降は低迷するタピオカでん粉を上回る年も出ている。

 また、かんしょでん粉の生産量の割合は2001年に0.1%であったものの、2014年には1.2%へ伸びている。2015年以降は1.0%前後で安定して推移しており、近年でみるとタピオカ、ばれいしょおよびかんしょの各でん粉でコーンスターチ以外のシェアを分け合う状況となっている。

 なお、小麦でん粉などの生産量の割合は年により変動が大きく、2003年は5.9%であったものが、2006年以降は1%未満で推移している。

(注)中国はキャッサバの80%程度を輸入に依存しているため、中国の農家の価格交渉力は低く、原料供給が不安定なことを背景に国内産タピオカでん粉の販売価格は長らく低迷していた。キャッサバの買い上げ価格が安いことで農家はキャッサバの積極的な栽培を手控えるようになり、作付面積が減少したことで、「キャッサバ・サイクル」の低調期に入ることとなった。

 

(3)種類別でん粉の生産量の推移

 上述のとおり、中国のでん粉生産はコーンスターチが筆頭となっており、コーンスターチの増産に伴いでん粉の総生産量は増加傾向にある(図2)。コーンスターチの生産量の推移を見ると、2001〜2013年は13年連続で増加し、2014年は原料価格の高騰などにより減産となったものの、2015年以降は再び増加に転じていることが分かる。

 タピオカでん粉の生産量の推移を見ると、2005年〜2008年は4年連続で増加したものの、2009年は干ばつの影響によりキャッサバが減産し、でん粉含有率も低下したことから、大幅に落ち込んだ(図3)。2010年もASEAN産のタピオカでん粉輸入が無税となり(注1)中国の生産量はさらに落ち込んだ。タピオカでん粉の生産量は長らくコーンスターチに次ぐ第2位であったが、2015年に初めてばれいしょでん粉を下回り第3位に転じている。

 ばれいしょでん粉の生産量の推移を見ると、2009年に大幅に減少しているが、これは2008年の世界金融危機の影響でばれいしょを含む多くの農産物で需要が減少し、ばれいしょの作付面積も減少したことや、2009年秋に収穫されたばれいしょが天候不順により不作であったことが主な要因であると考えられる。原料減による価格上昇を受け、2010年のばれいしょの作付面積は増加し、またEU産ばれいしょでん粉へのアンチダンピング課税(注2)による国内産業の保護なども背景に、2011年には58万トンまで増加し、近年もおおむね増加傾向で推移している。

 かんしょでん粉の生産量も増加傾向で推移しており、2001年に0.5万トンであったものの、2017年には26万トンまで増加した。小麦でん粉などの生産量は全体的に減少傾向にあるが、変動幅はわずかである。

(注1)中国は2002年にASEAN10カ国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーおよびベトナム)と自由貿易協定(FTA)を締結し、2010年にはそのうちの6カ国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポールおよびタイ)について、でん粉製品を含む9割以上の製品における関税を撤廃した。
(注2)中国は、2007年2月からEU産ばれいしょでん粉に対してアンチダンピング関税を課している。この措置の対象期間は5年ごとに見直されることとなっており、これまでに3回延長されている。

 

 

2.でん粉の需要動向

(1)需要量の推移

 中国でん粉産業協会(注1)によると、でん粉の需要量は2014年に1756万トンであったものの、2018年には約1.5倍の2599万トンまで増加した(図4)。2016年に初めて2000万トンを突破しており、それ以降はでん粉糖(注2)や製紙向けなどの需要が激増したことから、中国のでん粉の需要量は大幅に伸びている状況である。

(注1)中国でん粉産業協会(China Starch Industry Association)は、でん粉、化工でん粉、糖化製品の製造企業が構成する団体。
(注2)中国では、さまざまな種類のでん粉糖(主な原料はコーンスターチやいもでん粉など)があり、すでに30種類余りの製品が開発されている。物理的性状からは、固形と液体に分けることができる。固形のでん粉糖は、結晶ぶどう糖、マルトデキストリン、オリゴ糖などがあり、液状でん粉糖は、水あめ、異性化糖、高果糖液糖などがある。

 

(2)用途別動向

 でん粉の需要量を用途別に見ると、でん粉糖が需要量全体の57〜63%と最も多くを占め、2018年は1489万トン(前年比0.3%増)に達した。続く製紙および食品においてもでん粉の需要が旺盛であり、同年はそれぞれ347万トン(同59.2%増)、207万トン(同20.3%増)とともに大幅に増加した。その他、アルコール、化学および化工でん粉は、90万〜170万トンで安定して推移している。

3.でん粉の貿易動向

(1)輸出入量の推移

 2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以降、中国のでん粉貿易は拡大傾向にある。しかし、輸入量と輸出量の差となる純輸入量を見ると、2018年は輸出量の増加により減少したものの、おおむね拡大している状況にある(図5)。

 輸出入量の推移を詳細に見ると、輸入量は2001年に20万トンであったが、2009年以降に急速な増加を遂げ、2012年に初めて100万トンを突破し、2017年には過去最高の235万トンに達した。これに対し、輸出量は輸入量と対照的な動きを見せており、2001年以降、緩やかに増加を続けて2008年に54万トンに達したものの、2014年には10万トンまで落ち込み、以降は緩やかに増加している。その結果、中国のでん粉の輸出入量の間には大きな差が生じ、2017年に輸入量が輸出量を205万トン、翌年には150万トン上回ることとなった。

 

(2)主要貿易相手国

ア 主要輸入相手国

 
中国は主にタイおよびベトナムからはタピオカでん粉を、オランダからはばれいしょでん粉などを輸入しており、この3カ国で輸入量全体の80%以上を占め、近年では95%以上を占めるまで至っているが、国別の推移を見ると、タイのシェアが大幅に拡大している(表2、図6)。

 2001〜2006年では、タイとベトナムがそれぞれ40%程度、オランダが3〜10%程度のシェアであった。しかし、2007年からはタイがベトナムを抜いて首位となり、2018年にタイのシェアは77.4%となった。これに対し、ベトナムのシェアは下降を続け、2018年にはわずか16.9%となった。オランダのシェアも顕著に下落しており、2011年以降は0.5〜1.8%の範囲にとどまっている。

 

 

 

イ 主要輸出相手国

 中国産でん粉の主要輸出相手国はインドネシア、韓国およびフィリピンで、この3カ国で輸出量全体の46〜72%を占めている(表2、図7)。

 中でもインドネシアは、2008年に韓国を抜いて最大の輸出相手国(輸出量ベース)となり、2018年のでん粉輸出額は1億米ドル(106億円)に達した。インドネシアではコーンスターチの需要が年々増加しており(注1)、また安価な中国産コーンスターチが国際的に価格競争力を増す状況においては、今後もインドネシアは巨大な市場になり得るとみられる。

 一方、韓国向けの輸出量は急速に減少しており、シェアは2001年の53.5%から2018年には7.9%へ落ち込んだ。国際貿易センター(ITC)(注2)によると、韓国ではばれいしょでん粉とタピオカでん粉の需要が高く、そのうち同国が輸入するでん粉の50%以上をばれいしょでん粉が占めている。しかし、2001年以降、中国のばれいしょでん粉とタピオカでん粉の生産量は自国内の需要量を満たすことさえ困難な状況にあり、また国際市場における競争力も高いとは言えない状況にある。このような状況において、韓国はばれいしょでん粉の輸入先をドイツ、ポーランドおよびデンマークといったEU諸国に転じる一方、タピオカでん粉はタイおよびベトナムといった近隣のアジア諸国から輸入するようになった。この結果、韓国への中国産でん粉の輸出量は急速に減少することとなった。

 また、フィリピン向けの輸出量は比較的安定しており、2012〜2017年のシェアは0.9〜3.4%へ落ち込んだものの、それ以外の年ではおおむね10%前後で推移している。

(注1)2018年にインドネシアが輸入したでん粉のうち、コーンスターチが輸入総額の37.2%と多くを占めた。
(注2)国際貿易センターはWTOと国際連合との共同機関であり、開発途上国の中小企業を対象に技術協力などを行っている。

(3)輸出入品目

 中国の主要な輸入品目はタピオカでん粉およびばれいしょでん粉であり、近年の輸入量全体に占めるタピオカでん粉の割合は常に80%以上となっている(図8)。一方、ばれいしょでん粉が占める割合は2005年および2010年に15%前後であったものの、2011年以降は2〜3%で推移している。

 一方、主要な輸出品目を見ると、首位にあるのはコーンスターチである。輸出量全体に占めるコーンスターチの割合は近年、常に50%以上であり、2018年には91%に達している(図9)。これに対して、小麦でん粉の割合は2004年の10%をピークに、ばれいしょでん粉の割合は2007年の6%をピークに、ともに近年は減少傾向で推移している。

 

 

4.結論

(1)でん粉の生産量はコーンスターチを中心に増加

 中国のでん粉生産は、(1)2001年から8年連続で急成長(2)2014年にコーンスターチの製造コストの上昇や国内需要の低下により鈍化(3)2016年以降にさらなる成長−の段階を経て、2017年に生産量は2720万トンに達した(2001年から2152万トン増加)。このうちコーンスターチの生産量が最も多く、でん粉の総生産量に占める割合は95.4%となった。残りのうち、タピオカでん粉の生産量は原料の供給不足などを受けて減少した一方、ばれいしょでん粉およびかんしょでん粉の生産量は増加した。

(2)でん粉の需要量はでん粉糖を中心に増加

 でん粉の需要量は2014〜2018年の5年間で着実に増加し、2018年に2599万トンとなった(2014年から843万トン増加)。中でも消費の主力であるでん粉糖、製紙および食品向けの需要量が増加しており、その他の用途(アルコール、化学、化工でん粉、医薬品など)の需要量に大きな変化は見られず、安定して推移している。

(3)でん粉の輸入量は輸出量を大幅に上回り推移

 旺盛な需要に応えるため、中国のでん粉の輸入量は増加し続けている。輸入量は2001年に20万トンであったものの、2012年に100万トン、2016年に200万トンを突破した。

 主要輸入相手国はタイ、ベトナムおよびオランダで、中でもタイのでん粉のシェアが2018年には77.4%まで拡大している。輸入品目は国内の生産不足を補うため、タピオカでん粉が変わらず首位となっている。輸出量は輸入量ほど多くないものの世界のでん粉市場の約3%を占めており、コーンスターチを中心にインドネシア向けの輸出割合が緩やかに拡大している。

参考文献

1)郷村科技(2015)「三因素致玉米淀粉行?陷困境(コーンスターチ産業苦境の3つの要因)」
2)泰中木薯淀粉(2017)「淀粉狗分析的漲价原因(価格上昇の要因分析)」

 <https://mp.weixin.qq.com/s/RXJjHdqtgKrKU6uUn3qdgA>
 (2020/11/25アクセス)

 
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