クリーンラベルのトレンドとクリーンラベル食品用でん粉製品
最終更新日:2021年4月9日
クリーンラベルのトレンドとクリーンラベル食品用でん粉製品
2021年4月
イングレディオン・ジャパン株式会社 食品マーケティング部 部長 千葉 崇
はじめに
1990年代から海外の食品市場において「クリーンラベル」と表現されるトレンドが注目されるようになってきており、徐々にではあるが日本にも定着しつつある。本稿では、そのトレンドを紹介するとともに、これに対応したでん粉製品について解説する。
1. クリーンラベルのトレンドとは?
クリーンラベルとは、消費者の嗜好のトレンドである。その名の示す通り、食品パッケージの表示内容が明確で分かりやすいこと、またはその表示の仕方が簡潔であることを望むトレンドである。クリーンラベルが広がり始めたきっかけは1980年代後半の英国におけるBSEの発生による食品安全に対する意識の高まりともいわれ、加工食品一般の使用原材料を安全、安心の観点から見直し、分かりやすい表示に変えていこうというトレンドである。添加物不使用の食品、非遺伝子組み換え原料を採用した食品もクリーンラベル製品と呼ぶことができるが、国際的に共通の定義というものは存在せず、その考え方は時代の流れと共に少しずつ変わってきている。イングレディオン・ジャパン株式会社(以下「イングレディオン」という)は現在、食品が以下の項目を一つでもクリアする場合、クリーンラベル食品と呼んでよいものと考えている。
(1)消費者に分かりやすいシンプルな原材料配合である
(2)化学合成された食品添加物は使用されていない
(3)最低限かつトラディショナルな調理工程を経ている
さらに最近では、以下の項目も重要なクリーンラベルの要素になっている。
(1)消費者に受け入れられる原材料のみ使用している
(2)人工的な響き、あるいは誤解を招くような表示の素材を含まない
(3)遺伝子組み換え原料を含まない
(4)製品の特長表示と使用原料との間に齟齬がない
このほか、ナチュラル、オーガニックなどもクリーンラベル表示の範疇と考えられる。実際の市場を見ると、クリーンラベルを志向する食品には、「ナチュラル」「オーガニック」「保存料不使用」「添加物不使用」「非遺伝子組み換え原料使用」などがラベル表示されていることが多い。この中で「ナチュラル」もクリーンラベル同様、国際的に共通の定義はないが、英国、フランスなど一部の国ではガイドラインが示され、表示に起因する混乱を避ける動きが見られる。
最近のグローバル市場を見ても、クリーンラベルを掲げる製品の数は大きなシェアを占めていることが分かる。図1は2019年と2020年(それぞれ1月〜5月)に新製品として発売された製品に表示されたラベルのうち、健康に関するラベル表示を分析した結果である。健康に関するラベル表示のトップ5のうち、図1中赤枠で囲んだ三つまでがクリーンラベルに関連するものとなっており、さらにトップの「添加物/保存料不使用」表示を含む新製品は総発売数の30% 以上を占めていることが分かる。
2.アジア、日本の消費者とクリーンラベル
イングレディオンでは2011年より8回にわたりグローバル規模(世界37カ国、うちアジア12カ国)の消費者動向調査を実施し、クリーンラベルトレンドの変化の把握に努めている。以下にそのデータの一部を紹介する。
図2は世界各地および日本において、「既知の原材料が表示されていることを重視する」と回答した消費者の割合(上段)、「短くシンプルな表示を重視する」と回答した消費者の割合(下段)を示したものである。いずれの指標もほぼ全世界で70% を超えており、原材料のラベル表示が重視される傾向が世界的なものであることが分かる。
図3はアジア11カ国および日本で店頭における消費者の商品購買動機を調査した結果である。購買を決める最大の要素はやはり価格であるが、2位以下に原材料表示、栄養成分表示、添加物不使用などのクリーンラベルの条件を示す強調表示が続いており、クリーンラベルに対する関心の高さがうかがえる。ただし日本においては原料原産国表示が価格の次に重視され、クリーンラベル表示を上回るという特徴が見られる。また、2020年10月の最新の調査においては、原料原産国表示のほか製造者・ブランドを重視する傾向がアジア全体でも強まっており、さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、製品製造や供給の透明性、信頼性がこれまで以上に製品購買決定の基準の中で重要な位置になりつつあることが明らかになった。
また図4はクリーンラベルであってほしい食品のカテゴリーを調査したものである。アジア全体において重視されるカテゴリーがベビーフード、乳製品、畜肉製品、シリアル、調理済み食品であるのに対し、日本では畜肉製品、乳製品、ベビーフード、飲料、べーカリー製品の順となり、大きく異なっている。この中で特に、アジア市場で畜肉製品の上昇が大きくなっていることが注目される。このカテゴリーには近年急成長している畜肉代替製品が含まれており、このような最先端の製品においても、クリーンラベル対応が望まれていることが示唆されている可能性がある。
以上のようにクリーンラベル製品はすでにグローバルにマーケットシェアを確保し、しかもそれを消費者が支持している一方で、クリーンラベル化を期待する食品カテゴリーは各国で異なっている。クリーンラベル製品を導入することでターゲット市場におけるシェア拡大が見込めるが、導入検討時には十分なリサーチを行い、各国の消費者の期待を裏切らない製品の開発が必要である。
3.クリーンラベル食品用でん粉の開発
イングレディオンは、海外市場においてクリーンラベルのトレンドが市場に顕在化し始めた当初より、原材料表示において食品として表示することができ、かつ加工でん粉の機能性を持ったでん粉製品を開発してきた。これは特に欧州において、早くから加工でん粉が食品添加物として広く流通しており、その機能性を維持しつつクリーンラベルのトレンドに適応している食品素材が望まれていたからである。イングレディオンのクリーンラベル食品用でん粉「ノベーション」は、そのような背景から生まれた製品であり、食品への粘度付与、照りツヤの向上、保水力の強化、加工耐性など、加工でん粉の持つ機能を実現し、かつでん粉の自然な味わいを併せ持ち、さらに原材料表示において「でん粉」と分かりやすい表示ができる食品素材である。
ノベーションの機能性は原料となる生でん粉に乾熱処理(低水分、高温下で熱処理)することで付加される。熱処理という物理的な加工をすることででん粉粒の結晶構造が変化、あたかも架橋処理をしたかのような耐熱性、耐酸性、攪拌耐性が備わる。またこの熱処理の時間を調整することで架橋の度合い、すなわち粘度強度を変化させることができ、原料(とうもろこし、タピオカ、ばれいしょなど)を変更することで由来原料特有の食感を生かすことができる。
また、遺伝子操作しない従来の育種方法で品種改良を重ねることで、老化耐性を付与された原料でん粉を用いた高機能タイプの製品として、「ノベーション・ルミナ」も開発した。これまでのノベーションに比べ優れた老化耐性、フレーバーリリース(注)とナチュラルな色合いを実現したところが特徴である。ノベーション・ルミナの登場により、クリーンラベル冷凍食品やチルド食品において、冷解凍を繰り返しても老化による離水や白濁が生じにくくなるとともに、食品本来の姿を生かしながら、求められる食感の付与が可能となった。
イングレディオンはさらに老化に強いワキシータピオカ(もち種のキャッサバ由来のでん粉)をクリーンラベルでん粉として開発した「ホームクラフト・クリエイト」を導入した。ワキシータピオカは老化しにくいアミロペクチンのみで構成されるでん粉であり、このためホームクラフト・クリエイトは老化耐性に優れ、さらにワキシータピオカ特有のなめらかな食感を有する。クリーンラベル実現をサポートする全くの新素材である。
(注)飲食中に感じる香りの強さや広がり方のことを指し、食品のおいしさや風味の良さに影響を与える。
4. クリーンラベル食品用でん粉の主な特徴
ノベーション、ノベーション・ルミナ、ホームクラフト・クリ工イトは以下の特徴がある。
(1)食品でん粉であり、ラベル上「でん粉」とシンプルに表示ができる。添加物を嫌い、安全、安心を志向する「クリーンラベル」製品に非常に適した製品である。
(2)原料でん粉には遺伝子操作された原料を一切使用していない。
(3)すでにベビーフード、高齢者食品、調理済み食品、総菜など世界中で幅広く使用されており、その安全性、汎用性が証明されている。
(4)従来の加工でん粉と同様の機能が期待できる。レギュラータイプのノべーションであれば耐熱・耐酸・撹拌耐性の付与、さらにノベーション・ルミナ、ホームクラフト・クリ工イトであれば老化耐性も付与される。通常の調理のほかレトルトや冷凍など、さまざまな加工方法に対応可能である。
(5)糊感が少なく自然な食感を付与する。化学的には加工されていないノベーション、ノベーション・ルミナ、ホームクラフト・クリ工イトは、でん粉以外の原材料の風味をそのまま引き立て、香り立ちの良い、自然な味わいの食品作りが可能である。
(6)加工でん粉と同等の加工耐性があり、使用方法も同じ、置き換えもスムーズである。
表は現在日本で取り扱いのあるノベーション、ノベーション・ルミナ、ホームクラフト・クリエイトシリーズの特徴をまとめたものである。使用したい食品に求められる物性、加工耐性、老化耐性の違いによって選択可能な、幅広い品ぞろえとなっている。
おわりに
クリーンラベルは今後も世界的な拡大が期待される食品のトレンドであり、低成長の続く日本の食品業界においても、差別化のための一つの対応策としてさらに注目されることが期待される。イングレディオンでは本稿前半で紹介したグローバル規模の市場調査を継続、結果を公開しながら、後半で紹介したクリーンラベル食品向けのでん粉製品を拡充、具体的な製品設計を提案している。これらの情報、製品、提案によってさらに差別化されたイノベーティブな食品が発売されることで、日本の加工食品市場がより多様で豊かなものになることを期待する。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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