種いも圃場における線虫発生を防ぐため、輪作の維持、農家の種いも生産特化(オランダ、フランス)や種いも生産農家を団地化し物理的に隔離する(フランス)などの対策が取られている。また、検査機関により認証された種いもが使用されている。
EU指令では種いも生産に関わる検査は国家が認証した機関が実施すると規定されており、オランダでは民間出資による非政府機関NAKにより行われている。フランスもオランダ同様、ブルタニープラントなどの非政府機関が検査を実施している。一方、スコットランドでは政府機関であるSASAが同様の役割を担っている。
種いも認証機関では植物検診、土壌検診、収穫物ロットの検査を行う。土壌検診は種いも生産における重要な防除対策であり、植え付け前の検診で線虫(Gr、Gp)非検出の圃場のみ生産が許可される。日本と大きく異なる点は、線虫検出履歴がある圃場でも、防除対策後に再度検査を行い非検出となった場合は再び種いもの生産が可能になることである。線虫のまん延を予防しながら、種いも生産に必要な圃場面積を確保するための対策と考えられる。
今回私たちはNAK(オランダ)とSASA(スコットランド)の2機関を訪問し、土壌からシストを分離する作業を見学した。土壌検診の主な流れは、(1)土壌採取(2)シストの分離(3)シストの確認・種の判別(GrかGpかを判定する)―と両国共通ではあるが、個々の作業については、各国の事情に合わせて効率化されている。
たとえば、検診用土壌は1ヘクタールあたり100カ所から採取しなければならず、非常に労力と時間のかかる作業であるが、平坦な土地の多いオランダでは、約半分の圃場でバギーを使って土壌を採取している(写真1)。バギー横にはスコップ(写真1上)と土受け部分(写真1下)がついており、走りながら採取できるため非常に効率がよく、作業者の身体的負担も軽減される。
スコットランドは丘陵地が多くバギーが入れる圃場が少ないため、手作業で土壌を採取している。手作りの器具は洗浄しやすい単純なつくりで、採取土壌が直接ビニール袋に入るよう工夫がされており、コンタミ
(注)の危険性が低い(写真2)。
(注)コンタミネーション(他の圃場の土壌が混入すること)。
シストの分離はNAK、SASAとも「Nematode carousel」と呼ばれる機械で半自動的に行っている(写真3)。「Carousel」とはメリーゴーラウンドのことで、円形に配置した容器に土壌サンプルを一つずつ入れ、一周する間に土壌からシストを分離している。最初に土壌を入れるのと最後にシストをふるいからろ紙に移す作業以外は自動化されており、1日に700点のサンプルを処理可能である。
NAKではシストの確認は基本的に顕微鏡での観察により行う。シストが見つかったサンプルのみPCRによる種の判別を実施している。一方、SASAではすべてのサンプルからDNAを抽出して定量PCRに供試し、非検出、Grのみ検出、Gpのみ検出、両種検出の判定を行っている。定量PCR法では作業が自動化されるため人件費が抑えられ、GrとGpが混発している場合はどちらが優占しているかも分かるなどのメリットがある。