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豪州のでん粉需給について 〜化工でん粉と小麦でん粉〜

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最終更新日:2022年6月10日

豪州のでん粉需給について 〜化工でん粉と小麦でん粉〜

2022年6月

調査情報部


【要約】

 豪州では、主に小麦を原料としてでん粉が生産されており、日本にとって豪州は化工でん粉の主要な輸入国の一つである。近年、同国では大規模な干ばつが頻発したことで、農業生産は大きな影響を受けている。また、同国は農産物の輸出大国であり、近隣のアジア諸国からの需要の増加や同国政府による輸出先の拡大戦略に対する助成などを受けて、小麦でん粉および化工でん粉の輸出量は近年、増加傾向で推移している。

はじめに

 豪州にとって日本は化工でん粉の最大の輸出先であり、また、日本にとっても豪州は化工でん粉の主な輸入先の一つである。2019年の日本の化工でん粉輸入量を国別に見ると、豪州は1万4951トンと全体の3%を占め、タイ、ベトナム、中国、フランスに次ぐ第5位の輸入先であった(図1)。過去10年間の輸入量も1年当たり1万2000〜1万6000トン台で安定して推移している。

 なお、2019年の日本のコーンスターチ輸入量を国別に見ると、豪州は韓国に次ぐ701トンで、日本が輸入するコーンスターチのうち21%を占める主要輸入先であった(詳細は後述:図2)。

 豪州では、主に小麦を原料として天然でん粉および化工でん粉が生産されている。近年、アジア諸国からの需要が増す中で、同国からの天然でん粉および化工でん粉の輸出量は、増加傾向で推移している。このため、本稿では、日本のでん粉需給に影響を及ぼす豪州のでん粉産業の概要について、最新の生産、輸出動向などを交えながら報告する。なお、本稿中の為替レートは2022年4月末日TTS相場(注)であり、1豪ドル=93.70円を使用した。

(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の月末TTS相場。
 

 

 

1 でん粉原料用作物の生産動向

(1)小麦

 豪州では、でん粉原料用作物として小麦が多く栽培されている。なお、以前はトウモロコシからコーンスターチも生産されていたものの、トウモロコシの生産量が少なく、価格が高かったことから、生産量の多い小麦が同国の主要なでん粉原料用作物となっている(図3、4、写真1、2)。

 

 

 

 

 同国の小麦の生産量の推移を見ると、2009/10年度(7月〜翌6月)から2011/12年度にかけては順調に増加し、3000万トンに迫る勢いであった(図4)。しかし、2012/13年度は小麦の主産地である西オーストラリア(WA)州で、播種(はしゅ)期に当たる3〜5月に季節外れの大規模な干ばつが発生したことで2286万トン(前年度比23.6%減)と大幅に減少し、その後3年間も2000万トン台前半〜半ばで推移した。2016/17年度は、育成期に平均以上の降雨があり、単収が前年度比30.0%増の1ヘクタール当たり2.6トンとなったことから、生産量も過去最大の3182万トン(同42.8%増)となった。2017/18年度および2018/19年度は、ともに干ばつの影響を受けて大幅に生産量を落とし、2018/19年度は2000万トンを割ることとなった。このように同国の小麦生産量は、大規模な干ばつなど気候変動による影響を大きく受ける傾向にある。

(2)トウモロコシ

 豪州においてトウモロコシはもともとマイナーな作物であったものの、2007年を機に輸入から自給へと舵を切り、現在では綿花との輪作に欠かせない作物となっている。

 同国のトウモロコシ生産量の推移を見ると、2010/11年度(7月〜翌6月)から2012/13年度にかけて、新規参入者数の増加などによりトウモロコシの作付面積は増加し、生産量も50万トンを上回る水準となった。しかし、播種期間中の干ばつなどにより2013/14年度、作付面積は前年度比33.4%減となり、生産量は39万トン(同23.0%減)と大幅に減少した。2014/15年度は、良好な天候により50万トン近くまで回復したものの、その後は減少傾向で推移し、2018/19年度は、主産地である同国東部を中心に発生した大規模な干ばつや、かんがい施設での水不足を受けて、33万トン(同15.5%減)とかなり大きな減少となった(図5、6)。

 同国のトウモロコシは、主に国内消費に仕向けられているものの、近年では、スナック菓子の原料として韓国向けの需要も見られる。

 

 

2 でん粉の生産動向

(1)生産動向

ア.化工でん粉

 
2020年の化工でん粉の生産量は9万トンであり、2010年以降、増加傾向で推移している。国内消費量も同様に増加傾向にある(図7)。消費量が国内生産量を上回るため、不足分は輸入により賄われている。


イ.小麦でん粉

 LMC International(農産物の需給などを調査する英国の民間調査会社)によると、2020年の小麦でん粉の生産量は16万5000トンとなり、2010年以降は増加傾向で推移していたが、2019年から減少傾向となっている(図8)。なお、生産量が国内消費量を大幅に上回っており、生産量の大半は輸出される状況となっている。

 小麦でん粉は、パン、畜産加工品・水産練り製品の原料、調味料のとろみ付けのほか、段ボールの接着剤などさまざまな用途があり、ペースト状にして古書の修繕にも使われる(写真3、4)。


ウ.コーンスターチ

 2018年のコーンスターチの生産量は1万8000トンであったが、同国内で唯一のコーンスターチ製造者であるIngredion社が、豪州での事業を商社事業に集中するとの方針を固め、2019年に施設の操業を停止したため、以降、同国でコーンスターチは生産されていない(注)(図9)。消費量が国内生産量を上回るため、不足分は、輸入によって賄われているものの、国内生産の停止に合わせ、消費量は2019年以降、減少している。コーンスターチは、食用のほかに、ベビーパウダーやアイロン用スプレーのりなどの原料となるなど、用途は幅広い(写真5、6)。

(注)なお、図2の2019年における豪州から日本へ輸入されたコーンスターチは、在庫品や他国からの経由品と想定される。

 

 

 

 

コラム 豪州のばれいしょでん粉生産の可能性
〜廃棄予定のばれいしょの活用〜


 豪州統計局(ABS)によると、同国の2018/19年度(7月〜翌6月)のばれいしょ生産量は約123万トンであり、過去10年間も120万トン前後で比較的安定して推移している(コラム−図)。同国においてばれいしょは、長期保存が可能な安価な食材であり、さまざまな料理に使用される身近な存在となっている。2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による都市封鎖で、巣ごもり需要の増大などを背景に、主に小売業向けで需要が増加した(コラム−写真)。 
 



 同国でばれいしょの需要は堅調であるものの、生産されたばれいしょの4割程度が出荷規格を満たしていないといわれており、同国ではばれいしょでん粉産業が形成されていないことから、それらは主に家畜の飼料として用いられるか、埋め立て処分されている状況にある。これを受けて、2020年に同国のばれいしょ関連企業および業界団体ならびにアデレード大学は共同で、廃棄予定のばれいしょを有効活用し、ばれいしょ関連産業の発展と食品廃棄物の削減を目指すプロジェクトを発表した。

 本プロジェクトには100万豪ドル(9370万円)近くが投資されることとなっており、廃棄予定のばれいしょをでん粉など高付加価値商品に転換することによって、廃棄物を1年当たり最大10万トン削減することを目指している。南オーストラリア州ばれいしょ協会の最高責任者は、本プロジェクトにより、豪州のばれいしょでん粉産業が発展し、同国のばれいしょ関連企業にさらなる利益をもたらすだろうと述べている。そして、現在、規格外のばれいしょは1トン当たり0〜10豪ドル(0〜937円)程度で取り引きされるが、ばれいしょでん粉は同1000豪ドル(9万3700円)まで価格が上がる可能性があると述べた。また、ばれいしょでん粉は食品、バイオプラスチック、包装、コーティング剤、接着剤など幅広い分野の原料として活用できることから、副産物であるばれいしょたんぱく質の有効活用にも意欲的に取り組んでいくこととしており、今後のプロジェクトの動向が注目される。
 

(2)主要製造企業の概要

 本調査において、日本向けのでん粉輸出が確認できたのはManildra GroupとAllied Pinnacle社の2社であった(表1)。

 Manildra Groupは、世界最大級の小麦でん粉製造プラントを有し、豪州産小麦を使用し、主に天然でん粉および化工でん粉を製造している。同社のでん粉はアジアおよび北米向けに輸出が拡大されており、日本では主にかまぼこ用のつなぎや壁紙の接着剤の原料として用いられているという。他国での主な用途は、表2のとおりである。

 Allied Pinnacle社は、豪州の食用小麦粉市場でトップとなるシェア4割を誇る企業であり、製粉業を主軸に置きつつ、小麦由来の化工でん粉も製造している。2019年2月から日清製粉グループの傘下となった。
 

 

 

3 でん粉の貿易動向

(1)化工でん粉

 化工でん粉の輸出量を見ると、2010年から2015年にかけておおむね1年当たり1万5000〜2万トンの範囲で推移していたものの、2014年以降FOB(注)価格は下落基調にある。2016年以降は1トン当たり1200米ドルを割る状況が続く中、同年以降は2万7000トン程度で推移している(図10)。最大の輸出先は日本であり、2011年以降、日本向け輸出量は全体の半数以上を占めている。2016年の日本向け輸出量は2万トンに迫り、以降は落ち込みを見せるものの、最大の仕向け量を維持している。

 輸入量を見ると、2015年以降は1年当たり4万トンを超えて推移しており、増加傾向にある(図11)。主な輸入先はタイ、米国、南アフリカであり、日本からの輸入量は全体の中でごくわずかな量に留まっている。

(注)Free On Board:貨物を船に乗せた段階で支払われる取引条件。
 

 

 

(2)小麦でん粉

 小麦でん粉の輸出量を見ると、2010年から2016年まではおおむね1年当たり3万〜6万トンの範囲で推移し、そのうち日本向けは約4000〜7000トン程度を占め、小麦でん粉の主要な輸出先の一つであった(図12)。また、FOB価格は2014年まではおおむね1トン当たり600米ドルで推移していたものが、2015年以降、同500米ドルを割る状態が続き、2016年以降、日本向け輸出量は大幅に減少する中、それとは対照的にインドネシア向け輸出量が大幅に増加することとなった。2019年の輸出量のうち、インドネシア向けは60%近くを占めており、小麦でん粉はインドネシアで主に成長が続く製紙産業で用いられているものとみられる。

 輸入量を見ると、過去10年間ではおおむね1年当たり400〜600トンの範囲で推移している(図13)。輸出量が近年12万トンを超えていることに比べ、輸入量はごくわずかである。
 

 

 

(3)コーンスターチ

 コーンスターチの輸出量を見ると、おおむね1年当たり1500〜2500トンの範囲で推移している(図14)。主要な輸出先はドイツ、英国、中国などである。

 輸入量を見ると、2010年から2018年はおおむね1年当たり9000〜1万6000トンの範囲で推移している(図15)。2018年までの輸入先は主にニュージーランド(NZ)、南アフリカ、中国の3カ国であったが、2019年の国内唯一のコーンスターチ製造企業であったIngredion社の操業停止を受け、同年には安価なトルコ産の輸入量が急増した。
 

 

 

4 農業や輸出関連の支援制度

(1)農業関連の補助制度

 豪州は、世界有数の農産物生産国かつ輸出国であるため、補助金や規制という形ではなく、海外市場へのアクセスを改善することによって農業分野への支援を図っている。

 国内小麦市場は、1989年に完全に自由化されたが、小麦輸出について当初は、世界市場で穀物メジャーと呼ばれる大手専門商社に対抗して有利な価格で販売するためという理由で豪州小麦庁(AWB: Australian Wheat Board ) による輸出独占(シングルデスク)が存続することとされた。しかしながら、輸出に関しても2012年末に完全自由化となった。また、小麦以外のでん粉原料であるトウモロコシ、ばれいしょなどの各種補助金も1995年までにすべて廃止され、所得政策と位置付けられるのは、農場経営預金制度(FMDs: Farm Management Deposit Scheme)のみとなっている。これは、農場経営者が非常時に備えた経営対策資金の積み立てを有利に行えるよう支援する制度である(注)

(注)経営対策資金の積立口座(FMD 口座)を開設し、入金額は当該年の所得税の課税対象から控除され、引き出した年に所得税が発生する仕組み。本口座での入出金を通じ、作況変動による所得の変動を平準化するとともに納税額を縮小することができる。当該納税圧縮分が政府補助と捉えられている。

(2)輸出市場開発助成金

 「輸出市場開発助成金(EMDG:Export Market Development Grants)」は、豪州政府による財政支援プログラムで、中小企業の海外市場の開拓を奨励する取り組みである。EMDGの申請者は、世界中で製品やサービスを展開する際に発生した輸出促進費用の最大50%の助成を受けることができる。助成額と期間は、企業の段階に応じて異なり、初めて輸出をする業者は1会計年度当たり最大4万豪ドル(374万8000円)で2年間、輸出を拡大する企業は同8万豪ドル(749万6000円)で3年間、輸出の拡大のほかに新市場や新規顧客をターゲットとする戦略転換を行う企業は同15万豪ドル(1405万5000円)で3年間となっている。助成対象経費は旅費・通信費、宣伝広告費、展示会活動費などとなり、具体的に対象となる活動は、以下の通りである(表3)。

 

おわりに

 地理的に日本から比較的近い豪州は南半球という地の利を活かした、世界有数の農産物輸出国であり、日本のほか、インドネシアやタイなどアジア向けを中心にでん粉の輸出量を伸ばしている。同国の小麦やトウモロコシ生産は、昨今の気象変動の影響を受け、干ばつや集中豪雨などのリスクを抱えているものの、日本にとって同国は特に化工でん粉の輸入における主要かつ安定的な供給源の一つであるが、近年、同国のでん粉製造企業は海外需要への注力を示している。2021年12月17日には同国と英国間ではFTAの署名がなされ、2022年度内の発効が目指されている。このように今後、同国における自由貿易発展への環境整備が進むことにより、さらに輸出先の多様化が進む可能性があるところ、今後も同国のでん粉生産および輸出動向、そして日本のでん粉需給への影響について注視する必要がある。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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