ホーム > でん粉 > 主要国のでん粉事情 > 中国のかんしょに関する研究報告(前編)
最終更新日:2024年7月10日
ア 生産量と単収の変化
中国はかんしょの主産国であり、作付面積、総生産量ともに世界第一位である。国際連合食糧農業機関(FAO)の統計によると、2020年の中国のかんしょ作付面積は224万9000ヘクタールに達し、総生産量は4919万5000トン、1ヘクタール当たりの単収は21.9トンとされる。これを世界全体と比較すると、平均単収は81%上回り、総作付面積は30%を占め、総生産量は55%を占めることになる。
中国国家統計局およびFAOの資料によると、中国のかんしょ総生産量は1969年に1億トン台に達した後、2005年までの37年間は1億トン台を維持してきた(図1)。しかし、2000年以降は段階的に減少し、20年には4919万5000トンと前年比5.3%の減少になった。
ただし、単収の大幅増により、世界における割合を見ると作付面積の減少率に比べ生産量の減少率は緩やかに推移している(図2)。
この単収の増加は、中国の農業技術の進歩や生産方式などの変化によるものである。1978年の改革開放政策以前は、化学肥料などの生産資材が不足していたため、多くの労働力を投下して単収の向上が図られてきた。しかし、改革開放政策後は、化学肥料の供給や機械化が大幅に進展したことに加え、かんしょの良種育種、品種改良、ウイルスフリー育種などで一連の研究成果が得られるなど、国によるかんしょ生産の技術体系が確立された。また、国が新型経営体(注3)に対して力強い支援を行ったことで、新たな経営体がかんしょ生産に数多く参入し、土地の移転や大規模化、新品種や新技術の導入などを積極的に行った1)。
しかし、近年は中国国内でのかんしょ生産の利益率の低下から、世界全体の生産量や作付面積に対する中国の割合は低下傾向にある。
世界のかんしょ総作付面積に占める中国の割合は、1961年の81%から2020年には30%に減少しており、世界の総生産量に占める中国の割合も、05年までは一貫して80%前後の水準を維持していたものが、現在は55%まで低下した。ただし、世界に占める中国のかんしょ生産量の減少幅が作付面積の減少幅に対して小さいのは、中国のかんしょの単収が世界の平均水準を大きく上回っているためである。中国の単収は、1961年の1ヘクタール当たり7.1トンから2020年には21.9トンと約60年間で3倍に増え、年平均増加率(注4)は1.9%となっている。
(注3)新型経営体(新型農業経営主体)は、家庭農場(家族労働力による大規模、集約的な商業的経営を行う主業的農業者)、農民合作社(農協)などの担い手生産者などを指す。
(注4)年平均増加率=−1
イ かんしょ作付面積の段階別変化
第一段階:中国のかんしょ作付面積は、1961年には1085万ヘクタールに達していた(図3)。当時の農家は、かんしょを主な食料としつつ、販売で生計を維持していたため、全国のかんしょ作付面積は史上最高値に達した。その後、農業生産の条件が改善され、政策によって畑地や耕作不利地が改良されて耕地面積が急速に拡大すると、他の作物の作付面積の拡大によりかんしょの作付面積は縮小し2)、76年には848万ヘクタールに減少した。
第二段階:1978年〜85年は、改革開放政策や世帯別生産請負責任制(注5)の実施により、農民は自主的生産権を取得したことで、小麦、水稲などの主要穀物の生産意欲が急速に伸び、かんしょの作付面積は78年から大幅に下降し、85年には611万ヘクタールに減少した。
第三段階:1985年〜99年は、「粉麺」「春雨」「幅広麺」などを代表とするかんしょ加工産業の発展により、かんしょの生産は新たな発展期を迎えた。これにより、全国のかんしょ作付面積は600万ヘクタール前後で安定的に推移した。
第四段階:2000年から現在までは、都市と農村との間で労働力の流動化が進行したことで、農村の多くの若者や働き盛りの農業従事者が次々と都市部に流出した。このため、機械化率が低く一定の労働力が必要とされたかんしょの作付面積は急速に減少した。また、中国の種子法では、かんしょは「非主要農作物(注6)」に分類され、穀物栽培補助金の対象に含まれていないことも影響し1)、作付面積は2000年から06年の間に200万ヘクタール以上減少した。その後は、07年に国家発展改革委員会が公布した「再生可能エネルギー中長期発展計画」により、かんしょが近い将来、重点的に発展させる燃料用エタノール原料作物とされたことから、08年に農業農村部が第二期の主要農作物現代農業産業技術体系の構築を開始し、江蘇省の蘇州かんしょ研究センターが「国家かんしょ産業技術研究開発センター」に指定された。これにより、かんしょ生産は安定した科学研究経費と技術により維持された3)。しかし、FAOの統計によると、20年の作付面積は225万ヘクタールとされ、直近10年間で100万ヘクタール減少するなどの状況が続いている。
(注5)1978年の改革開放以後行われた、農家が世帯別に集団から配分された土地の経営をすべて請け負う制度であり、一定の食料を国に納めれば余剰作物を自由に売ることができるようになった。
(注6)主要農作物とは、コメ、小麦、トウモロコシ、綿花、大豆を指す。
ア 主産地の地域的分布
中国のかんしょ産地の範囲は広く、東北地域から南の広東省、広西チワン族自治区まで広く分布し、特に四川省、重慶市、広西チワン族自治区、河南省、貴州省、広東省、山東省、湖南省、福建省などに集中している。中でも、四川省、重慶市および広西チワン族自治区の3省(自治区・直轄市)は作付面積が多く、全国に占めるこれら3省の作付面積の割合は44%(2020年)となった。
国内のかんしょ産地は、生産の時期により以下の五つの地域に分けられる(図5)。
・北方の春かんしょ生産地域:遼寧省、吉林省、黒竜江省などの地域で、主にでん粉向けの春かんしょが生産される。
・黄河・淮河流域の春夏かんしょ生産地域:河北省、山東省、山西省、陝西省などの地域で、でん粉向けの春夏かんしょの生産が50%を超える。
イ 主産地の地域的変化
この20年近く、中国の大部分の省・自治区では、かんしょの作付面積は減少を続けてきた(図6)。中でも華東地域と華中地域の減少率が比較的高く、この間に華東地域では69%減少し、華中地域では68%減少した。ただし、かんしょ作付面積が拡大した省も一部にはある。河南省では2010年から15年の間に作付面積が48万5000ヘクタール増加し、広東省と浙江省では同じく20万7000ヘクタール、20万4000ヘクタール、それぞれ増加した。2000年以降、中国ではかんしょ生産の主産地が南方に移り、北方の作付面積は激減した。長江中・下流と南方の作付面積の割合は安定して増加しており、産地は西南、華東、華中、華南などいくつかの地域が並列する従来の状況から西南地域に集積する状況に変化しつつある。
ウ 生産分布変化の要因
(ア)自然条件
さまざまな地域の環境は、かんしょの生産分布につながるものであり、気象条件は、かんしょの作付け時期を左右する要因となっている。かんしょは日が短くなると着花する短日作物であり、高温には強いが低温には弱い。また、根系が発達していることから、乾燥には比較的強く、やせた土地でも生育できるため、主に亜熱帯および温帯の地域の山地および丘陵地形を中心に産地が形成されている。北方の産地は春かんしょが中心であり、寒冷な気候のため、栽培期間は比較的長い。一方、南方の産地は温暖な気候のため、秋冬かんしょの割合が高く栽培期間は比較的短い。
(イ)マクロ経済政策
各地の産業政策は、その地域のかんしょ生産の規模に大きく影響する。2000年に国が公布した「種子法」により、かんしょが主要農作物の指定から除外されたことで、各地の科学研究・育種部門や地方政府がかんしょの重要性を下げ、かんしょ作付面積は大幅に減少した。その後、07年に発布された「再生可能エネルギー中長期発展計画」により、かんしょが燃料用エタノールの原料重点推進作物に指定されたことで、作付面積の漸減傾向は続いているものの、かんしょを活用したアルコール加工業が形成され始めている。
(ウ)市場の需要
市場の需要も、地域のかんしょ生産の構造に直接的に影響する重要な要素の一つであり、かんしょとその加工品の消費や嗜好の変化は、かんしょ産業の発展とその分布を直接的に決定する。中国の南方地域は生食向けかんしょの需要量が比較的多いため、この地域では生食向けの生産が中心となり、北方地域では「粉麺」「春雨」「幅広麺」などのでん粉製品の需要が比較的多いため、加工業の規模拡大が進んでいる。近年、都市や農村住民の健康食品に対する需要が高まっていることに伴い、かんしょを使用した健康食品の開発が注目を集めている。
(エ)生産技術
生産技術の向上も産業の変化につながる重要な要素であり、かんしょ生産の機械化が進めば、労働力を削減でき、また、品種改良やウイルスフリーの育種技術が進めば、生産ロスが低減されることで経済的利益が高まり、経営リスクが抑えられる。江蘇省の徐州かんしょ研究センターで育種されたかんしょ品種「徐薯18」は、既存品種より約4割程度収量が高く、干いもの歩留まりは5割を超える上、温度適応性が高く、耐病性もあることから、急速に普及している。
ア 国際市場占有率
中国は、作付面積、総生産量ともに世界第1位のかんしょ生産国であり、生産の面では絶対的な優位の立場にある。しかし、2020年の国際市場占有率(IMS)(注11)はわずか3%であり、輸出額は米国の9%、オランダの12%にすぎなかった(表2)。
(注11)国際市場占有率(IMS:International Market Share)は、一つの国または地域のある商品の輸出額が世界の当該商品の輸出貿易総額に占める割合を指すものであり、その国または地域のその商品の国際的競争力もしくは競争上の地位の変化を反映する。割合が高ければ高いほど、その商品の輸出競争力は高い。
2000年から20年までの間、中国のIMSは大幅に変動しながら、全体としては低下傾向となった。IMSは、2000年の19%をピークに、04年に17%、18年に10%と2回のピークを迎えたものの、ピークの後にはいずれも急激な下降が起こっている(図8)。
イ 輸出単価
2015年以前の中国のかんしょ輸出単価は比較的安定していたが、15年以降は急速に上昇し、世界の平均単価を大幅に上回った(図9)。その後、19年以降は下落に転じた。FAOの統計によると、20年の中国のかんしょ平均輸出単価は1トン当たり757米ドル(11万9409円)と、世界平均の同870米ドル(13万7234円)を下回った。国別の比較では、米国の同720米ドル(11万3573円)に近く、エジプトの同631米ドル(9万9534円)を上回っていたが、オランダの同1080米ドル(17万359円)、スペインの同1076米ドル(16万9728円)などの欧州諸国よりも低かった。また、ベトナムは同1342米ドル(21万1687円)、日本は同3670米ドル(57万8906円)であり、これら周辺国よりも低かった。他の主要輸出国と比べて、16年以降の中国の輸出価格はかなり大きな変動を見せている。中国の輸出単価が19年に下がった主な理由は、ベトナム向け輸出量が急速に増加したことなどによる。ベトナム向け輸出単価は香港向けに比べて約3分の1と比較的低く、価格の低い地域に対する輸出割合が増えたことで全体の輸出単価の下落につながった。
参考文献
1)陸建珍、汪翔、秦建軍等(2020)「中国かんしょ栽培業の時間的・空間的分布と産業発展に関する提案[J]」『天津農業科学』26(03)pp.53-62.
2)戴起偉、鈕福祥、孫健等(2016)「中国におけるかんしょの生産・消費構造の変化の分析[J]」『中国農業科技導報』18(03)pp.201-209.
3)范澤民、●(「開」のもんがまえを取ったものにおおざと)鳳武、朱玉霊等(2015)「中国におけるかんしょ作付面積曲線の変曲点と影響要素の分析[J]」『安徽農業科学』27(43)pp.309-311, 315.
4)陸建珍、徐雪高、汪翔等(2018)「中国におけるかんしょおよびその加工品の輸出入貿易の現状に関する分析[J]」『江蘇師範大学学報(自然科学版)』36(04)pp.30-35.
5)張嘉欣、張嘉h、李育軍等(2019)「かんしょの栄養と加工の研究の進展[J]」『長江野菜』(02)pp.31-34.
6)馬剣鳳、程金花、汪潔等(2012)「国内外のかんしょ産業の発展概況[J]」『江蘇農業科学』40(12)pp.1-5.