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最終更新日:2010年3月6日
でん粉情報 |
[2009年9月]
【でん粉のあれこれ】国光オブラート株式会社 代表取締役 柴主 徳彦
まず最初に、皆さんは「オブラート」と言う言葉に、どのようなイメージをお持ちでしょうか。よく使われる表現に「オブラートに包んだ言い方」があります。
これは、事件のさまざまな疑惑が覆い隠されたしまった場合や、人間関係で相手の感情を考慮して、真意を包んだ言い方をする場合、直接的な表現を避けて遠回しな言い方をする場合に使われることなど、物事をあいまいにする場合の表現として使われることが多いようです。
しかし、本来のオブラートの使い方は、服薬時の苦味や口中の違和感を和らげたり、アメやゼリー菓子のベタつきを防ぐ、さらにはオブラートが水に溶けた時のトロミで、喉の通りを良くするためのものです。
これら「○○を和らげる」「○○を防ぐ」「○○の通りを良くする」のがオブラートの役割であって、何か都合の悪いものを覆い隠したり、あいまいにするようなものではありませんので、言葉の使われ方について心外に感じることが時々あります。
改めて説明しますが、そもそもオブラートとは、ばれいしょやかんしょのでん粉を糊化(アルファ化)し、それを急速乾燥して造った可食フィルムです。まさに、でん粉とは切っても切り離せないどころか、ほぼ100%に近いでん粉加工食品なのです。世の中にはさまざまなでん粉加工品がありますが、その中でもオブラートは、可食化されたフィルム化という点で特異なものと言えるでしょう。
図1 主なオブラート製品 |
さて、オブラートの歴史について申しますと、キリスト教のミサで使われる聖餅(「せいへい」または「せいべい」と読むようです)が起源で、オランダ語の「oblaat」またはドイツ語の「oblate」が語源になったものと言われています。この聖餅は、丸くて薄いウェハースのようなもので、明治期に、これを使って苦い薬を飲むのに使おうと考えたことが服薬の補助という利用形態の始まりで、現在のオブラートとは異なる、固いものでした。(現在の柔らかいものと比べて「せんべいオブラート」と呼ばれます)その使い方は、当然、今とはかなり違ったもので、以下のようでした。
①まず、皿に水を入れる。
②続いて、オブラートを入れ、水に溶けて柔らかくする。
③柔らかくなったオブラートの上に、薬をのせる。
④溶けたオブラートで、薬を包む。
⑤皿の水ごと、包まれた薬を飲む。
現在の柔らかいオブラートは、三重県の医師、小林政太郎氏が発明したとされ、当時は「柔軟オブラート」と呼ばれました。
これが全国に広まり、現在のオブラートになったのです。
私達、日本人の得意技と言われる「すでにあるものに工夫を加えて、より良いものにする」手法を如実に表したものであると思います。
また、オブラートは日本独自のもので、欧米には同様のものは見かけません。
昔語りで、欧米人に、オブラートに包んだゼリー菓子を渡すと、プラスチックフィルムだと思って剥がそうとし「これは食べられるものだ」と言っても理解してもらえなかったと言う話を聞いた事があります。
ちなみに、オブラートの英訳は「eatable paper」となります。
図2 カップ型に成型したオブラート |
さて、オブラートにはさまざまな性質があります。
一般的には、あまり知られていませんが、オブラートは水には溶けても、油には溶けません。例えば、図3は、この性質を利用してカップ型に成型したオブラートに、チョコレートを流し込んでみたものです。ご覧の通り、オブラートは溶けることなく、チョコレートを包んでいます。
この性質を、いろいろなところに応用する事ができます。その一つとして、油には不溶という性質を利用して、油性インキでオブラートに文字や絵をかくことができます。図4は、オブラートにインクジェットプリンタでイラストを印刷してみたものです。この技術に関する現時点の課題は、「可食性の、油性インキが見つからない」ことです。食べられる油性インキが見つかれば、オブラートの応用分野は、さらに広がるでしょう。
さらに、当社では、数年前に、取引先の協力を得て、オブラートの成型加工に成功しました。
図3 チョコレートを流し込んだカップ型オブラート |
図4 オブラートに印刷されたイラスト |
図5 オブラートの循環図 |
最初に申しました通り、オブラートは、お薬を飲みやすくするほかに、お菓子など食品の包装にも使われております。特にお菓子など食品の包装に使った場合は、食品といっしょに食べられるので捨てる必要がなく、とても環境にやさしい素材です。「経口消費の可食包装材料」として、エコマークに提案したこともあります。
オブラートの成型加工技術は、この分野に新たな一歩を築く始まりになると考えています。
最後に、でん粉に関連する研究は、味覚や難消化性、テクスチャー、保湿性などの特徴を持つ新たな糖質の開発とその効果の検証についての分野が大変進んでいると思いますが、可食フィルムへの応用については、どうでしょうか。可食フィルムの観点からでん粉の構造を解析するためは、糊化の各段階において、電子顕微鏡レベルでの解析が必要ではないかと感じております。近年、長鎖のアミロペクチンの研究が報告されていることなどを考えますと、でん粉には、まだまだ未知の部分が大きいと思います。そして、それは「でん粉は、限りない未来を秘めている」と言うことを示しているのではないでしょうか。
読者の皆様には、今後のでん粉研究の進歩のために、有用な情報をご教示いただければ幸いです。
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