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最終更新日:2010年3月6日
でん粉の適材適所 〜料理による使い分け〜 |
[2010年01月]
【でん粉のあれこれ】実践女子大学 生活科学部 食品学研究室 教授 田島 眞
でん粉はどの家庭の食料保管庫にも常備されているが、その種類は限られているだろう。どの家庭にもあるのは、片栗粉(ばれいしょでん粉)と思う。お菓子つくりに励んでいる家庭なら、コーンスターチ(とうもろこしでん粉)にくず粉(くずでん粉)があるかもしれない。工業的にはこのほかに、かんしょ、米、小麦、キャッサバ(タピオカ)、サゴヤシなどから作られている。ばれいしょ、かんしょ、くず、キャッサバは、地下茎や根にでん粉を蓄積するので「地下でん粉」と呼ばれている。これに対し、米、小麦、とうもろこしは種子にでん粉を蓄積するので「地上でん粉」と呼ばれている。
家庭で常備されている片栗粉、コーンスターチ、くず粉の顕微鏡写真を図1に示した。
図1 ばれいしょでん粉(左)、コーンスターチ(中)、くず粉(右)の顕微鏡写真
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また、各種のでん粉の物理的および化学的特性を表1に示した。ここで調理特性として重要なものは、糊化開始温度と糊化後の粘度である。でん粉は、生のときは結晶構造をもっており、水にも不溶だが、熱をかけていくと結晶構造が壊れ、いわゆる糊となり水にも溶けるようになる。また、消化性も上がる。でん粉は必ず糊にして食するが、糊化温度が低いものほど調理に使いやすい。糊化後の粘度は高いものほど調理にとろみを付けるのに適しており、糊化後の糊の透明度も調理にとって大切である。
表1
各種でん粉の物理的特性 |
では、具体的にでん粉の料理による使い分けを見てみよう。
片栗粉は、調理において最も用途が広い。あんかけのあんやから揚げの衣には欠かせない。
あんかけのあんに適するのは、糊化温度が55〜66℃と低いからである。料理の火を止めた後に、さっと水に懸濁した片栗粉を入れるだけで簡単に糊化することができる。さらに、あんにとって糊化したときに透明であることも重要であるが、片栗粉は料理の素材の色彩を妨げない。さらに、糊化でん粉の粘度が高いためにとろみが持続する。あんかけは、調味料を食材にからめるという役割が大きい。イカや麻婆豆腐の豆腐のように熱をあまりかけたくない料理では、調味料が食材とよくなじんで旨さが増す。また、でん粉は油脂の乳化を安定させる働きもある。中華料理をあんかけにすると、油っぽさが薄れるのはこのためである。なお、とろみをつけるには、片栗粉を倍量の水に溶き、必ず煮立っている状態で加え、すぐにかき混ぜて全体が透き通るまでよく火を通すことが必要である。酸に弱いので、レモンなどを加えるときは十分にとろみがついた後に加える。
糊化でん粉の粘度が高いことは、から揚げがカラッと揚がる理由ともなっている。
洋菓子つくりに欠かせないでん粉である。コーンスターチは、でん粉の粒子が小さく粒径がそろっているので、糊化後の安定性が良い。そのため、冷えても粘度が変わらない。プリン、カスタードクリームなどの洋菓子に最適である。糊化したコーンスターチは不透明だが、洋菓子では問題にならない。
ブランマンジュは、コーンスターチの特徴を最も良く生かしたフランス菓子である。
くず粉は、和菓子づくりに欠かせないでん粉である。粒子が小さく、口あたりが滑らかな特徴が和菓子にぴったりである。また、糊化後に透明なこと、ゲルの強度が高いことも和菓子向きである。
日本料理の和え物に使われる黄身酢は、卵黄に酢、砂糖、塩を加えたものであるが、とろみを付けるにはくずでん粉を使用する。
糊化した後の粘度が特に高く、かつ透明度が高いので、タピオカパールに加工される。タピオカパールは、コンソメスープの浮き身にしたり、ゼリー、プディングに使用される。
いくつかのでん粉の調理特性を紹介したが、でん粉を使いこなすと、料理の腕が確実に上がる。今日から、家庭にあるでん粉を使いこなそう。