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最終更新日:2010年3月6日
でん粉情報 |
[2009年5月]
【国内外の需給動向[海外]】調査情報部 調査課
2008年(暦年)にわが国に輸入された天然でん粉は、約17万トンであったが、このうち、タイからの輸入は実に8割を超える約14万6500トンにも上る。
このように、わが国にとって主要輸入先であるタイ国内におけるタピオカ製品需給について、タイのR&A社からの報告を基にとりまとめたので紹介する。
〜増産も価格は下落〜
タイ農業協同組合省農業経済局の統計によると、タピオカ製品の原料であるキャッサバの2007年の作付面積は762万ライ(1ライ=0.16ヘクタール、約122万ヘクタール)、生産量は2,690万トン、ライ当たり単収は3.5トン(1アール当たり2.2トン)となっている。2006年と比較すると、それぞれ10.1%、19.6%、9.3%の増加となった。2008年の生産量は、タイタピオカ貿易協会(TTTA)の発表(2008年9月)によると、2,915万トンになると予測されている。
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図1 キャッサバ生産量の推移(暦年) |
地域別に生産量のシェアを見ると、最も多くキャッサバが生産されているのは東北部であり、2007年は、シェア55%の1457万7925トンが生産されている。次いで中央部が同31%の844万3182トン、北部が同14%の389万4434トンと続いている。南部では生産されていない。
東北部は、タイで最もかんがい整備が遅れているため、干ばつに強いキャッサバが好んで作付けされている。なお、東北部の中でも、かんがいが整備され年間通して水がある地域では、稲作が行われている。
県別に見ると、最も多くキャッサバが生産されている県はナコンラーチャシィーマー県であり、全体の31%に当たる701万7931トンが生産されている。同県は、東北部の最西部に位置していることから、「東北部の入り口」とも呼ばれている。首都バンコクからは車で約3時間の距離にあり、キャッサバの生産が集中していることから、キャッサバチップ、ペレット、スターチ工場の多くがこの県に集中している。
図2 タイの地域 |
資料:タイ農業協同組合省農業経済局 |
図3 地域別生産量(暦年) |
キャッサバの農家価格は、2007年下半期から急激な値上がりを記録し、2008年4月には過去最高値となるキログラム当たり2.23バーツを記録した。この要因に関して業界関係者に聞き取り調査を行った結果、以下の3つの見解が得られた。
(a) 主要とうもろこし生産国である米国が、とうもろこしを原料としたエタノール生産を開始したことによる飼料用とうもろこし供給量の減少、そしてそれに伴うタイ産タピオカ製品の飼料用需要増加。
(b) 中国のエタノール増産によるタイおよびベトナムからのタピオカ製品(キャッサバチップ)の輸入増加。
(c) タイに次いで多くのタピオカ製品を輸出していたインドネシアの干ばつ被害によるタピオカ製品の供給不足。
しかしながら、2008年半ば以降は一転して下落を続け、2009年2月のキャッサバ農家価格は、キログラム当たり1.16バーツと前年同月から45%の下落となっている。
この値下がりは、2008年における主要国のとうもろこし、大豆かす、小麦生産が順調であり、供給が十分なことから、中国およびEUへのタピオカ製品(キャッサバチップまたはペレット)の輸出が低迷していることが原因と考えられている。また、前述したように、キャッサバの高値に後押しされて農家が大量にキャッサバを作付けしていることも影響している。
さらに2008年の生産コストは、原油価格の高騰により前年から大幅な値上がりとなる見通しのため、生産者にとってこの価格下落は大きな打撃となっている。
タイでは、作物生産農家の収入確保のために、農家が政府に作物を預ける形での担保融資制度が行われている。
キャッサバにおいても、政府が、定められた価格で農家からキャッサバを受け取ることと引き換えに融資を行うという方法で、市場介入を行っている。
タイ商務省国内取引局によると、この市場介入は、2008年11月から開始され、開始時の融資価格はキログラム当たり1.8バーツ(でん粉率25%)であった。1カ月ごとに単価が0.05バーツずつ上昇することになっており、2009年4月の融資価格は、キログラム当たり2.05バーツである。また、でん粉率1%ごとにプラスマイナス0.02バーツの価格調整がされることとなっている。制度の利用状況としては、キャッサバ価格の下落を受けて、2009年3月末までに農家から融資申し込みのあったキャッサバの数量が、上限に設定されていた1000万トンに達した。このため、タイ政府は、4月に300万トンの増枠を決定した。
資料:タイ農業協同組合省農業経済局 |
図4 キャッサバの農家価格 |
〜エタノール需要はでん粉生産への影響なし〜
① タイ国内におけるでん粉の利用状況
タイでは、でん粉(化工でん粉を含む)向けにキャッサバの55%が使用されていると推定されている。また、でん粉生産量のうち国内向けは35%、輸出向けは65%と推定されている。タイ農業協同組合省農業経済局によると、タイ国内のキャッサバの需要は、2003年から2007年にかけて13.6%増加している。これは他の飼料用穀物価格が値上がりしたため、相対的に価格の安いキャッサバチップの飼料への仕向け量が増加したことによる。また、でん粉の使用量についても各産業で増加している。
業界関係者に確認したところ、国内向けと輸出向けでは、タピオカ製品には差異はないとのことであった。同様の品質、仕様の製品が、国内および海外市場に供給されているということである。
2007年の国内におけるでん粉の用途としては、約53%をグルタミン酸調味料用および糖化用が占めており、市販用15%、化工用12%、製紙用9%と続き、残りはサゴパール、繊維、のり、薬品、合板用などである。
それぞれの用途における特徴などについて、タイ国タピオカ製品開発センター(TTDI)から以下のとおり情報を得た。
(a) 食品および飲料産業
タピオカでん粉は、グルタミン酸調味料の主原料として使用されている。またインスタントヌードル、春雨などにも増量のために使用されている。タピオカでん粉は、とうもろこし、小麦由来のでん粉より安価なことから、コスト削減のために好んで使用されている。トマトケチャップなどソース類にも粘性を出すためにも使用されている。缶詰食品などに使用される場合には、食品重量の3〜4%のでん粉が使用されることが多い。また、あめにおいても、堅さを出すために使用されている。アイスクリームにも、形状を維持させることを目的に使用されている。
資料:TTTA |
図5 タピオカでん粉の国内需要 |
(b) 製紙業界
製紙には、ユーカリなどさまざまな種類の木材が使用される。それらの繊維を細かくして、でん粉で固めることにより紙の形状を留めることができる。また繊維と繊維の間をでん粉で埋めることにより、インクなどの染み込みを防ぐことができる。
(c) 繊維産業
繊維産業では、糸に糊化したでん粉を付着させると、その潤滑性が増すことから、繊維の微小なほころびなどを防ぐために使用されている。
(d) のり産業
タピオカでん粉は、乾燥した後も粘性を維持することができる。これらののりは封筒やステッカーなどに使用される。このような用途に使用されるでん粉は純度が高く、酸性度が低いことが求められる。
(e) 合板産業
合板は、さまざまな種類の木材をでん粉ののり成分で固めることにより生産されている。
②チップ、ペレットおよびエタノール向けの動向
タイ国内におけるでん粉以外のキャッサバ使用形態は、チップおよびペレットで、キャッサバ生産量の45%が仕向けられているとみられる。チップおよびペレットのうち、国内向けは20%、輸出向けは80%と推定されている。チップの国内向け用途としては、ほぼ飼料用となっている。チップおよびペレットの輸出量は、2008年末から2009年初めにかけて減少しており、前述のようにキャッサバの生産量が、例年を上回ると予測されているため、キャッサバの供給過多が危ぐされている。
表1 国別チップ輸出量 |
(単位:トン) |
資料:タイ関税局 |
表2 国別ペレット輸出量 |
(単位:トン) |
資料:タイ関税局 |
原油価格が高騰していた2007年ごろ注目されていた、エタノール生産によるでん粉産業への影響は、関係者は声をそろえて影響はないと述べている。2006年からキャッサバからのエタノール生産が開始されたが、現在、実際にキャッサバを原料として稼働している工場はわずか一カ所であり、この工場の生産能力に相当する原料キャッサバ使用量は、全生産量の0.9〜1%と微々たるものである。
現在のエタノール生産は、糖みつが主原料となっている。糖みつとキャッサバを比較すると、糖みつでは含まれている糖分を発酵して直接エタノールを生産できることに対し、キャッサバではでん粉を糖化した後に発酵させるため、プロセスが多くなり生産コストが高くなってしまうからである。さらに、現在エタノール原料として使用されている糖みつは、糖みつ生産量の半分にも至っておらず、エタノール生産へ仕向ける余力が残っていることから、キャッサバを原料としたエタノール生産が急伸することは考えにくいとしている。