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世界のでん粉需給と消費量の見通しについて

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最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2009年10月]

【国内外の需給動向[海外]】

調査情報部 調査課


 でん粉は、各国での地理的条件や気候などに応じてとうもろこし、ばれいしょ、小麦、キャッサバなどさまざまな原料作物から生産されている。天然でん粉として粉末で流通するほか、糖化製品、発酵製品、化工でん粉などに加工されて流通する場合もある。

 とうもろこしやキャッサバなどの原料作物については、2008年にその価格が急騰したものの、現在では下落しており、これに合わせてでん粉生産を取り巻く状況も変化している。

 本稿では、天然でん粉とそれら由来の糖化製品などを加えたでん粉製品全体と、世界の主要な天然でん粉(コーンスターチ、タピオカでん粉、ばれいしょでん粉、小麦でん粉)、およびデキストリンを含む化工でん粉の生産状況と消費動向について、英国の調査会社LMC社に委託して調査を行ったので、その結果を報告する。


1.でん粉製品全体の見通しについて

(1)生産状況 〜2008年にはアジアの成長が停滞〜

 2008年のでん粉製品の生産量を地域別に見ると、アジアが全体の49.0%を占める最大の生産地となっており、次いで北アメリカ(27.7%)、ヨーロッパ(16.5%)の順となっている。アジアでの生産は、2007年までは他の地域に比べて急速に成長したが、2008年にはその伸びが鈍化することとなった。その原因は、製紙業におけるでん粉の使用を大きく減退させた世界同時不況が挙げられるが、タイのキャッサバの価格高騰と中国の政策による影響も大きい。原料であるキャッサバの価格高騰により、タピオカでん粉の価格も高騰し、需要は減退した。さらに、中国のとうもろこしのでん粉向けの使用を制限する政策によって、同国における生産の拡大は難しい状況となっている。

 現在、タイのキャッサバ価格は下落してるため、タピオカでん粉の価格も低下しており、価格面で非常に競争力がある状況である。しかしながら、中国政府の政策は依然継続しているため、今後生産が従前のように急速に拡大するかどうかは明確ではない。こういった状況が続けば、アジアにおいて需要が供給を追い越すこととなり、でん粉製品の価格が上昇することも考えられる。


表1 でん粉製品の地域別生産量の推移
(千トン、乾燥重量)
出典:LMC社
表2 種類別でん粉製品の生産量(2008年)
(千トン、乾燥重量)
出典:LMC社

出典:LMC社
図 天然でん粉と化工でん粉の価格の推移

(2)消費の動向 〜アジアの消費増に伴い、世界全体としても増加傾向〜

 世界のでん粉製品の消費量は、穀物価格の上昇と世界同時不況が需要に影響してその伸びは鈍化した。しかしながら、アジアの経済成長が見込まれることから、2009年にも世界の消費量は再び伸びるとみられる。地域別に見ると、生産量と同様に、世界に占めるアジアのでん粉消費割合は上昇しており、1999年には35.6%であったが、2008年には46.7%を占めている。これまでの世界消費量の増加は、アジアにおける消費量の増加によるところが大きい。北アメリカとヨーロッパにおける消費の拡大は、世界同時不況の影響のため、2011年頃までは停滞すると予測される。

 2020年までの世界のでん粉製品消費量は、約1億4000万トンと見込まれる。この需要を満たすためには、2008年から2020年までの間に6000万トンの増産が必要になる。アジアは、この1億4000万トンの消費の約57.4%を占めると予測され、このため、中国におけるとうもろこしまたは東南アジアにおけるキャッサバの増産が必要になってくる。また、この間、米国では穀物のバイオ燃料向けの需要がより増加すると見込まれ、その結果、南アメリカと黒海地域の双方がでん粉用穀物生産の主要なプレーヤーとして世界市場の重要な位置を占めると予想される。


表3 でん粉製品の地域別消費量の推移
出典:LMC社

表4 でん粉製品の地域別消費量の見通し
出典:LMC社

2.天然でん粉の見通しについて

(1)コーンスターチ 〜アジア、特に中国で需要増の見込み〜

 コーンスターチは天然でん粉の中では最も多く生産されており、2008年の生産量は、1266万トンであった。地域別には、アジアが846万トンと最も多く、世界全体の約2/3を占めている。次いで北アメリカの250万トン、ヨーロッパの135万トンと続いている。一方、2008年の消費量は、生産量と同様にアジアが最大の840万トン、次いで北アメリカの244万トン、ヨーロッパの134万トンと続いている。輸出量では中国が最大となっており、2008年では中国の43万トン、以下フランスの16万トン、米国の10万トンとなっている。

 2013年までの消費の見通しは、アジアでの消費が2008年の846万トンから、2013年には約350万トン増の1199万トンになると予測される。特に中国での消費が伸び、約200万トンの消費増が見込まれる。中国は、現在のところコーンスターチ生産能力にはまだ余裕があるが、国内生産でこの需要増を満たすとすれば、生産規模の拡大が図られる必要がある。ただし、現在、中国では食用とうもろこしの確保と価格の安定のためにでん粉用仕向けが制限されており、この制限が緩和されなかった場合は、加工用消費量の伸びも抑制され、ここでの予測ほどは急伸しないと考えられる。

 また、北アメリカおよびヨーロッパでは、コーンスターチ価格の高騰と世界同時不況により、需要の伸びは鈍化した。特にここ数年間合理化を行っている製紙業において、その傾向は顕著に見られた。どちらの地域も中期的にコーンスターチの大きな需要増はないと見込まれる。

表5 コーンスターチの消費量の見通し
(単位:千トン)
出典:LMC社

表6 コーンスターチの主要輸出入国の貿易量(2008年)
(単位:トン)
出典:LMC社

(2)タピオカでん粉 〜生産、消費ともにアジアが主となる〜

 タピオカでん粉は、天然でん粉の中でコーンスターチに次いで生産量が多く、2008年の生産量は773万トンとなっている。地域別には、アジアが695万トンで世界全体の90.0%を占めており、その他の地域では、南アメリカの67万トン、アフリカの10万トンとなっている。2008年の消費量も、生産量と同様にアジアが最も多く、678万トンで世界全体の87.7%を占めている。次いで生産地域でもある南アメリカ、アフリカと続いているが、生産されていないその他の地域でもわずかながら消費されている。国別の輸出量を見ると、タイの輸出が126万トンと突出して多く、以下ベトナムの28万トン、インドネシアの3万トンと続く。

 2013年までの消費量の見通しは、世界全体で、2008年より約250万トン増加すると予測される。この消費の増加分については、主要生産地域である東南アジアでの生産増によって賄われる必要性がある。しかしながら、主要生産国であるタイでは、作付面積に限界があり、単収についても増加を図ることができるかどうかは不透明な状況であるため、カンボジアとラオスが投資先として魅力的になるであろう。

 アジア以外のタピオカでん粉の需要は、アフリカを除いて比較的堅調に推移すると見込まれる。アフリカにおいては、タピオカでん粉がコーンスターチとの間で価格競争力を保つ限り、需要の伸びは大きいと見込まれる。現在ナイジェリアでは、タピオカ産業の積極的な振興が図られており、タイのキャッサバの価格が高騰した際には、アジア向けにキャッサバチップを輸出する動きも見せたほどである。


表7 タピオカでん粉の消費量の見通し
(単位:千トン)
出典:LMC社

表8 タピオカでん粉の主要輸出入国の貿易量(2008年)
(単位:トン)
出典:LMC社

(3)ばれいしょでん粉 〜EUの関連制度見直しによる今後の動向に注目〜

 ばれいしょでん粉は、ヨーロッパが最大の生産地域となっており、2008年の生産量は、169万トンと世界全体(230万トン)のうち73.8%を占めている。その他の地域では、アジアで52万トン、北アメリカで8万トンが生産されている。2008年の消費量は、生産地域と同様にヨーロッパ144万トン、アジア66万トン、北アメリカ15万トンの順に多くなっている。

 2013年までの消費量の見通しは、世界全体で、2008年の消費量より約57万トン増加し、287万トンと予測される。この増加分57万トンのうち、約30万トンはアジアでの需要増によるものと見込まれる。

 EUは2008年の共通農業政策(CAP)のヘルスチェックにおいて、ばれいしょでん粉関連政策を見直すことを決定した。その主な内容は、(1)生産割当制度の廃止(2)でん粉原料用ばれいしょの最低保証価格の廃止(3)ばれいしょ生産者でん粉生産者に対する補助金の廃止、(4)化工メーカーに対する補助金の廃止、となっている。アジアにおける需要の増加は、EUにとっては、市場拡大の機会であるものの、そのためには、補助金の恩恵なしに競争力を保つ必要がある。逆に、制度見直しの結果として、EUにおけるばれいしょでん粉の供給量が縮小した場合は、域内にあっては、ばれいしょでん粉を評価している製紙分野および食品分野、域外にあっては機能的な用途向け輸出に特化する可能性もあるとみられる。

表9 ばれいしょでん粉の消費量の見通し
(単位:千トン)
出典:LMC社

表10 ばれいしょでん粉の主要輸出入国の貿易量(2008年)
(単位:トン)
出典:LMC社

(4)小麦でん粉 〜中国で食用と競合か〜

 小麦でん粉の生産は、ばれいしょでん粉と同様にヨーロッパが最大の生産地域となっている。2008年の生産量は、68万トンと世界全体(122万トン)のうち55.8%を占め、アジアが33万トン、北アメリカが12万トンと続いている。2008年の消費量は、生産地域と同様にヨーロッパが最も多く68万トンで、アジア38万トン、北アメリカ4万トンの順になっている。

 2013年までの消費量の見通しは、世界全体で2008年から約57万トン増加するとみられるが、これはほぼアジアにおける増加分であり、これによって2013年には、アジアがヨーロッパを抜いて最大の消費地域になると予測される。しかし、中国において、小麦が、食用とでん粉用との間で競合すると、結果としてより多くの小麦が食用に仕向けられることとなり、それまで小麦が占めていたでん粉市場がコーンスターチなど他のでん粉で代用される可能性もあるとみられる。

 EUでは、現在、原料の小麦価格は2008年の高騰時より下落しており、かつ小麦でん粉の主な副産物である活性グルテン(小麦たん白)の価格も堅調であるため、価格面で非常に競争力がある状況となっている。しかしながら、急激な生産規模の拡大を行う必要性がないと考えられている。これは、ヨーロッパでの消費量の大幅な増加が見込まれないことと、急激な供給量の拡大は、安定的であるが比較的弾力性に欠く活性グルテン市場に大きく影響を与えるためである。


表11 小麦でん粉の消費量の見通し
(単位:千トン)
出典:LMC社

表12 小麦でん粉の主要輸出入国の貿易量(2008年)
(単位:トン)
出典:LMC社

3.デキストリンを含む化工でん粉の見通しについて 〜米国が主な供給者に〜

 化工でん粉は、アジアが最大の生産地域となっており、2008年の生産量は、2550万トンと世界全体(6804万トン)のうち37.5%を占め、次いでヨーロッパの1955万トン(28.7%)、北アメリカの1911万トン(28.1%)となっている。

 2013年までの消費量の見通しは、天然でん粉と同様、アジアにおいて大きく増加し、2008年から2013年までに約1000万トン増加するとみられる。また、中国は、需要の増加が見込まれ、化工でん粉の輸入も増加傾向である。一方、ヨーロッパでは、原料価格の高騰と補助金の削減によって、純輸出量は減少傾向となっている。このため、米国が世界の化工でん粉の主な供給者(コーンスターチ由来)として急速に台頭しており、米国の化工でん粉生産は、国内市場向けよりむしろ輸出向けとして、拡大が続くと予測される。


表13 デキストリンを含む化工でん粉の消費量の見通し
(単位:千トン)
出典:LMC社

表14 デキストリンを含む化工でん粉の主要輸出入国の貿易量(2008年)
(単位:千トン)
出典:LMC社

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