南米の農畜産業をめぐる情勢(2010年3月)
(アルゼンチン)
2009年の牛肉消費量は、前年比19.2%減
アルゼンチン牛肉・牛肉副産物産業および取引会議所(CICCRA)によると、2009年の1人当たりの牛肉消費量は、前年比19.2%減の59キログラムとなった。CICCRAは、この原因について、干ばつおよび肉牛農家の大豆生産への転換に伴う牛飼養頭数の減少によるとしている。
2009年下半期の牛飼養頭数は、前年同期比10.1%減
国家動植物衛生機構(SENASA)によると、2009年下半期の口蹄疫ワクチン接種頭数は、前年同期比10.1%減の約5192万3000頭となった。同減少は、牛飼養頭数減少の減少を表しており、これは牛肉価格の値上がりの主要な原因となっていると考えられる。
2010年1月〜2月の生乳受入数量は、前年同期比11.6%減
アルゼンチン農牧漁業省(Minagri)によると、2010年1月〜2月の乳業メーカーの生乳受入数量は、1月の高温と2月の多雨により、前年同期比11.6%減の約9億4080万リットルとなった。これにより、粉乳類、チーズなどの乳製品生産量も軒並み減少している。しかし、アルゼンチンの乳業メーカーなどで組織される団体(CIL)関係者によると、これは一時的な現象であり、2010年通年ベースの生乳受入数量は、前年比5.0%増の約68億5000万リットルと見込まれている。
2009年の穀物輸出量上位3社が穀物メジャー
ロサリオ商品市場によると、2009年の穀物および穀物副産物輸出量(5200万トン)の企業別シェアは、カーギル社が1028万トンと全体の19.8%を占め、第1位となった。次いで、ブンゲ社が14.2%(738万トン)、ドレフュス社が11.1%(577万トン)となっている。なお、第4位と第5位は自国資本のAGD社(9.8%)、Vicentin社(6.25%)となっている。
(ブラジル)
国内市場での合併承認が遅れるブラジル フーズ社
昨年5月に国内の2大鶏肉パッカー、サジア社とぺルジゴン社の合併により設立されたブラジル フーズ(BRF)社については、国内での資材調達と海外市場での製品販売は新会社が行っているものの、国内での鶏肉製品などの取引は合併前の体制のままとなっている。これは、ブラジル国内の市場の独占を規制する経済擁護管理審議会(CADE)が、BRFの国内での鶏肉製品などの取引を承認していないことによる。
このため、合併の相乗効果として期待されている販売管理面でのコスト削減と販売増加による年間5億〜6億レアル(約265億〜318億円、1レアル≒53円)の利益は実現されてない。
このような状況により、BRF社では将来に不安を感じ、一部の優秀な人材が流出している上、セアラ社の買収を行うことで鶏肉部門に進出したマルフリグ社、ベルチン社との経営統合を行い乳製品部門に進出したJBS社など同業他社の進出を許している。
経済社会開発銀行、既にJBS社に75億レアルを投入
ルーラ政権の国内企業の多国籍化という産業政策の下、経済社会開発銀行(BNDES)は既に、JBS社に対し75億レアル(約3975億円)を超える融資を行うほか、同社株式の22.4%を保有している。
また、2月初めに同社が発行した総額34.8億レアル(1844億円)の社債の99.9%をBNDESが購入することとなった。社債発行の目的は、JBS社が昨年9月に行った米国大手鶏肉パッカー、ピルグリム・プライド社の買収資金の調達とみられている。
しかし、このようにJBS社を優遇するBNDESの姿勢に対し、ABRAFRIGO(ブラジル食肉工業協会)のサラザール会長は、「このままJBS社の台頭を許すと、国内牛肉市場の一層の寡占化が進む」として、BNDES総裁あてに抗議文を送るなど、業界からは反発の声が高まっている。
ミネルバ社をめぐり、JBS社とマルフリグ社が水面下で抗争
国内第3位の牛肉パッカー、ミネルバ社をめぐり業界第1位のJBS社と第2位のマルフリグ社が水面下での主導権争いを繰り広げているもようだ。現在のところマルフリグ社が優勢であり、ミネルバ社と90日間の独占交渉を行うことができる協定を締結し、買収額10億レアル(530億円)を提示したとも報じられているが、3社ともいかなる交渉も行っていないと否定している。なお、民間調査会社によると、マルフリグ社とミネルバ社が合併した場合、国内の牛のと畜頭数に占める割合は14%となり、JBS社の19%に接近することになる。
集乳量減少で3月の生乳生産者価格が前月比6.3%高
民間調査会社によると、ブラジルの生乳価格は2010年に入り上昇傾向で推移しており、3月の生乳生産者価格(全国平均価格)は、前月比6.3%高の1リットル当たり0.67レアル(35円)となった。
この原因としては、今年に入りミナスジェライス州ほか複数の州での降雨不足やサンパウロ州の多雨や高温など天候不順の中で、2009年下半期の生乳生産増加に伴う乳価の低下により、酪農家の生産意欲が低下したことを受け、3月の生乳生産量が減少したことなどによる。生乳価格の上昇は、乳製品の小売価格にも反映し、3月のロングライフ牛乳の価格は、前月比12.2%高の2.02レアル(107円)となった。
このように国内の乳製品価格は、現在のところ堅調に推移していることから乳業メーカーの輸出意欲は下がっており、ブラジル商工開発省貿易局(SECEX)によると、2010年1月〜3月の乳製品輸出量は、前年同期比16.0%減の約1万2600トンとなった。
【石井 清栄 平成22年4月22日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤原)
Tel:03-3583-9805