米国農務省、家畜および食鳥取引の公正性を高めるための規則案を公表
米国農務省(USDA)は6月22日、家畜および食鳥取引の公正性を高めるための規則案を官報に公表した。生産者、食肉加工業者(食肉パッカー)間の家畜および食鳥取引に係る公正性についてはこれまでも議論が行われてきたが、2008年農業法において、取引の公正性を高めるため、USDAは食肉パッカーなどを規制するパッカー・ストックヤード法の違反行為とみなされる基準を新たに策定するとされていた。今回の規則案はその方針に沿って、パッカー・ストックヤード法の既存規則を改正するものであり、その内容に関しては、ヴィルサック農務長官の地方行脚や今年から開始されたUSDAと公正取引委員会の公聴会などの意見が参考にされている。
USDAは、同規則の改正を通じて不公正な家畜および食鳥取引を是正し、生産者の利益を確保することを狙いとしているが、これまでの家畜取引や契約行為に対する新たな規制となるため、食肉パッカー団体などは強い反発を示している。
新たな規則案はこれまでの取引の慣行を規制する革新的な内容
公表にあたりヴィルサック農務長官は、「家畜や食鳥の取引に係る公正性の問題は長い間放置されてきた。今回の規則は、不公正な取引に対する追加的な防衛策を提供するととともに、既存の規則では対応できない新たな市場環境を構築することによって、生産者に対して公平な競争の場を確保するものである。」とコメントし、これまでの取引環境が不公正であり改善が必要であることを強調している。
公表された規則案は、パッカー・ストックヤード法が1921年に制定されて以来最も革新的な内容となっており、具体的には、大規模生産者に対して不当なプレミアムが支払われるなどの取引を不当な優位性と定義することや、生産者が不公正な取引について訴訟を行う際に、これまで必要とされていた市場競争の阻害などの証明を無くす、などの案が提示されている。そのほか、食肉パッカーに大きな影響を与えるポイントとしては、恣意的な価格操作を防ぐために、食肉パッカー間における家畜取引、価格情報伝達の禁止や、食肉パッカー専属バイヤーにおけるほかのパッカーへの売却を目的とする家畜購入の禁止などの案が提示されている。また、主に食鳥取引に関しては、食肉パッカーとの取引にあたって高度な施設整備が必要となる生産者に対して、その資本投資の80%が回収できるような契約とすることや、生産者に対するひなの供給を停止する際には、遅くとも停止90日前までに書面をもって通知する、などの案が提示されている。
主要な畜産団体は新たな規制強化に反発
USDAの規則案に対して、主要な畜産団体は反発を示している。特に、食肉パッカーの全国団体である米国食肉協会(AMI)は、「今回のUSDAの提案は、国民に十分な食肉を供給する世界有数の国である米国の食肉生産システムを退化させるものである。これまでの裁判においても我々の取引は公正であると認められており、USDAは行政上の独断で規則を作り、法律の解釈を変えようと試みている。」と強い懸念を表明している。また、主に肉用牛繁殖農家、肥育農家が構成要員の全米最大の肉牛生産者団体である全国肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA)も「市場における政府の介入が強くなることを懸念する。我々は肉牛農家であると同時に牛肉生産者であるとの意識をもって、消費者ニーズを満たすことが必要である。USDAに対しては、透明性の高い開かれた商取引を支援する規則となるよう、生産者の意見を十分に取り入れることを申し入れたい。」とコメントしている。
これに対し、比較的小規模な肉用牛繁殖農家、肥育農家を会員とする米国牧場主・肉用牛生産者行動法律基金(R-CALF USA)は、「今回提案された規則は、食肉パッカーの不公正な取引に苦しめられてきた肉牛農家の救済策となるものであり、産業の公正性の向上に貢献する。」とコメントするほか、総合農業団体であり、畜産関連の会員としては肉用牛繁殖農家が多いファーム・ビューロ(AFBF)は、「生産者は長い間、不公正な契約による財政的困難に耐えてきたところであり、我々はUSDAの今回の規則案を歓迎する」とコメントするなど、いずれも今回の規則案を支持する態度を表明している。
今回の規則案は8月23日までパブリックコメントを受け付けており、最終的にどのような形で規則が決定されるのか、注目されるところである。
【上田 泰史 平成22年6月24日発】
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