ブラジルのマルフリグ社、世界第3位の食肉パッカーへ
今回の買収で世界22カ国、151工場、年間売上高280億レアル(約1兆4000億円)へ
ブラジル第2位の食肉パッカーのマルフリグ社は6月14日、米国の大手食品会社キーストーン社を12億6000万ドル(約1134億円、1ドル≒90円)で買収したことを発表した。この買収により、年間売上高ではブラジルのJBS社(注1)および米国のタイソンフーズ社に次ぐ世界第3位の食肉パッカーとなる。
マルフリグ社が同国の証券取引委員会に提出した書類によると、米国のペンシルバニア州West Conshohockenに本部を置くキーストーン社は牛肉、鶏肉、豚肉および水産物の処理、加工、小売および卸売分野を統括する企業で54工場、従業員1万3000人を有する。同社は、店舗数の順位においてファストフードを含む外食産業で世界第1位のマグドナルド社(2009年6月現在で118の国と地域で約3万店)をはじめ、CAMPBELL`S、SUBWAY、ConAgra、YUM BRANDSなど、米国の主要食品グループへ食材を供給するほか、世界13カ国のレストラン2万8000店以上へ牛肉製品などを供給している。昨年は64億ドル(約5760億円)の売り上げを記録した。
中国市場への進出機会も獲得
マルフリグ社は、これまで9億ドル(810億円)に及ぶ買収戦略により急速な成長を遂げてきた(注2)。マクドナルド社への製品供給などで中国に工場を持つキーストーン社の買収により、同社は中国市場への進出機会を得ることとなる。
(参考)
〇 キーストーン社とマクドナルド社との事業関係
1 米国
・牛肉、鶏肉、水産物の供給および関係製品の製造工場、配送センターなどの運営管理
(20カ所)
2 ヨーロッパ
・牛肉の供給(フランス)
・関係製品の配送(イギリスおよびフランス)
・関係製品の製造工場、配送センターなどの運営管理(12カ所)
3 アジア太平洋、中近東
・動物たんぱく源の供給(中国、マレーシア、タイ)
・牛肉の供給(豪州)
・関係製品の配送(韓国、豪州、ニュージーランド、クウェートなど9カ国)
・関係製品の製造工場などの運営管理(19カ所)
*:マルフリグ社ホームページ資料より一部を翻訳して抜粋
公的銀行のブラジル経済社会開発銀行がJBS社と同様に支援の可能性
マルフリグ社は、キーストーン社の買収資金として、行使期間を5カ年間とする譲渡可能ワラント債(譲渡可能新株引受権付社債)(注3)25億レアル(約13億ドル(1170億円))を発行し、マルフリグ社の現株主には同社債取得の優先権が与えることとしている。
同社資本の14%を所有するBNDES(ブラジル経済社会開発銀行)(注4)による社債引受の可能性については明言を避け、「可能性はあるが、あくまでBNDESの決定いかんによる。」としている。今年の初めにBNDESは、資本参加しているJBS社による米国企業ピルグリム・プライド社の買収資金の調達のため、JBS-USA株に転換可能な同社の社債22億6000万レアル(約1130億円、1レアル≒50円)を引き受けた。公的銀行であるBNDESがブラジル企業の国際化振興政策の下、マルフリグ社に対しても、JBS社と同様に支援する可能性があると市場関係者達は見ている。
今後5年間、企業買収は行わない模様
今回のキーストーン社の買収発表後、スタンダード&プアーズなど国際信用格付機関3社は、買収による財務および取引への影響が不確定であることや債務の増加、今後の経営管理の難しさなどからマルフリグ社の格付けを引き下げた。ブラジル国内株式市場でも同社の株は一時下落したが、年間1億ドル(約90億円)ともいわれる相乗効果(買収による利益)が期待され現在は回復している。
今回の買収に関して、マルフリグ社のマルコス・モリーナ社長は、「この取引で最も重要なことは、世界市場への足掛かりを得たことだ。成長を続ける世界の食品市場において、ブラジルは動物たんぱく分野で戦略的に成長してきた。キーストーン社の各種資源と経験およびその経営管理により、マルフリグ社は、スケールの大きい、かつ持続性ある供給体制を敷き、世界の顧客のニーズに応じていきたい。」と述べている。また、キーストーン社をもって一連の買収を終え、少なくとも今後5カ年は買収を行わないことを表明した。なお、市場関係者によると、今回の買収は、食肉パッカーがと畜から流通までのインテグレーションを目指す最近の傾向を示しているとされる。
【石井 清栄 平成22年6月30日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部調査課 (担当:藤井)
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