2010年上半期ウルグアイ産牛肉の輸出は順調に成長(ウルグアイ)
小国ながら牛肉輸出力は十分
ウルグアイ(正式名称:ウルグアイ東方共和国)は人口336万人、国土面積18万平方キロメートルと南米の中では最も人口が少なく最も面積が小さい国である。ブラジルとアルゼンチンの両大国に挟まれ、国土の大半は温暖湿潤気候に属し、起伏の少ない平坦な土地(最高地は約520m)にウルグアイ川、ネグロ川からの豊富な水が供給され、年間を通じて良質の牧草を確保することが可能な豊かな大地である。
全国で51千戸1100万頭の牛が全国に分布する牧草地(Tacuarembo県、Cerro Largo県では100万頭以上飼養)で飼育され、放牧密度は1キロメートル当たり68.8頭と隣国アルゼンチンよりも高い。ウルグアイ牛肉協会(INAC)副会長ペレス氏によれば、ウルグアイの牛1頭当たりの放牧地は、サッカーグラウンド2面分(約15000平方メートル)あるとのことだ。
人口の3倍超の牛のうち約70%が肉専用種のヘレフォードである。このため、牛肉は国民の主食であるとともに、重要な輸出産品となっており、ウルグアイ農牧水産省(MGAP)によれば全牛肉生産量(2008年約60万トン)のうち約67%が輸出されている。
米国農務省(USDA)の報告から、近年のウルグアイの牛肉輸出量を見ると、南米ではブラジル、アルゼンチンに次ぐ第3位、全世界では第8位の牛肉輸出国として世界の牛肉需給に大きな影響を与えていることが分かる。
2010年上半期の輸出量・輸出額ともに隣国アルゼンチンをしのぐ勢い
最近の牛肉輸出状況を見ると、2008年後半から2009年にかけて国際金融危機による国際市場の縮小から輸出量が減少したが、2010年上半期(1-6月期)では輸出量21万3100トン(前年同期比113.4%)、輸出額6億800万ドル(同130.9%)と大幅に増加しており、国際金融危機からの回復が伺える。一方、アルゼンチンは輸出量15万9400トン(前年同期比58.1%)、輸出額5億7910万ドル(同79.1%)と大幅に減少している(※)。この状況が続けば、ウルグアイの2010年における牛肉輸出量・輸出額はともにアルゼンチンを追い越す可能性が十分ある。
輸出先上位国を見ると昨年と今年では状況が異なっており、2010年上半期は、ロシア、チリ向けが大幅に伸展し、中国市場へのアプローチは香港経由から大陸へ直接取引する傾向が伺える。特に後者への期待は大きく、現在開催中の上海万博に併せて、上海市内大手ホテルでウルグアイ産牛肉フェアを開催するなど、中国国民への直接的なプロモーションも盛んに行われている。
また、ペレス氏(前出)によれば、欧州の某大手レストランでは、2010年の牛肉調達をアルゼンチン産からウルグアイ産に変更するなど、アルゼンチンが輸出対応できない市場は、その代替牛肉をウルグアイに求めるケースが多いとのことである。ウルグアイにとっては売り手市場となる好機であろう。
国内の需要を見ると、近年の牛肉消費は順調に増加しており、INACでは2009年における国民一人当たりの牛肉消費量は58.2キログラムとされ、この水準で推移すれば、2010年は60キログラムを超えると予測している。他方、アルゼンチン牛肉・牛肉副産物産業および取引会議所(CICCRA)によれば、2010年上半期のアルゼンチン国民一人当たりの牛肉消費量は56.7キログラムと予測されている。
USDAの報告では国民一人当たりの牛肉消費量は、従前より1位アルゼンチン、2位ウルグアイで推移してきているが、牛肉輸出同様に2010年には一人当たり消費量でもウルグアイはアルゼンチンを追い抜くものとみられる。消費量増加による市場の拡大は、国際市場が縮小した際に発生する輸出余剰品を国内で消費することが可能となるため輸出リスクを軽減できる。INACによる牛肉消費量増加の予測は、今後のウルグアイ産牛肉輸出に向けた投資の機会を意味するであろう。
牛肉の増産に向けた取り組みがポイント
ウルグアイの牛肉は、99%が放牧飼育方式による従来型の方法で生産される。自農場でトウモロコシを生産できる肉牛生産者は少ないため、配合飼料を利用したフィードロット肥育はほとんど導入されておらず、先駆的農場で冬季を中心(3月〜10月)に導入されているのみだ。
冒頭の通り国内では、限られた牧草地においてアルゼンチンよりも高い飼養密度で飼育されているため、今後増加するであろう海外からのニーズに対し牛肉の供給をどのように確保していくかが大きな課題となりそうだ。ちなみに、トウモロコシの輸出国であるアルゼンチンでは2009年牛肉生産の40%がフィードロットによる集約的な生産となっている。
ウルグアイ農牧水産省畜産サービス局(MGAP-DGSG)ムシオ局長によれば、ウルグアイ産牛肉の付加価値を高めるため、現在までにトレーサビリティーの徹底を義務付けているとのことである。ウルグアイのトレーサビリティーは、生後6カ月までに出生地、出生年月日、移動履歴などが分かる9桁の数字を個体ごとに割り当て、片耳ずつ耳標とチップを埋め込むものである。2006年から群ごとのトレーサビリティーを行ない、2010年に全個体の識別が可能となるということだ。飼養頭数が少なく、移動範囲も狭いウルグアイだからこそ取り組みやすく、また、今後牛肉輸出で海外市場の需要を獲得するためにも重要なポイントとなる。
2010年上半期の統計を見る限り、世界の牛肉市場のニーズはアルゼンチン産からウルグアイ産に一部シフトしつつあると言ってもよいのかもしれない。ウルグアイ産牛肉は今後、ますます世界の牛肉需給に影響を与えていくであろう。ウルグアイの牛肉生産者の動向を引き続き追っていきたい。
【星野 和久 平成22年9月6日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部調査課 (担当:藤井)
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