欧州委、EU域内における食料生産目的でのクローン動物作出の暫定的な停止を提案
研究、医薬品生産、希少種/品種の保護などを目的とするクローン動物の作出は対象外
欧州委員会は10月19日付で、欧州議会および欧州理事会に対する食料生産を目的としたクローン動物に関する15頁からなる報告書を取りまとめた。当該報告書では、EU域内外におけるクローン動物をめぐる情勢を分析した上で、
(1) 現行法令の維持:
EU全域で適用されるクローン動物に対する特別な規制を設けることなく、クローン動物由来食品については、新規食品に係る規制に基づき市場に流通させる前段において認可を受けるという整理
(2) 完全な禁止:
食料生産を目的としたクローン動物作出、クローン動物の子孫およびそれら由来食品の市場流通、クローン動物由来の精子/受精卵の使用などを全て禁止するという整理
(3) 措置の組み合わせ:
食料生産を目的としたクローン動物作出、クローン動物の活用、クローン動物由来食品の市場流通の暫定的な停止およびクローン動物由来の精子/受精卵とそれ以外のものを区別するためのトレーサビリティ制度を確立するという整理
という3つのシナリオを提示し、5年後に見直すことを前提に上記(3)のシナリオを提案している。ただし、食料生産以外の研究、医薬品生産、希少種/品種の保護などを目的とするクローン動物作出は、この暫定的な停止の対象外とされているほか、クローン動物の子孫由来の食料については特段の法的措置を講じず、今後整備が検討されることとなる上記トレーサビリティ制度の活用によりクローン動物の子孫由来の食品か否かについての情報提供を図る可能性が示されている。
ジョン・ダッリ委員は、暫定的な停止を現実的かつ実行可能な解決策と評価
この提案について、ジョン・ダッリ委員(保健・消費者政策担当)は、「私は、この暫定的な停止が、目下の(クローン動物に係る)アニマルウェルフェアに係る懸念に対応する上で現実的かつ実行可能な解決策と信ずる。」と評価するとともに、「この報告書が採択されれば、欧州理事会、欧州議会および欧州委員会は、消費者の保護と技術革新に対して多大な貢献を及ぼすことになるとともに、新規食品に係る提案へつながることとなろう。」との期待感を示した。
上記報告書では、「ヒトの健康の保護という観点でクローン動物およびそれらの子孫由来の食品について規制を行うことを正当化するような科学的根拠は一切ない。」と言及されていることに加え、現時点では流通段階でクローン動物の子孫由来のものであるか否かを区別する有効な手段がないことから、欧州委員会側から今般の提案がなされたと考えられるが、クローン動物由来の精子/受精卵に係るトレーサビリティ制度確立については、EU域外の第三国の協力が不可欠となるだけに、今後の動向が注目される。
【前間 聡 平成22年10月26日発】
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