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全米生乳生産者連盟(NMPF)年次総会の概要;新たな酪農政策に係る提言の紹介、乳用牛とう汰事業の終了

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 10月26日から28日まで、ネバダ州のリノにおいて、全米最大の生乳生産者団体である全米生乳生産者連盟 (NMPF) 、 全米生乳ボード(NDB)、全米乳業協会(UDIA)の合同年次総会が開催された。同総会の中で、本年6月のNMPF理事会において決定された新たな酪農政策に係る提言(FFTF;Foundation for the Future)の説明が行われるとともに、今後の酪農協共同基金(CWT)の方向性について決定がなされた。同総会に出席する機会を得たので、FFTFの概要などについて報告したい。

1 FFTFの経緯: 十分な時間をかけて練り上げられた対策

 FFTFの詳細な説明に入る前に、ムー二ーNMPF議長 (チェアパーソン) より、FFTFの 経緯について説明が行われた。同氏は、「FFTFは昨年6月に立ち上げられた3つのタスクフォースで検討がはじめられ、一年以上の時間をかけて各地での説明会を経て練り上げられた対策である」と説明し、「FFTFはいくつかのパーツから構成されているが、これら全てのパーツは緊密に連携しており、包括的に行われることが大きな効果を生む」と各パーツを切り離して行うことは想定していないことを強調した。また、同氏からは、「どちらの政党が議会をコントロールすることになったとしても、FFTFは政治的にも現実的な対策である」と11月2日に開催される米国中間選挙後を見据えた発言がなされた。

2 FFTFの概要

 コザックNMPF会長兼CEO より、FFTFの各パーツについて、以下の通り説明が行われた。

(1) 新たな所得確保対策 (DPMPP;Dairy Producer Margin Protection Program) の創設

 これまで乳価に着目していた対策を所得に着目した対策に転換する。具体的には、ベースとなる基準所得(乳価−飼料価格、現時点では100ポンド当たり4ドルを想定)を設定し、それを下回った場合に補てんする仕組みとしてDPMPPを創設する。対象となる乳量は、対象乳量(過去3年における最大年間生産量)の90%と設定し、掛け金は無料とする。さらに、基準所得に加え上乗せ基準を設け、希望する農家は掛け金を支払うことで自らの所得により高い保険をかけることを可能とする。なお、基準所得および上乗せ基準の水準については、今後の議会予算事務局の予測所得を基に設定され、基準所得については、予測所得の5割±1ドル/100ポンドの範囲内で決定される。
 また、新たな対策を創設する代わりに、加工原料乳価格を下支えする乳製品価格支持制度(DPPSP)および生乳所得損失補償契約事業(MILC)の廃止を提案する。DPPSPについては、価格支持水準が生産コストを大きく下回っており価格支持政策として機能していないこと、また、MILCについては、対象乳量に一律の上限が設定されており農家間において不公平感が生じていることなどが、廃止を提案する主な理由である。これらの問題点を踏まえ、DPMPPにおいては対象乳量に一律の上限を設けないこととしている。また、DPMPPは、DPPSPおよびMILCの予算の範囲内で実施することを想定しており、米国政府が過大な財政赤字に苦しむ状況下においても、実現可能と考えている。

(2) 連邦生乳マーケティング・オーダー (FMMO) の改正

 これまでの乳製品卸売価格から各乳成分(乳たんぱく質、乳脂肪、無脂固形分など)価格を算定し最低取引乳価を形成する手法から、競争性のあるクラスV(チーズ向け)乳価をベースとした乳価形成システムへの改正を提案する。乳製品卸売価格から製造経費を控除して乳価を算出する現行手法は、低付加価値の乳製品を製造しても乳業に一定の収益を約束するため、高付加価値乳製品生産の妨げとなっているなどの問題点が指摘されているため、改正が必要である。乳価形成のベースとなるクラスV乳価は、一日当たり最低50万トンの生乳を処理し、全品種のチーズを生産している工場の取引乳価を基に算定する。なお、NMPFとしては、酪農乳業におけるFMMOの重要性は認識しており、今後もその継続を支持する。

(3) 市場安定プログラム (DMSP; Dairy Market Stabilization Program) の創設

 所得(乳価−飼料価格)が一定水準を下回った場合、乳価の対象となる乳量を所得に応じて減少させることにより減産を誘導するプログラムを提案する。削減された乳量×乳価の金額は米国農務省に集められ、乳製品の買上資金として活用する。このプログラムは所得が低下した際に、早期の乳価回復を目的に運営されるものであり、供給管理とは異なり、将来の生産拡大の可能性を否定するものではない。また、これまでのFFTFの各パーツは生産サイドからの取り組みであるが、DMSPは集めた資金を乳製品購入に活用できることから、需要サイドからの需給改善の取り組みが可能となっており、大学の研究者からも、その有効性が認められている。

 (例;予測所得が100ポンド当たり8ドルの場合)

 米国全体の所得(乳価-飼料価格)が、

 ・2カ月連続で100ポンド当たり6ドルを下回った場合;
  生乳生産者は過去3カ月の出荷乳量の98%に対して乳価を受け取る。なお、乳価対象出荷乳量の削減上限は当該月の出荷乳量の6%とする。

 ・2カ月連続で100ポンド当たり5ドルを下回った場合;
  生乳生産者は過去3カ月の出荷乳量の97%に対して乳価を受け取る。なお、乳価対象出荷乳量の削減上限は当該月の出荷乳量の7%とする。

 ・1カ月で100ポンド4ドルを下回った場合;
  生乳生産者は過去3カ月の出荷乳量の96%に対して乳価を受け取る。なお、乳価対象出荷乳量の削減上限は当該月の出荷乳量の8%とする。

3  FFTFに関する質疑応答

 FFTFの説明の後、質疑応答が行われた。概要は以下の通りである。

(質問) DPMPPについて、所得を地域ごとの乳価および飼料価格を用いて設定し、全米単位ではなく、地域単位で運営すべきではないのか。

(答) 毎月の地域ごとの乳価、飼料価格のタイムリーな入手が困難である。また、地域ごとに乳価および飼料価格が異なることは事実ではあるが、その変動は似通っており、全国単位でDPMPPを運営しても、大きな問題はないものと考えている。

(質問) FFTFの実施は、WTOにおいて問題とされないのか。

(答) MILCおよびDPPSPを廃止すればAMS(国内助成合計量)の大幅な減少につながる。また、FFTFの中で政府からの補助金が必要となるのはDPMPPのみであるが、同対策は、MILCおよびDPPSPの予算の範囲内で行うことを予定しており、WTO上問題があるとは考えていない。

(質問) 2012年農業法における酪農政策の議論において、FFTFはどのように扱われるのか。

(答) 議会に対しては、FFTFが2012年農業法における酪農政策のベースとなるよう、積極的に働きかけを行ってきたところである。11月の中間選挙後、大幅に議員が入れ替わることも想定されるので、議会に対しては、来年からさらに働きかけを強化していきたい。また、我々生産者が一丸となってFFTFを推し進めるという姿勢が、議会にアピールする上で非常に重要となるので、生産者へのFFTFの浸透についてさらなる協力をお願いしたい。

4  酪農協共同基金(CWT)について、乳製品輸出補助金の継続、乳用牛とう汰事業の終了を決定

 CWT管理委員会により、今後のCWTの方向性について決定がなされた。CWTは生乳生産者積立金を原資として、米国乳製品の輸出および乳用牛とう汰への補助金交付が行われてきたところであるが、今後は乳用牛とう汰事業を終了し、輸出補助金のみを実施することが決定された。今回の決定に当たってコザックNMPF会長兼CEOは、「CWTを乳用牛とう汰に活用する生産者も減ってきており、CWTにおける乳用牛とう汰の役割は今が潮時であろう。その代わり、乳製品の輸出補助金は強く支持されており、2010年も生乳換算で10億ポンド以上の乳製品に対して補助金を交付している。輸出に力を入れることは、今後の経済観測からしても理にかなっており、市場の変化により迅速に対応できることになる」とコメントしている。また、CWTによる乳用牛とう汰を今後実施しないことから、NMPFの理事会において、これまで生乳100ポンド当たり10セントであった生産者積立金を、2011年から2012年まで生乳100ポンド当たり2セント(年間4000万ドル相当)にまで減額することが決定された。
【上田 泰史 平成22年11月1日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部調査課 (担当:藤井)
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