米国において新たな食品安全法が成立
オバマ大統領は1月4日、食品安全近代化法案(H.R.2751 FDA Food safety Modernization Act)に署名した。同法案は、FDA(食品医薬品局)の主な食品安全業務を定めている「連邦食品・医薬品・化粧品法(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act)」を約70年ぶりに大きく修正する内容となっている。
食品安全近代化法案は下院通過後16カ月をかけて上院を通過
2009年1月のピーナッツ製品による食中毒の発生などに伴い、米国内で食品安全の関心が急速に高まることになり、就任して間もないオバマ大統領が取り組むべき重要事項の一つとして食品安全改革が挙げられていた。このような情勢下において、111回議会(会期2009年、2010年)では食品安全強化に関する複数の法案が提出されたが、その中で、下院においては、FDAの機能強化を主な内容とする「食品安全強化法案(H.R.2794 Food Safety Enhancement Act of 2009)」を中心に議論が行われ、同法案が2009年7月末に下院を通過するに至った。その後、上院においても、下院通過法案の上院版とみなされる「食品安全近代化法案(S.510 FDA Food safety Modernization Act)」が検討されたが、医療保険改革などほかに優先すべき法案があったことや、同法案における小規模業者の取り扱いなどで議論が難航したため、上院通過は下院通過から16カ月後となる2010年11月末となった。
111回議会の会期中に法案を成立させたい民主党は、会期の残りが少ない状況を踏まえて、上院通過法案を無修正で下院通過させる予定であったが、下院発議の法案にしか認められない歳入増加に係る条項が含まれていたため、急遽、下院発議の「リサイクルに関する消費者支援法(H.R.2751 Consumer Assistance to Recycle and Save Act)」の中身を同法案に差し替え、「食品安全近代化法案(H.R.2751 FDA Food safety Modernization Act)」として、上院、下院をそれぞれ12月19、21日に通過させ、12月29日に大統領に送ることとなった。
食品安全近代化法はFDAの機能強化が主な内容、畜産物は対象外
食品安全近代化法は、議会予算事務局の試算によれば5年間で14億ドルの予算が必要とされている。また、FDAが所管する食品が対象とされ、米国農務省(USDA)が所管する食肉、食肉加工品および加工卵製品などは対象外となっている。
(食品安全近代化法の内容)
・FDAに食品リコールの権限が付与される。食品(乳児用特殊調整粉乳を除く)のリコールはこれまで、企業の自主性に委ねられてきたが、同法では、FDAが企業に対してリコールを要請することが可能となる。
・食品を輸出、輸入、製造、加工、包装する米国内の施設は、2年ごとにFDAへの登録が義務づけられる。なお、これまでも施設の登録は必要とされてきたが、2年ごとという規定は無かった。食品製造業および加工業者は、食品衛生検査結果などの報告が義務づけられる。
・輸入食品のサプライヤーは、当該食品が食品安全上の基準を満たしている旨を証明することが義務づけられる。
・275マイル以内の消費者に直接食品を販売し、年間の売上げが50万ドル以下の小規模農家や加工業者は、同法の適用除外となり、食品安全に係る監督権限は州などの地方自治体となる。なお、これら業者が食中毒を起こした場合は、同法の除外規定は適用されないこととなる。FDAに、再検査料、リコール費用、輸入業者の登録料などを徴収する権限が付与される。
・FDAは、高リスク施設に対して、法施行後5年以内に最低1回、その後3年ごとに最低1回検査することが義務づけられる。また、低リスク施設に対しては、法施行後7年以内に最低1回、その後5年ごとに最低1回検査することが義務づけられる。
共和党の勢力が増した新たな議会において、予算確保で議論となる可能性
食品安全近代化法は成立したが、同法の執行のためには、議会において必要な予算が確保されることが必要となる。1月5日から開始された112回議会においては、昨年の中間選挙で勝利した共和党の勢力が増しており、特に、下院では過半数を獲得するに至っている。共和党は歳出を2008年レベルに抑えることを宣言していることから、民主党主導で成立した、新たな予算を必要とする食品安全近代化法への歳出については、今後の議会において大きな議論となることが予想される。
【上田 泰史 平成23年1月5日発】
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