豪州の洪水による農産物への影響
ABARES、洪水による農産物への影響について報告書を発表
既報のとおり(注)、豪州北東部(クイーンズランド(QLD)州)で12月下旬から1月、大規模な洪水に見舞われたが、洪水による農産物への影響が次第に明らかになってきた。豪州農業資源経済科学局(ABARES)が1月21日に発表した特別報告書によると、同国東部を中心とした洪水による2010/11年度の農産物への影響について、全容の把握はまだ早いとしながらも、果物、野菜、綿花、ソルガム、冬作物の一部の生産に著しく影響し、農産物生産額は少なくとも5〜6億豪ドル(約420〜504億円。1豪ドル=84円)の損失を受けると見込まれるとしている。一方、畜産業への影響については、物流網の寸断による畜産物の出荷の停滞などが主たるものであり、家畜の消失は全国の飼養規模から比べると少ないとしている。
洪水による農産物へ影響
同報告書によると、各農産物への影響についてその概要は以下の通り。
冬作物
ABARESは昨年12月、2010/11年度の冬作物生産量は、前年度比22%増の4320万トンと見込んだが、収穫時の大雨により作物の品質が著しく低下したとしている。小麦など冬作物の収穫は1月の大規模な洪水発生前にほとんど終了しているものの、仮に洪水により100万トンが収穫できないとした場合、その被害額は2億5千万豪ドル(約210億円)に上るとしている。しかし、洪水による当該年度の作物の減産見込みは、国際穀物価格の上昇により相殺され、輸出額は大きく減少しないと見込まれる。
夏作物
ソルガムは、主産地であるQLD州南部において、12月末に作付予定面積(約35万ヘクタール)のうち約80%の作付けが終了していた。同地域で洪水被害を受けたのは、このうち15〜20%、被害額は3千万豪ドル(約25億円)と見込まれる。綿花については、豪州の作付面積のうち少なくとも約7%が水没し、被害額は1億5千万豪ドル(約126億円)に上るとしている。
果物・野菜
QLD州における果物や野菜の被害額は2億2500豪ドル(約189億円)と見込まれる。スイカ、サツマイモ、ブロッコリー、ズッキーニなどの価格が上昇したもの、ほかの作物への影響は現在の所、限定的としている。なお、ニューサウスウェールズ(NSW)州、ビクトリア(VIC)州、タスマニア州における生産への影響については把握に時間を要するとしている。
肉牛・牛肉
洪水被害が大きかった牛肉処理加工業の中心であるQLD州南東部で、肉牛の消失について主立った報告はないものの、道路、鉄道、橋などが寸断されたことにより、肉牛や牛肉の移動に支障を来した。なお、物流網は、数週間で回復するものと見込まれる。また、QLD州では、雨季に当たる1月は食肉パッカーの多くがメンテナンスを行い、牛肉生産が低調となるため、洪水による影響は多少緩和されている。一方、昨年来の大雨や洪水により、肉牛取引価格の指標となる東部地区若齢牛指標価格(EYCI)は1月中旬、2005年8月以来の最高値を記録した。
牛乳・乳製品
飲用乳地域であるQLD州での生乳生産への影響については把握に時間を要する。同州では道路の寸断により集乳が妨げられるなどの影響が出ているが、家畜の消失については大きな被害は出ていない。一方、加工原料乳生産地域であるVIC州北部では、洪水の影響で豪州最大の乳業メーカーが同地域に所有する1乳業工場を2〜3週間閉鎖するとしているが、生乳をほかの工場に運ぶため、処理には支障ないとしている。同州でも道路の封鎖によって集乳が妨げられるなどの影響が出たものの、生乳生産や乳製品輸出に大きな影響はないと見込まれる。
羊毛・羊肉
洪水被害のあったNSW州北部やQLD州南部は、羊肉の主要生産地域ではないことから、両州での洪水被害は、短期的な羊市場取引の混乱を招いたものの、羊の消失について主立った報告はない。VIC州では、数千頭の羊の消失が報告されているが、豪州の豪州の羊飼養規模から見て、国内の羊毛や羊肉生産には大きな影響を与えないと見込まれる。
豚肉
QLD州で小規模な1養豚場において家畜への著しい損害が出たものの、道路の閉鎖や交通規制による豚の出荷および飼料輸送の停滞が主たる影響である。同州の豚肉生産量、輸出量は、いずれも国内の約25%を占めるが、豚肉は他州からの供給が可能であることから、現段階では、豚肉輸出の減少は見込まれていない。
砂糖
サトウキビについては、QLD州が主産地であり、収穫時期が6月〜12月であることから、洪水発生前の大雨により深刻な影響を受けている。2010/11年度においては、300〜500万トンが未収穫と推定されることから、粗糖生産量は前年度に比べ約90万トン下回る約360万トンと見込まれる。
【玉井 明雄 平成23年1月25日発】
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