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欧州委、生産者の交渉力強化などを目的とした法案(ミルクパッケージ)を公表

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 欧州委員会は2010年12月、生産者の立場を高め、酪農部門をより市場に根ざしたものとし、かつ、持続可能なものとすることを目的とした法案「ミルクパッケージ」を公表した。
 
 この法案は、2020年までの当面の措置として提案されており、
(1)生産者と乳業の間の書面契約
(2)生産者団体を通じた交渉の可能性
(3)酪農乳業に係る業種横断的な団体に関する規律
(4)酪農乳業市場の透明性確保
の4項目から構成されている。
 
 そもそもこの法案は、生乳クオータ撤廃にかかる中長期的課題を検討するために発足した酪農乳業に関するハイレベルグループでの検討結果を踏まえ策定されたものであり、生乳の販売先(乳業)について選択の余地がないケースが多く、乳業に対し交渉力が劣るとされる生産者の交渉力を高めるための措置として提案されている。

法案の概要

 まず、「生産者と乳業の間の書面契約」であるが、ここでは、生乳の出荷前に予め交わされる書面契約の内容(価格、生乳供給の時期・量および契約の期間)の具体例が示されている。ただし、系統乳業については、その成り立ちを考慮し、同様の目的をもった既存の規定が存在する場合には必ずしもこの契約を必要としない旨の言及がある。なお、契約に関するこの手法は、一部加盟国の強い反対もあったことから、EUレベルでは任意なものとされており、これを義務的な制度とするか否かの裁量は加盟国に委ねられている。
 
 次に、「生産者団体を通じた交渉の可能性」であるが、これは、生産者が生産者団体を介して価格を含む契約内容の交渉を乳業側と行うことを許容することが提案されている。ただし、混乱を防止する観点から、団体交渉における規模の制限も同時に提案されており、加盟国内のシェアが33%を上回らないこととされている。なお、他の部門では国内シェアの上限が25%といわれており、酪農部門の生産者に対し特段の配慮がなされていることがうかがえる。
 
 「酪農乳業に係る業種横断的な団体に関する規律」は、ハイレベルグループの議論の中で提起されたものである。業種横断的な団体とは、酪農乳業に係る供給チェーンのすべての段階、すなわち、生産者、乳業、配送業者および小売業者を含む概念で、研究開発分野において共同作業を行うことにより有益な成果がもたらされるのではと期待されている一方、団体を通じた市場操作などの弊害が生じることのないよう、当該団体の活動には一定の規律が必要とされている。
 
 また、「酪農乳業市場の透明性の確保」は、域内酪農乳業市場の動向を広く開示することにより酪農乳業関係者が市場のシグナルに適切に反応することを期待したもので、総論について支持されている。しかしながら、各論、すなわち、誰がいつどのような情報を欧州委員会に対して提供するかについては、過大な負担を関係者に課すべきではないとの懸念も伝えられており、その具体化には紆余曲折が予想される。

 上記を内容とする法案について欧州委員会側は、農相理事会、欧州議会における議論を経て2012年中の施行を見込んでいるが、加盟国毎に酪農乳業に対する主義主張は大きく異なるだけに、立法府における議論の動向が注目される。


【前間 聡 平成23年3月7日発】
このページに掲載されている情報の発信元
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