米国最大の生乳生産者団体(NMPF)が新たな乳価制度改革案を発表
米国最大の生乳生産者団体である全米生乳生産者連盟 (NMPF)は3月8日、新たな乳価制度改革案を発表した。一方、乳業メーカーなどで組織される国際乳食品協会(IDFA)も4月20日、NMPFの提案とは異なる独自の乳価制度改革案を発表した。米国の乳価制度については、次期農業法の検討と併せて見直しが想定されるところ、今後の議論のベースとなる可能性が高い両案の概要などについて報告したい。
1 NMPFの提案;エンド・プロダクト・プライシングの廃止
NMPFは、乳製品価格から製造経費などを控除して算定される現行の乳価制度は、生乳生産者にとって不利である上、制度の対象となる乳製品は低付加価値であっても乳業者に一定の収益を約束するため、高付加価値乳製品生産の妨げとなっているなどの批判を行っていた。このような問題認識の下、今回の改革案は1年以上にわたって検討されてきたものである。なお、このNMPFの提案は、同団体が昨年より提案している新たな酪農政策に係る提言(FFTF;Foundation for the Future)の中の一項目である。
(1)エンド・プロダクト・プライシングの廃止
乳製品卸売価格から乳価を算定する手法(エンド・プロダクト・プライシング)を廃止し、競争性のあるチーズ向け乳価をベースとした価格形成システムへ改正する。現行のマーケティング・オーダーを維持した上で全米を5つの地域に分け、それぞれの地域ごとに競争性のあるチーズ向け乳価を設定する。具体的には、米国農務省(USDA)が、全品種のチーズを生産し、かつ、一日当たり25万ポンド以上の生乳を処理するチーズ工場を選定し、地域ごとのチーズ向け乳価を毎月公表する。クラスV乳価の対象はチェダーチーズのみであったが、全品種のチーズを対象とすることにより、全米におけるチーズの取引価格の動向を的確に反映できることになる。
(2)生乳用途の4区分を2区分へ統合
現行の4区分を飲用向け(クラスT)と加工用向けの二つへ統合する。このうち、加工用向けは、さらにクラスU、クラスV、クラスWに分け、それぞれにおいて、プール基金への資金の支払、受取の考え方が定める。
クラスT;クラスT価格と地域ごとのチーズ向け価格の差額をプール基金に支払う
クラスU;プール基金へ100ポンド当たり30セントを支払う
クラスV;支払・受取なし
クラスW;クラスW価格が地域ごとのチーズ向け価格を下回った際は同額をプール
基金から受取り、上回った際は同額をプール基金に支払う
(3) クラスT以外の最低取引乳価を廃止
飲用向けは、これでまでどおり最低取引乳価を定め、乳業者に対して生産者への同価格以上の支払いを義務付けるが、加工用向けは最低取引乳価の設定を廃止する。なお、クラスT乳価については、基礎となる価格をクラスV、クラスWのうちいずれか高い方とし、それに現行のクラスT差額(消費地までの輸送コストを考慮した額)を上乗せする。
2 IDFAの提案;飲用向け乳価の改革(クラスT差額の廃止)
NMPFの提案に対し、IDFAからは、複雑すぎるとの声が聞こえていた。今般公表されたIDFAの提案は確かにシンプルであるが、NMPFの案と比べてより大きな見直しを要求する内容となっている。なお、IDFAは酪農政策に関する提案の一環として、FMMO改革を主張しているところである。
(1) エンド・プロダクト・プライシング、最低取引乳価の廃止
エンド・プロダクト・プライシング及び最低取引乳価は、乳製品の高付加価値化や新製品の開発を妨げるものであり、全ての乳価(クラスT〜W)について同制度を廃止する。また、USDAは乳業者が出荷者に支払う毎月の乳価を調査し、全米及び地域ごとに、競争力のある乳価として公表する。
(2) クラスT差額を向こう5年間で廃止
最初の1年間はクラスT差額を維持するが、その後年率20%の削減を行い向こう5年間で廃止する。
3 今後の議論の行方;クラスT乳価の扱いが焦点
NMPFとIDFAの提案は、エンド・プロダクト・プライシングおよびクラスT乳価を除く最低取引価格を廃止する点で一致している。エンド・プロダクト・プライシングは乳業者が赤字にならない仕組みであるが、IDFAがその廃止を提案しているということは、新製品開発の妨げになるなど同制度の弊害が大きいことを示唆していると言えるであろう。また、廃止は、一体となって運用されている乳製品価格支持制度(Dairy Product Price Support Program) の廃止も意味することになる。
両者の大きな相違点はクラスT(飲用向け)の取り扱いである。NMPFが最低取引乳価及びクラスT差額の維持を提案しているのに対して、IDFAはそれらの廃止を主張している。業界関係者からIDFAの提案について意見を聴取したところ、「IDFAの提案通りにクラスT差額を順次廃止したら、乳価暴落の危険性が高まるであろう。非常に革新的な提案である」とのコメントが得られた。
クラスT差額については、2000年にマーケティング・オーダーを31地域から11地域に統合した際、生産者に配慮して乳価の変動を緩和するために、同差額を群ごとに定めた経緯があり、現在は生乳100ポンド当たり1.6ドル〜6ドルに設定されている。プール乳価に最も大きな影響を持つクラスIの見直しについては、今後、さまざまな意見が出てくることが想定される。
FMMO制度は恒久法(1933年農業調整法および1937年農産物販売協定法)に規定されているため、農業法検討の際に必ず議論されるとは限らない。しかし、NMPFなどは、次期農業法に向けた新たな酪農政策の一環としてFMMO制度の見直しを挙げている。今後、次期農業法と並行して、酪農政策の根幹である同制度がどのような方向で議論されていくのか、注目されるところである。
(参考)既存の乳価制度;連邦生乳マーケティング・オーダー(FMMO)制度
FMMO制度は、全米で10カ所ある生乳マーケティング・オーダー地域内で取り引きされる生乳について、用途別の最低取引乳価が設定されるとともに、乳業者に対して、最低取引乳価を上回る価格をプール乳価(用途別乳価を加重平均した乳価)で出荷者(酪農家または酪農協)に支払うことを義務付けているものである。FMMOの生乳用途区分は、クラスT(飲用向け)、クラスU(アイスクリーム・ヨーグルト向け)、クラスV(チーズ・ホエイ向け)、クラスW(脱脂粉乳・バター向け)の4つから成る。それぞれの最低取引乳価は、直近の乳製品卸売価格(バター、チェダーチーズ、脱脂粉乳、ホエイ)から製造経費などを控除した一定の計算式により機械的に毎月算定される。なお、実際の乳業者の支払乳価には、政府の最低取引価格を念頭に、乳業者と出荷者の交渉で決定される各種プレミアムなどが上乗せされている。同制度では全米の65%の生乳(飲用規格;グレードA)がカバーされていると言われている。
【上田 泰史 平成23年4月25日発】
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