米国議会上院、エタノール優遇措置をめぐる情勢
米国政府は、バイオ・エタノールの利用促進を図るためエタノール産業に対する税制優遇措置をとってきた。これら優遇措置は、2011年末に期限を迎えることになっている。今般、米国議会上院において、当該優遇措置を即時撤廃する法案が承認されたところである。しかしながら、課税に係る法案は、下院から発議されることになっていることから、今回上院を通過した法案は成立に至らない見通しである。
上院はエタノール税制優遇措置の即時撤廃法案を承認
現在、エタノールの利用促進に係る主要な税制措置として、(1)エタノールをガソリンに混合するブレンダーに対し、納付すべきガソリン消費税から45セント/ガロンを控除する措置、および(2)輸入エタノールに対する54セント/ガロンの追加関税措置がある。これらは本年末に期限を迎えることになっているが、財政赤字の拡大と燃料価格の高騰が問題とされる中、上院は6月16日、これら優遇措置を即時撤廃する内容が盛り込まれた民主党のファインスタイン議員(カリフォルニア州)提出による法案を73対23で承認した。ただし、課税に係る法案は、先に下院で審議されなければならないので、当該法案は下院で審議されずに送り返される見通しである。
これまでもエタノールへの税制優遇措置に反対する法案は上院に提出されてきたが、これらが承認されることはなかった。今回の承認は、エタノール税制優遇措置に対する風当たりがこれまでにないほど強くなっていることを示す象徴的な結果となった。
オバマ政権は反対を表明
この上院での承認についてホワイトハウスは、再生可能エネルギーの利用推進などエネルギー政策については、コストの低減により効率性を追求していかなければならないが、現行のエタノール税制優遇措置の即時撤廃は必ずしもコスト削減とはならないとして、即時撤廃には反対の声明を出した。また、ヴィルサック農務長官も、再生可能エネルギーの利用推進の見直しが必要なことは認識しているが、税制優遇措置を即時に撤廃する今回の提案は軽率であると上院の判断を非難する声明を出している。
エタノール団体グロウス・エナジーのトム・バイス代表は、上院は石油業界に対する同様の措置を放置する一方、米国のエネルギー政策にとって誤った判断をしたと酷評した。
米国の畜産関係団体は、エタノール政策によりトウモロコシの価格が上昇し、畜産生産者の経営を圧迫しているとして、一貫してエタノールへの税制優遇措置に反対の意を表明してきた。また、国内外からも、トウモロコシ価格の上昇が食料価格の上昇につながっているとして、米国政府のエタノール政策には非難の声が上がっている。しかし、米国政府は、トウモロコシや食料価格高騰に対するエタノール政策の影響は限定的と退けてきた。
今回の上院での行動が米国のエタノール政策にどのような影響を与えるのか引き続き注視していく必要がある。
【中野 貴史 平成23年6月22日発】
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