欧州委員会は6月11日、保有する脱脂粉乳の介入買入在庫約54,000トンについて、全量を2012年分の生活困窮者向けに仕向けると公表した。この結果、当局が抱える介入在庫は実質的にゼロとなる。
同在庫について欧州委員会は、域内の脱脂粉乳卸売価格が高水準で推移する中、さらなる価格上昇を抑制するため、一定水準の保有が必要と判断したとみられ、本年3月を最後に放出を見送っていた。
しかし、来年の生活困窮者を対象とする食料支援制度の予算額が大幅に削減されること(後述)、また、現在の域内需給状況ではさらなる介入買入が行われる見込みはないことを踏まえ、同在庫を来年分の食料支援用に回すことを決定したとみられる。
1987年に創設された同支援制度は、EUの農産物に係る介入買入在庫を有効活用し、生活困窮者に食料を無料で配布する制度である。制度発足当初は、配布される食料は介入買入在庫のみとされていたが、介入買入在庫が常に存在する訳ではないため、1990年代半ばより、在庫が活用できない場合は同種の農産物を市場から調達することも可能とされた。その後、2005年以降は活用できる介入買入在庫(牛肉、脱脂粉乳、バター、砂糖、コメ、穀物)が急減したことなどから、欧州委員会は2008年、必要に応じて常時市場から農産物の調達が可能となるよう制度改正の提案を行った。(注)
しかし、欧州理事会は同提案に係る同意手続きを留保し、制度改正が完了していないことから、介入買入在庫の使用が優先される状況にある。このことから、今回の生活困窮者向け全量処分につながったとみられる。
また、欧州委員会は6月20日、食料支援制度に係る2012年の基本計画を公表した。同計画は例年ならば10月頃に策定されている。今回の異例とも考えられる早期策定は、予算が4億8千万ユーロ(約557億円。1ユーロ=116円)から1億1300万ユーロ(約131億円)へと大幅に削減される中、脱脂粉乳在庫の全量仕向け決定という情報だけではなく、具体的な食料支援の全体像を示すことで、加盟国および支援実施機関に十分な準備期間を与えることを図っているとみられる。