欧州委、2014〜2020年の共通農業政策(CAP)予算案を公表(EU)
共通農業政策(CAP)予算額は現状維持
欧州委員会は6月29日、共通農業政策(CAP)の次期財政フレームとなる2014〜2020年におけるEU予算案を公表した。同案によると、欧州予算全体に占めるCAP予算の割合は約36%となり、今期(2007〜2013年。約39%)から減少するものの、予算額としては3,869億ユーロ(約44兆9千億円。1ユーロ=116円)となり、金額ベースでは現状が維持される形となった。
CAP予算の内訳については、第一の柱である直接支払い(所得補償)向けが2,818億ユーロ(約32兆7千億円)と約73%を占め、第二の柱である農村開発向けが899億ユーロ(約10兆円)で約23%、その他関連予算が152億ユーロ(約1兆7千億円)となっている。
チオロシュ農業・農村担当委員によると、削減圧力が高まる中で策定された同予算については、食料安全保障、資源保護、農業・農村の持続的発展を図るため、獣医・衛生関係、生活困窮者への食料支援、農業技術の研究、金融危機や商品市場への対応などにも力を注ぐとしている。
同案については、数カ月にわたって議論された後、2012年12月開催予定の欧州閣僚首脳会議での合意が図られる予定である。
7月18〜19日開催の農相理事会におけるCAP改革の議論に注目が集まる
2013年以降のCAP改革については、今年の秋に欧州委員会の改正案が提示され、その後、欧州議会および農相理事会での審議を経た上で、2014年1月に施行される予定である。
既報のとおり(注)、同改革については、2010年11月18日付で公表された政策案「2020年に向けた共通農業政策(CAP)〜食料、天然資源および地域に係る将来の試練への対応」の中で、3つのシナリオ(オプション1〜3)が示されており、現在、加盟国や関係団体、国民(パブリックコメント)の間で活発な議論が行われている。
こうした中、欧州委員会は6月17日、オプション2のうち「緑化」(Greening)に係る補助金についての追加案を提示した。「緑化」に係る補助金とは、加盟国の農家が環境保全などを行った場合、当該措置を講ずることに伴い増加したコストに基づき支払われるものであり、直接支払い(第一の柱)に分類されている。今回の案では、同補助金は現行の直接支払いに課される受領要件(クロスコンプライアンス)を適用しておらず、また、2014年以降は直接支払いの予算の3割を占めるとされている。
そもそもオプション2は、オプション1(現行制度を基本的に踏襲)・3(所得支持の段階的な廃止、環境保全の充実など急進的)と比較した場合、持続可能な農業支持を明確にするなど、現実的でバランスの取れたものであり、実現性が高い案とされていたが、今回の追加提示も踏まえると、同案が選択される可能性が高いと考えることもできる。7月18〜19日に開催される農相理事会においてどのような議論が行われるか、注目していきたい。
【藤原 琢也 平成23年7月7日発】
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