マレー・ダーリング川流域庁(MDBA)は、同流域の環境保全(塩害を回避することなど)を目的に、農業用や飲用を含めたすべての用途を対象とする水利用可能量の削減案を公表した。
豪州南東部に広がるこの流域は、総面積約100万平方キロメートル、農業生産額が年間約150億豪ドル(1兆2150億円:1豪ドル=81円)と、農業生産の約4割を占める国内有数の農業地帯である。なかでも、生乳生産の約4分の1(225万キロリットル)を担う主要酪農地帯ともなっている。
MDBAはこの案で、2019年までに、2009年の水準から年間水利用量を2,750ギガリットル(1ギガリットル=10億リットル)削減する目標を設定した。このうち、1,068ギガリットルは、2011年9月までにニューサウスウェールズ州およびビクトリア(VIC)州両政府による削減プログラムによって達成されている。また、214ギガリットルは、VIC州北部で2012年1月から開始される削減プログラムによって達成できると試算している。
このため、目標値(2,750ギガリットル)から州政府による削減を差し引いた年間1,468ギガリットルが、本案で求められる年間削減量となっている(削減は2019年まで段階的に行われる)。
この流域の年間水利用量は、約6,000ギガリットルとみられている。年間利用量の大幅な削減を求めるこの案に対し、農業団体などは反対をしている。
豪州酪農協議会(ADIC)は、削減が実施されれば、この流域における酪農家戸数が現在の1,600戸から600戸減少し、生乳生産量が225万キロリットル(2010年)から160万キロリットルへ減少(28.9%減)するなど、農業生産への大きな影響を懸念している。
一方、豪州では、2012年7月から導入が決定した炭素価格制度など、環境政策を進める動きが活発化している。環境政策などを唱え、議会での発言力を強めている緑の党は、同流域の環境状況を考えると4,000ギガリットルの削減が必要と、さらなる削減を主張している。
生産者と議会で意見が対立しているが、今回の発表前にMDBAが提示した削減目標は3000〜4000ギガリットルであり、今回の目標値は生産側に歩み寄った形で取りまとめられた。今後は、4月16日まで受け付けるパブリックコメントなどを経て、目標値が定められることになる。
(参照)
・海外情報「
豪州政府、来年度導入予定の炭素価格制度の枠組みを公表(豪州)」
・海外情報「
2012年7月から炭素価格制度の導入が決定(豪州)」
・海外情報「
炭素価格制度導入に伴う豪州農畜産業への影響について(豪州)」