欧州委、2011年度直接支払に関する報告を公表
直接支払、CAP(Common Agricultural Policy:共通農業政策)の72%を占める
欧州委員会は3月22日、2011年度のCAPにおける直接支払に関する報告を公表した。
これによると、2011年度における直接支払による支出額は、総CAP支出額のおよそ72%を占め、そのうち92%は「ディカップル」による支払となったことが明らかとなった。(「ディカップル」とは、生産者の所得を直接補助するなど生産を刺激しない支援方法のこと。)
ディカップルによる支払の推進は、2003年におけるCAP改革において、それまで生産を刺激する介入買入と市場価格支持といった生産を刺激する支援政策から転換することが決定され、2005年から導入されてきた。その後、順調に加盟国で適用され、2011年度では92%まで達することとなった。
受給額は、依然として格差あり
直接支払による受領額は、依然として加盟国間及び国内において平準化されておらず、格差が残っていることが明らかとなった。受益対象者の80%が直接支払による総支出額の20%しか受領していないのに対し、残り20%の受益対象者が総支出額の80%を受領している。EU27の1人当たりの平均受領額は、5,280ユーロ(64万4160円、1ユーロ=122円)、EU15の平均は、7,733ユーロ(94万3426円)、EU12の平均は2,396ユーロ(29万2312円)、2007年に加盟したブルガリア及びポーランドは854ユーロ(10万4188円)となった。また、EU15においても、5,000ユーロ未満の受益者が69%を占め、5,000から50,000ユーロ未満が28%、50,000〜100,000ユーロ未満が2%、100,000ユーロ以上が0.6%となった。2005年と比べると少額の受益者の割合が減少しており、受益者の減少とともに規模化が図られている。
受領額の平準化は、かつて、直接支払が価格支持の撤廃による収入の損失を補てんすることを目的として設定されたため、大規模生産者は小規模生産者と比べて価格支持の撤廃により収益の損失が大きいことから高い補助を受けることとなったが、時間の経過とともに、かつての代償としての性格は薄れ、クロスコンプライアンスとの組み合わせによる農家所得の安定や持続可能な農業活動を推進することに目的が移行しており、従前の目的によって発生した格差は是正するべきであるとの見解から推進されている。
現在検討されている2013CAP改革においても、欧州委員会は、小規模生産者の受領額の固定化や大規模生産者の受領可能額の上限引き下げなどを提案している。
加盟国間の格差は、生産規模の違いが主な要因
加盟国間における受領額の格差は、生産規模の違いが主な要因となっている。EU15では、生産額が4,000ユーロ未満(48万8000円)の農家が占める割合は38%未満であるのに対し、EU10では60%を占め、ブルガリア及びルーマニアでは88%を占めている。つまり、EU15では、集約的な大規模経営による農家が多数を占めているのに対し、EU10及びEU2は依然として小規模経営が主であることを示し、この規模の違いが直接支払受領額の格差を生み出している主要因となっている。
今後の動向
欧州委員会の提案による2013CAP改革では、直接支払による所得補償は、賃金水準や投入コストなどの違いを考慮しつつも、過去の分配勾配を減少し加盟国間、生産者間の格差を平準化し、公平な分配をするべきであると述べている。
提案では、EUの直接支払の平均の90%を下回る加盟国は、格差を是正するため現在ある格差の3分の1を2017年までに縮小することとなっている。また、2019年までには、EUの全ての加盟国で統一的な方法による直接支払へと移行すること、また、経済的、社会的及び環境保護の側面から直接支払による所得補償は、より支援が必要な新規就農者や条件不利地域の生産者などへ振り分けることが重要であるとしている。これら欧州委員会の提案が決定されると直接支払の分布にも影響を与えるだろう。
※EU15:オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、イギリス
EU10:キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニア(2004年加盟国)
EU2 :ブルガリア、ルーマニア(2007年加盟国)
【矢野 麻未子 平成25年4月22日発】
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