豪州政府、中豪FTAの合意を発表
豪州政府は11月17日、2005年に交渉を開始した中国との自由貿易協定(FTA)について合意したことを発表した。
豪州にとって中国は第2位の貿易相手国であり、農畜産品の輸出額は90億豪ドル(8800億円:1豪ドル=98円)に上る。豪州政府は、2050年までの世界の農産物需要の成長の43%を、中国がけん引すると予測し、豪州はこのFTAにより、中国市場において、米国やカナダ、EUなど主要農産物輸出国に対して有利な立場となり、また、すでに中国とFTAを締結しているニュージーランド(NZ)やチリにも対抗できるとしている。
今後、条文確定作業などを経て、2015年中の署名を予定している。
農畜産分野の市場アクセスにおける主な合意内容
今回のFTA合意により、豪州の輸出品目のうち85%以上の関税が発効1年目に撤廃され、4年目には93%以上となる。また、最終的には95%の品目が撤廃される。
農畜産物分野における主な合意内容は、以下のとおり。
乳製品・・・現行最大20%(粉乳類10%、バター10%、チーズ12〜15%など)を4年以内〜11年かけて撤廃
牛 肉・・・現行12〜25%(部分肉12%、冷蔵枝肉20%、冷凍枝肉25%)を9年かけて撤廃
生体輸出・・・現行10%(繁殖用以外、繁殖用は無税)を4年以内に撤廃
羊 肉・・・現行12〜23%を8年かけて撤廃
なお、コメ、小麦、綿、砂糖などのセンシティブ品目については、中国は2001年のWTO加盟時に低関税枠をすでに設けているとして、今回のFTAでは除外された。ただし、中国側は、発効3年後に市場アクセスの見直しも含めた再協議を行うことで合意しており、これらセンシティブ品目も再協議の対象となる。
乳製品・食肉と砂糖で明暗分かれる
豪州酪農家連盟(ADF)によると、2013年の中国に対する世界全体の乳製品輸出量は190万トンとなり、前年を40%上回る成長を見せた。一方、同年の豪州の中国向け乳製品輸出量は10万9800トン、同輸出額は4億6100万豪ドル(452億円)であった。ADFは、この先数年も、中国の乳製品需要の拡大が見込まれており、豪州の酪農・乳業が成長の機会をつかむためには、中国との安定的かつ開放的な貿易が鍵となるとしている。
こうした考えのもと、中豪FTAの農畜産分野の市場アクセスに関し、特に、乳製品の交渉の行方に注目が集まり、豪州の酪農・乳業団体は、2008年に締結された中国-NZFTAを上回る成果を要望してきた。NZは、中国とのFTA発効後、中国向けの乳製品輸出を拡大しており、2017年にバターやチーズ、2020年※には粉乳類の関税が撤廃されることとなっている。
ADFは今回のFTAの合意に際し、これは真の自由貿易であり、豪州をNZと対等な立場に押し上げるものなどとして、交渉結果に対する賛辞を送った。現段階では、中豪FTAによる効果を完全に推し量ることはできないとしながらも、今後、幼児用栄養食品やチーズ、粉乳、飲用乳などで恩恵を得るとみている。
また、食肉業界からも、中国向け輸出拡大の期待が高まっている。豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)によると、2013年の中国向け牛肉輸出量は15万4833トン、同羊肉輸出量が9万7423トン、同生体牛輸出頭数は6万6530頭などとなっており、これらの総輸出額は13億豪ドル(1274億円)であった。MLAは、中豪FTAの効果について、豪州の牛肉生産額を年間2億7000万豪ドル(265億円)押し上げるものと評価し、生産者や輸出業者の収益増を期待している。
一方、さとうきび生産者団体であるCanegrowersは、今回のFTAで砂糖分野が関税撤廃の除外品目となったことは受け入れ難い結果であると遺憾の意を表明し、3年後の再協議で砂糖分野が恩恵を得ることに期待を示した。また、業界としても、中国との再協議やTPPなど今後の交渉の中で砂糖が合意内容に含まれるよう、努力を重ねていくとの考えを述べている。
※ 当初は2019年に撤廃の予定であったが、2013年に再協議が行われた結果、1年後ろ倒しされた。
【伊藤 久美 平成26年11月19日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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