欧州委、豚肉の民間在庫補助(PSA)を終了(EU)
欧州委員会は4月29日、3月9日から実施していた豚肉の民間在庫補助(PSA)について、4月27日をもって終了したと発表した。実施期間は7週間であった。
発表では、補助の実施により、豚肉の市場価格は安定し適度な流通量へ減少したと判断している。
(1)民間在庫補助による保管実績
今回の措置で、保管対象となった豚肉は合計6万3507トンであった(表1)。部位別に見ると、高級部位であるロイン(骨抜き)が3万9799トン(占有率:62.7%)と最も多く、保管期間別に見ると、90日間が4万5503トン(同71.7%)と最も多かった。
また、国別の申請実績を見ると、上位からデンマーク(占有率:24.0%)、スペイン(同21.6%)、ドイツ(同12.5%)、ポーランド(同12.0%)となっており、豚肉輸出国の利用実績が多かった(表2)。
このことから、PSAの対象となった豚肉は、豚肉輸出国が輸出対象としている品目(部位)であったことが推察できる。保管開始から90日間後は、6月〜7月の夏季にあたり、北半球では豚肉の需要期となり、豚肉価格の上昇が見込まれるため、多くが90日間を保管期間としたものと考えられる。
(2)価格動向
豚枝肉価格は、PSA発動以降上昇に転じている。直近の2015年4月第4週の100キログラム当たり豚枝肉価格は、発動前週(3月第1週)と比べ3.0%高(4.3ユーロ高)の146.97ユーロ(1万9694円:1ユーロ=134円 4月末日TTS相場)となっている(図)。前年比では大幅に下落しているものの、価格は上昇基調にあるとみられる。
(3)今回のPSAに対する評価など
前回のPSAは、2011年2月に発動(3週間)された。ドイツでの豚用飼料へのダイオキシン混入問題による豚肉価格の下落に対処したものであり、実績は約14万トンに達した。しかし、今回の申請実績は、およそ2倍の期間に渡って実施されたにもかかわらず、前回の5割にも至らなかった。加えて、価格上昇に顕著な影響が見られなかったこともあり、当事業の今後について、検討を要するとの専門家の意見もみられる。
英国農業園芸開発公社(AHDB)の分析によれば、(1)前回のダイオキシン混入問題と異なり、ロシア禁輸措置の解除の時期が見通せず、豚肉市場に影響を与える課題の解決が見通せなかったこと、(2)申請された豚肉が、もともと輸出用に仕向けられるものであり、域内市場からの隔離という点で効果が薄められたこと、などからPSAの効果は限定的なものであったとしている。
また、EU全体の農業協同組合の中央組織である欧州農業組織委員会/欧州農業協同組合委員会(COPA/COGECA)からは、豚肉産業全体への効果を発揮させるには、豚肉に限らず、ラードなど副産物も対象にするよう検討するべきであるとの意見も出されている。
注:民間在庫補助(PSA)とは
この制度は、EU加盟国の民間企業が保管する豚肉の保管費用の一部を、欧州委員会が補助するものである。対象となる豚肉を市場から隔離することで、域内市場価格の底上げを図ることを目的としている。今回の発動は、EU域内でのアフリカ豚コレラ(ASF)の発生を理由とする2014年2月からのロシアのEU産豚肉禁輸措置と、同年8月からロシアが開始したEU等の農畜産物の禁輸措置に対処するため、2015年3月9日から4月27日まで実施された。
関連情報
【宅間 淳 平成27年5月13日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9531