欧州委員会が8月19日に公表した統計によると、リトアニアの脱脂粉乳(197トン)を対象に6年ぶりの公的買い入れが実施された7月中旬以降、ベルギー、ポーランド、英国でも実施され、EU全体の脱脂粉乳の公的在庫量は合計5992トンとなった。内訳は、ベルギーが2280トン、リトアニアが1974トン、ポーランドが1306トン、英国が432トンである。
EUの公的在庫は、各加盟国の脱脂粉乳卸売価格が公的買入価格(100キログラム当たり169.80ユーロ(23,602円:1ユーロ=139円))を下回った場合、当該国の機関が脱脂粉乳の製造業者または取扱業者の申請に基づき同価格で買い入れるもので、EU全体で毎年10万9千トンが上限とされている。通常、毎年3月1日から9月30日の間の措置であるが、期限は2016年2月29日まで延長されている。また、昨年のロシアによる禁輸を受けて発動された民間在庫補助では、2015年6月末時点で6カ国で合計1万7632トンの脱脂粉乳が対象となっている。EUの民間在庫補助は、加盟国の民間企業が保管する乳製品の保管費用の一部を補助する制度であるが、2014年9月から脱脂粉乳を対象として発動され、価格の低迷が続いていることから3度に渡って期間が延長されており、公的買い入れの期限と同じ2016年2月29日までとされている。
EUの脱脂粉乳平均価格は、2009年の9月以降、公的買入価格を上回って推移しているものの、直近の8月16日の週は、公的買入価格までわずか0.2ユーロとなる同170ユーロ(23,630円)と今年最安値を更新するなど、リトアニアなど4カ国以外の複数の国でも公的買入価格を下回っているとの報道もある。
このような中、EUの農業協同組合中央組織である欧州農業組織委員会/欧州農業協同組合委員会(COPA/COGECA)は、現行の公的買入制度が生産者価格下落の歯止めにはなっていないとして、公的買入価格の引き上げを要請した。また、欧州農業理事会では、輸出補助金の再開の有無について討論がなされている。
これに対し欧州委員会のホーガン農業・農村開発担当委員は、買入価格の引き上げは市場志向性を重視したEU農業政策の方針に矛盾し、欧州の酪農家・乳業の国際競争力を失わせることになると指摘した。また、輸出補助金は、制度としては残っているものの、再開すれば国際市場を乱しかねないとして否定するとともに、欧州委員会としては、海外の市場開拓のための予算を確保していることから、それにより輸出を増やし市場を開拓していくべきとし、改めてこれまでの市場志向性の方針を強調した。
なお、欧州酪農危機と言われた2009年9月末には、脱脂粉乳26万7587トンの公的在庫を抱えていた。