WTO、米国の義務的原産地表示制度(COOL)に対する報復関税の仲裁案を提示(米国)
世界貿易機関(WTO)の紛争仲裁委員会は、12月7日、今年5月にWTO協定違反との決定が下されていた米国の義務的原産地表示制度(COOL)について、カナダ、メキシコ、米国の3カ国から提示されていた報復関税の水準に対する仲裁案を提示した。この仲裁案は、早ければ12月18日にも開催される紛争解決に関する特別会合で承認されることが見込まれており、この会合で承認されれば、数日内に発動できることになる。
COOLによって貿易の機会が失われた額について、カナダとメキシコは合計32億米ドルを主張していたのに対し、米国は同9100万ドルを主張していた。今回の仲裁案では、カナダに対して年間10億5472万9000カナダドル(約7億8100万米ドル:1カナダドル=0.74米ドル)、メキシコに対して同2億2775万8000米ドルを上限とする損害額の算定が行われた。
米国下院は、WTO協定違反との決定が下されたことを受け、6月に同制度の廃止を決議しているが、上院はカナダが受け入れないとしている自主的な表示制度への移行も含めて検討しており、今後の上院の対応が注目される。
関係国の反応
今回の仲裁案に対し、米国政府は、米国に不利な仲裁案となったことに失望しているとしつつ、報復関税が実際に発動されれば3カ国の経済に不利益を与えるとして、米議会に対応を求めている。一方、カナダ政府は、同国とメキシコに有利となった仲裁案を歓迎し、米上院がCOOLの廃止を決めないのであれば、正式決定後、速やかに報復関税発動の手続きを進めるとしている。メキシコ政府は、これまでのところ、仲裁案への反応を示していない。
畜産物貿易に与える影響
報復関税の対象品目や関税の水準は、今のところ明らかでないが、各種の畜産物が含まれることは確実とみられる。
全米豚生産者協議会(NPPC)のプレステージ会長は、カナダとメキシコは、米国の豚肉にとって、1位と2位の輸出先であり、報復措置が発動されれば輸出に影響が出るだけでなく、関連ビジネスや消費者も悪影響をこうむることになるとし、議会に対して直ちにCOOLを廃止することを求めている。アイオワ州立大学のヘイズ教授によれば、現在、米国の養豚農家の収益性は、ネガティブ(豚の出荷により、損失が出る状況)だが、報復措置が発動されれば損失が大幅に拡大する見込みとなっている。
米国の食肉輸出量に占めるカナダとメキシコの割合は、2014年には牛肉が31%、豚肉が36%となっている(表)。このため、報復関税の水準によっては、米国から両国への輸出量が減少し、米国の食肉需給や価格に影響が出ることが予想される。
また、COOL制度の対象品目ではないが、報復措置の対象となる可能性が高い乳製品について、全米生乳生産者連合(NMPF)と米国乳製品輸出協議会(USDEC)は連名で、米議会に対して、報復措置の回避に向けた行動をとるよう要請している。カナダとメキシコは、米国にとって最大の乳製品輸出先であり、両国合計で年間20億米ドル相当の米国産乳製品を輸入している。
【平石 康久 平成27年12月8日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9805