欧州委員会は3月14日の農業理事会において、農業が酪農、豚肉、果実・野菜を中心に現在直面している危機の深刻さとその継続期間の長さから、各加盟国の生産者支援に向けた取り組みが効果をあげるよう共通農業政策(CAP)の枠内で、域内市場を守り、生産者を支援するための特別追加支援措置を発表した。
フィル・ホーガン農業・農村開発担当欧州委員は、今回の特別措置が昨年9月の総額5億ユーロ(630億円)の緊急支援措置を補完するものであるとし、EU各国の農相に自国の実状に合わせてこの措置を実施するよう促した。
具体的な対策は以下のとおり。
1 自発的な生乳供給計画の策定
生産者団体や協同組合、またはその広域団体が、期間限定の生乳供給計画を策定できることと
する。これは、農業部門において市場不均衡となった緊急時の特例措置として共通市場規則(CM
O)に規定されている措置であり、現行のCAP(対象期間:2014年〜2020年)にも盛り込まれている。
現状の酪農部門の危機的な状況はこの規定に当てはまると判断したものである。
2 加盟国の生産者支援の増額
加盟国独自の補助の生産者1人当たりに支援できる額を3倍の年間1万5000ユーロ(189万円)に
引き上げる。
3 公的買入量の上限引き上げ
脱脂粉乳とバターの公的買入の対象数量を、現行の10万9000トンと5万トンから21万8000トンと
10万トンにそれぞれ2倍に引き上げる。
4 食品流通チェーンにおける生産者の位置付けの法制化
昨年9月の緊急支援策において措置された食品流通チェーンにおける生産者の位置付け強化に
ついて本年秋に予定されている審議会の報告に基づき、速やかに法制化に取り組む。
5 豚肉部門の支援
豚肉の民間在庫補助(PSA)を実施する。実施時期や枠組みについては精査する。
6 食肉市場観測サイトの新設
2014年4月に立ち上げた牛乳・乳製品市場観測サイト(MMO)と同様に、食肉(牛肉および豚肉)
の市場動向を観測し、適宜情報を提供する食肉市場観測サイトを新たに設置する。
7 貿易交渉の推進
農産物の取り扱いに留意し、EUの利益の確保を前提に新たな市場を開く。
8 輸出振興策の拡充
EU農産物のための第三国市場を開拓するため、1億1000万ユーロ(138億6000万円)の2016年
予算のうち、昨年9月の緊急支援により豚肉部門と酪農部門に配分された3000万ユーロ(37億80
00万円)を増額する。
9 ロシアの衛生植物検疫措置(SPS)に係る禁輸への対応
ロシアのSPSに係る不当な禁輸に対して引き続き解除を求めて交渉する。
10 投資支援
生産者や加工業者が生産性向上のための投資に対する支援について、欧州投資銀行(EIB)や
欧州戦略投資基金(EFSI)を活用する。
11 輸出補助金
輸出補助金の加盟国ベースでの実施可能性について、EIBや各加盟国の関連機関と検討する。
12 果実と野菜部門の支援の延長
本年6月30日に期限を迎えるロシア禁輸措置に係る支援措置を一年間延長する。
13 農村開発支援の運用改善
現行の農村開発プログラムをより農業危機に適切に対応できるよう改善する。
なお、昨年9月の緊急支援措置により各加盟国に配賦された予算を消化した加盟国は10カ国にとどまると言われている。ホーガン欧州委員は、今回の特別追加支援を含めて、各加盟国の速やかな実行を促した。