EU最大の農業生産者団体であるCopa Cogeca(欧州農業組織委員会/欧州農業協同組合委員会)は4月21日、ブリュッセル市内のホテルで、畜産物の消費促進キャンペーンの旗揚げ式を行った。このキャンペーンは、畜産物の価格が低迷するなど畜産生産者の経営が困難な状況にある中で、畜産物の持つ食品としての価値、畜産農家の経済活動としての価値、また、社会的・環境的な付加価値を消費者に提供することで、畜産物の消費を拡大することを目的としており、旗揚げ式には、欧州委員会、欧州議会、欧州理事会からの出席に加え、メディアや有名シェフらも出席した。このキャンペーンは、2016年・2017年の2年にわたって行われ、毎月、加盟国のいずれかでイベントが実施される。具体的には、有名シェフによる料理ショー、報道関係者を対象にした啓発イベント、農場訪問、簡単なレシピを紹介した料理本や料理ビデオの提供、SNSを利用した意見交換、生産者および農業協同組合の取り組みをまとめたパンフレットとビデオの提供、写真コンテストなどとなっている。
欧州農業組織委員会のメリルド会長は、食肉は人にとって重要なたんぱく源であること、さらに畜産農家の活動が地域によっては地域経済を支える重要な位置づけにあることを述べ、畜産物価格が低迷する中で、このキャンペーンを行う必要性を訴えた。現在進行中のEUと南米南部共同市場(メルコスール)との自由貿易交渉についても触れ、交渉が合意されると牛肉部門への打撃が大きいことを指摘し、EUの生産者が実施している環境やアニマル・ウェルフェアへの厳格な取り組みをメルコスール各国が実施していない点を問題とした。
このキャンペーンでは、消費者にいかにEUの生産者が高い基準の下に生産しているかを伝え、あわせて畜産生産者の活動の経済的価値や景観に寄与する付加価値を伝えたいとした。さらに、昨今の調理時間の短縮化の傾向があることから、簡単に調理できるレシピの開発と紹介が必要であることを添えた。
EUの畜産は、豚肉価格が長期低迷するなど厳しい状況にある。EUの農畜産物に対するロシアの禁輸措置の影響も大きく、また、一般的に健康面から野菜の摂取が推奨される一方、食肉については太るなどという誤解もあり消費は伸びていない。さらに、昨年10月の世界保健機関(WHO)付属組織である国際がん研究機関(IARC)による加工肉などの発がん性についての発表も、消費停滞に影響を与えたとされている。
2015年12月に欧州委員会が公表した2025年までの中期需給見通しによると、途上国の経済発展と人口増加により2025年の世界の食肉消費量(羊肉、山羊肉を含む)は2015年比で15%増となるが、一方でEU域内の食肉消費は、高齢化に伴う1人当たり消費の減少などから0.5%増にとどまるとされた。品目別では、牛肉と豚肉の消費が伸び悩む中で鶏肉が増加し、牛肉・豚肉・鶏肉の消費はそれぞれ、1.8%減、0.6%減、3.4%増とされている。