5月30日付けの現地報道(バンコク・ポスト)によると、タイ商務省傘下の公立倉庫機関(Public Warehouse Organization:PWO)は、政府の価格安定対策により買い上げたキャッサバについて、一部の焼却処分を計画している。
タイでは、2013年まで、農家保護のため、キャッサバなどの農産物に対して、「担保融資制度(注1)」と呼ばれる一種の価格安定対策がとられており、同制度が、今回の処分計画に関係している。同制度は、「質入れ」に似た制度で、価格低落時、生産者が農産物を政府に預け、政府はそれを担保に一定価格で農家に融資を行うというものである。これにより、出荷が集中して価格が低落する時期の出回り量を調整し、生産者販売価格の低下を防ぐことを目的にしていた。
ただし、本来、価格回復時に、農産物は農家に買い戻されるはずであるが、実際には、農家は買い戻さずに「質流れ」となる場合が多く、実質的に「政府の買い上げ制度」に近かった。長期の保管経費や、市場放出時の相場次第で「逆ざや」となるなど、政府が、多額のコスト負担を強いられることが課題とされ、2014年以降は、基本的に農産物を担保として預けない「融資制度(注2)」がとられている。
同報道によると、今般、PWOは、かつての担保融資制度に基づく保管とみられる2008/09年度分の3万1400トン、2011/12年度分の9万9000トン、2012/13年度分の25万トンのキャッサバについて、焼却処分を計画している。処分の理由は、毎月1100万バーツ(3300万円:1バーツ=3円)に及ぶ保管経費の削減であり、これらのキャッサバのほとんどは、すでに腐敗が進み、食用はもちろん飼料としても利用できない状態にある。ただし、2011/12年度および2012/13年度分の一部は、バイオエネルギーとして利用可能であるため、PWOは、受け入れ可能な工場を探すとしている。
焼却処分には、最終的に商務大臣と関係委員会の許可が必要となるため、PWOは、近日中に許可を求める予定となっている。
注1および2 : タイの農家保護政策については、以下を参照。
既報「タイのキャッサバの需給動向とエネルギー政策」
http://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000486.html
既報「タイのでん粉事情」
http://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000263.html
農林水産政策研究所「タイの農業と農業政策」
http://www.maff.go.jp/primaff/meeting/kaisai/2010/pdf/2114_2sec.pdf
【根本 悠 平成28年6月3日発】