オランダ、養豚の再活性化のための行動計画を公表
オランダ政府と養豚生産者などにより構成される「活力ある養豚グループ」は、かつての養豚先進国としての輝きを取り戻し、今後、グローバル社会においてオランダの養豚業が生き延びていくための具体的な行動計画である「養豚再活性化行動計画」を6月23日に公表した。
オランダは、九州とほぼ同じ国土面積の中で1260万頭(九州の4倍)の豚を飼養し、高い繁殖技術、資本集約型養豚、EU基準を上回る環境規制・アニマルウェルフェア対策などで世界の養豚業の最前線を走ってきた。豚肉の自給率は250%以上であり、生産した豚肉の半分以上が輸出され、EU域内及び域外市場への依存度が高い。
近年、欧州の豚肉生産勢力図に変化が見られる中、2014年終盤から2年近くに渡る豚肉卸売価格の低迷もあって、オランダの養豚生産者も他のEU諸国の多くの養豚生産者と同様に経済的に厳しい状況に置かれていた。そのような状況を打開するため、生産者などが協力して、需要を第一に捉えた生産が重要であるという行動計画が作成された。以下、その概要を紹介する。
養豚の再活性化行動計画作成の背景
オランダの豚肉産業の中で、生産部門は投資対効果が唯一マイナスになっている部門である。このように豚肉産業の中で生産者の置かれている厳しい状況において、生産部門の構造改革は、将来、オランダの豚肉産業(遺伝子、飼料から小売まで含む)が生き残るために必須と考えられた。
2015年、ローゼンソール元外務大臣の旗振りの下、オランダ養豚協会(POV:以下「養豚協会」という。)、オランダ経済省、ラボバンク(農協系金融機関)からなる「活力ある養豚グループ」は、養豚業の再活性化のための行動計画を作成するための検討を開始した。この行動計画は、短期的(2016年)・中期的(2017〜2020年)に、生産者と豚肉産業に具体的な結果を出すことを目標に掲げている。
この行動計画の作成に当たっては、豚肉産業を構成する関連団体が集まって数回の会合が開催され、その結果、豚肉産業の構造改革が必要とされた。今後は、生産を増やすことが目的ではなく、独創的でかつ良質な豚肉を生産することが重要とされ、そのためには、消費者の嗜好に対応した製品の生産が重要となり、かつ持続的で環境負荷を減らし、効率的な生産をしなければならないとされた。
養豚業の経済的位置づけ
オランダの豚肉産業は2万6000人以上を雇用し、80億ユーロ(9200億円:1ユーロ=115円)の生産額と50億ユーロ(5750億円)の輸出額を誇るオランダ経済を支える柱の一つとなっている。この養豚業の再活性化のための行動計画は、国内外でのオランダの生産者の競争力を強化するものである。これは、生産者、業界を構成する関係者と政府が協力し合うことによって、生産者が効果的な実行力を持つことができ、同産業の関連部門の活性化を促すことができるとしている。
行動計画には、具体的な成果が2016年から出ることが求められ、2020年には生産者の投資対効果が6%〜8%の利益を出すことを目標としている。
個人主義から集団主義へ
目的を達成するためには、個人の努力には限界があり、協力し組織的に活動することが必要である。好きなようにやる個人主義の時代は終わり、養豚業の将来は協力し合うことにあるというスローガンが掲げられた。
生産者は、豚肉産業を構成する他の組織と契約を結ぶことになるが、これらの組織もそれぞれの市場でのパフォーマンスの改善を目指さなくてはならない。そして、それも豚肉産業を構成する他の部門の組織と協力し合うことで達成される。産業内の川上から川下の中で縦に繋がることにより、生産者は、国内外の消費者の需要に応え易くなる。
また、ふん尿はこの産業の重要な課題である。堆肥化によりさらに付加価値を加えるべきとし、堆肥のマーケティング・コストの低減を指摘している。それには、鶏肉産業で成功しているモデルを参考に生産者が率先して行う必要があるとしている。
さらに、国内外の市場で高い評価を得ている豚肉、肥育豚、素豚の各段階で実施されている品質保証システムを強化していくことにより、オランダ産豚肉に競争力が増すとした。
最大限の努力と責任の認識
養豚業の再活性化には、関連する部門の協力が必要である。生産者は個人では限界があり、産業内での新たな連携の構築が必要とされる。さらに、生産者を組織化し、生産部門の指示系統を構築するために養豚協会の位置付けを強化する。
活力ある養豚グループと関連する産業の業者は、自らの責任を認識しなければならない。養豚協会、オランダ経済省、ラボバンクは、この行動計画で述べられる業務と責任を果たす必要がある。それぞれの合意事項を確実に達成し、3つの行動指針を履行することを認識しなければならない。
4つの基本的な前提事項
1 市場の需要に応じた生産
生産者は、供給主体の生産から需要主体の生産に切り替える必要がある。消費者は、食品の安全性、製造元、製造方法に関心がある。それは、良質で、美味しく、安全性が保障され、持続的な生産を進めていくことを意味する。
2 輸出力の強化
輸出先の市場を分析して需要を把握することが必要である。激しく変化する世界市場の需要を汲み取って生産し、加えて独創的で、高品質なオランダ産ラベルの製品を生産することで自ずと輸出は増える。輸出促進プラン、需要拡大キャンペーン、国際見本市への参加を活用することで相乗効果が期待できる。
3 豚肉産業及び豚肉のイメージの向上
オランダ養豚の特徴である安全で革新的な製造方法とオランダ産豚肉の品質の高さを、オランダ国内外の利害関係者、取引相手、卸売業者、消費者をターゲットに情報提供し、オランダ産豚肉に対する前向きなイメージを与える必要がある。
4 生産者の所得向上
所得向上のためには、収入を増やす一方、生産コストを下げる必要がある。収入を増やすにはオランダの品質保証ラベルの認証を受けた製品を生産することである。それは、消費者が良質なものに適正な対価を支払うという最近の購買モデルによりなり立つ。生産コストは、品質検査方法の改善により下げる余地がある。
さらに、ふん尿の堆肥化と高付加価値肥料の製造により所得向上につながる。
3つの行動方針
上記の4つの基本的前提事項は、以下の3つの行動方針の実施により達成される。
行動方針1:共同会社などによる効率的な運用
品質保証された豚肉の提供は、国内外の市場において競争力を維持する上で重要な要素となるが、当該製品の市場への提供に当たっては、生産者と取引相手先などが共同で作った会社や協同組合により実施することにより販売に係るコストが低減される。
このように産業内の縦の繋がりによる連携により効率的な流通を図る。
行動方針2:再活性化と革新
豚肉産業における生産部門の構造改革および革新のため、養豚協会とラボバンクは養豚再活性化団体を設立する。この団体は、活動的な生産者がさらに拡大し、将来の見通しの悪い生産者に対しては経営の停止を促すとともに、豚肉産業に対する社会の認識を改善することを支援する。豚肉産業の再活性化と革新をもたらすために、以下の4つの手法により実施する。
ア 養豚開発団体
拡大意思のある経営者を支援し、経営の継続が困難と思われる経営者の離脱を支援する。具体的には、離農者(見込みを含む)の施設の紹介や拡大するための適地のコンサルティングの実施や、離農を検討している生産者に対しては、カウンセリング、職業ガイダンス、職業トレーニングを提供。
イ 革新基金
飼料、豚房、動力源などの革新に資金提供する。オランダの品質保証システム(CQS)や産業情報システム(CIS)の開発にも使われる。また、未来志向の生産者に対しビジネス・コーチ、トレーニング・コースなどにより管理技術などの習得を支援。
ウ 品質・持続性
基金
品質保証システム(CQS)や産業情報システム(CIS)の認定を受けるために必要とされる製造方法の変更に要する資金を提供。
エ 投資・革新基金
ふん尿処理、肥料の付加価値化のための設備投資などに資金提供。
行動方針3:低コスト化とふん尿処理
オランダの養豚に係る生産コストは、その他のEU諸国より高い。これは、EU基準を上回るオランダ政府による環境規制と家畜の高い飼養密度に起因する。
同グループの分析によると、この規制は、より効率的に実施することができ、生産方法の点検と検査はよりシンプルに効率的にできるとされる。
オランダの養豚部門は、ふん尿処理は完全に実施されているが、堆肥の高コスト構造が問題となっている。
生産者と養豚協会は、ふん尿を処理する地域団体を設立し、生産者は、その団体のメンバーとしてふん尿の処理を委託できる。ふん尿は堆肥化され、産業内で協力し合って提供先を開拓する。より付加価値のある肥料として販売することにより、ふん尿の処理コストは相対的に低下する。ふん尿の処理コストは、2020年までに1トン当たり10ユーロ(1150円)以下に引き下げることを目標とする。
おわりに
豚肉産業を構成する各部門の関係者それぞれが、この行動計画に則って確実に行動するならば、養豚部門の構造改革が実現し、持続的な生産が可能となるであろう。また、これは同産業内のすべての部門に当てはまる。
上述したことは、養豚生産者だけではなく、他の関連部門についても言え、政府はこの行動計画を成功させる責務がある。同産業を構成するすべての者がそれぞれの利益となるよう、それぞれの責任を果たすために協力する場合、活力ある養豚を実現することができる。
【調査情報部 平成28年8月25日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527