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WTOで米国との係争が活発化(中国)

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中国は2016年のWTO国別審査をはじめ、WTOの枠組みを通じた各国との議論の中で、国境措置の運用における透明性の確保や、貿易関連施策における政府の介入の度合いの観点から、国有企業(STE:State Owned Enterprises)などのさらなる改革を加速するよう米国を含む加盟各国から要請されており、12月に入ってこれらに関連した公表が活発化している。

農産品国内支持に関する係争

米国は12月5日付でWTO事務局に、中国の農業生産者に対する国内支持についての紛争解決小委員会の設置を要請した。これに先立つ9月13日から2国間で同問題に関する2国間協議を開始し、10月からは米国のほか豪州、カナダ、EU、タイもこの協議に参加して議論を続けてきたが、解決に至らなかったことから今回の小委員会設置要請となった。  米国の主張によると、中国がWTO加盟時に約束した国内助成総量はデミニミス水準として許容される農業総生産額の8.5%以下とされるが、実際には主要穀物である小麦、コメ(短粒種および長粒種)、トウモロコシで2012〜2015年の助成総量が8.5%を上回っているとした。米国は、中国が当該期間に食料安全保障の観点から備蓄政策や最低買付価格保証などをこれらの品目について行っていたため、市場価格支持相当(内外価格差×生産量)として削減対象とされる「黄の政策」に当たると指摘している。  また、上記の点について2015年9月の公式農業会合で米国、EU、カナダより質問された中国は、公的備蓄のための政府調達価格は市場動向を反映して決定され、公的備蓄は不安定な市場条件下で国内穀物生産の安定化を確保し、生産者の生活を保護することを目的としたもので、「緑の政策」の要件を満たすと説明していた。

穀物の関税割当の運用に関する係争

一方、紛争解決小委員会の設置に至っていないものの、米国は12月15日、穀物(小麦、コメ、トウモロコシ)の関税割当の運用についても、協議を開始するよう中国当局とWTO事務局に対し要請した。これによると、米国は、中国がWTO約束に基づく関税割当の運用に関し、 ・透明性と予測可能性の確保を怠っている。 ・明確に特定される事務手続きの確保を行っていない。 ・関税割当の運用において公平性を欠く。 ・枠の消化率向上のための努力を怠っている。 としている。この背景として、関税割当の実績に関する中国のWTOへの通報には、全体の割当実績以外、具体的な情報がほとんど記載されていないことから、運用の透明性に関し検証することができず、加盟各国の不満が高まっていたことがある。  また、中国はこれらの穀物の関税割当とあわせて、国有企業を通じた国家貿易も実施している。それぞれの品目の輸入に際し国有企業に配分されるシェアは、小麦90%、コメ50%、トウモロコシ60%とされるが、実際の消化率が低いため、政府の意向を汲んだ国有企業により意図的に輸入が抑制されている可能性が指摘されている。
図 トウモロコシの関税割当枠消化状況
図 トウモロコシの関税割当枠消化状況

米国の国内情勢の影響

これに関連して米国大統領府は12月15日、オバマ政権の任期満了にあたって政治的成果を強調するために、2009年の就任以降、WTOの紛争解決メカニズムを通じ新たに24件の案件について争った状況について明らかにした。13件で勝訴し、4件で妥当な解決に至り、9件が継続審議中としている。また、中国関連は15件であったなどとオバマ政権の成果をアピールしている。ただし、ここで紹介した2件の係争はいずれも目新しいものではない。
注:中国は2001年12月のWTO加盟以降、貿易政策検討制度(TPRM)に基づき、協定の遵守状況の確認と関連政策の透明性向上を目的に、2年ごとに国別審査を受けており、2016年に通算第6回目の審査が実施された。国別審査の頻度は加盟国の世界貿易シェアによって決定されており、上位4か国(EU、米国、中国、日本)は2年ごと、その他の国は4年もしくは6年ごとに実施されている。なお、WTO事務局は12月21日、2019年から国別審査の頻度を現行の2、4または6年ごとから、3、5または7年ごとに変更し、加盟国からの質問と審査対象国からの回答のタイミングについても見直しを図ると公表した。
【木田秀一郎 平成28年12月27日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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