WTOパネルが、インドネシアの農畜産物の輸入制限に関する報告書を公表(インドネシア、NZ、米国)
平成28年12月22日、世界貿易機関(WTO)紛争解決小委員会(パネル)は、インドネシアの農畜産物の輸入制限をめぐりニュージーランド(NZ)と米国が紛争解決を付託していたことについて、インドネシアの措置がWTO協定に適合していないとして、両国の主張を認める報告書を公表した。これに関し、牛肉についての内容や経緯は以下のとおりである。
2010年、インドネシア政府は、国内の肉用牛生産を振興し、輸入依存から脱却することを目的に、2014年までに自給率を90%に引き上げる目標を掲げ、国内の牛肉価格の動向を勘案しつつ、生体牛および牛肉の輸入を規制するなどしてきた。2014年に就任したジョコウィドド大統領もこの目標を踏襲している。
NZと米国は、2011年以降、インドネシアの輸入制限は、WTO協定の義務、特に輸入制限を原則として禁止している1994年ガット(GATT)第11条1項などに抵触するとして、繰り返しインドネシアに2国間協議の申し入れを行ってきた。しかし、協議によって問題を解決できなかったため、2015年5月、両国の要請に基づきインドネシアの執っている貿易上の措置を審査するためのパネルが設置された。両国が不当とした内容は以下のとおりである。
・食肉(牛肉、鶏肉など)の輸入に対して禁止・制限措置を講じていること。
・これらの商品の輸入に対して貿易制限的な輸入ライセンスの要件を課していること。
・輸入ライセンスに関して十分な情報提供や公表を行っていないこと。
・これらの輸入品の扱いが国産品に比べて不当なこと。
今回パネルが公表した報告書において、WTO協定に適合しないとされた牛肉関連の輸入制限は以下のとおりである。
・政府が基準となる国内小売価格(基準価格)を設定し、四半期毎の同価格が基準価格の95%を下回った場合、翌四半期の輸入が禁止される。
・輸入業者は申請量の80%以上を輸入する必要があり、これに達しない場合は、商業省により罰金などのペナルティが課せられる。
・輸入牛肉はレストランやホテルでは販売できるが、量販店や生鮮市場では販売できない。
NZ外務貿易省は、2015年のインドネシア向け牛肉輸出量は、輸入制限が始まる前の2010年と比べて約80%減少しており(図)、輸入制限による損失は5〜10億米ドルに上ると試算している。さらに、NZの現地報道によると、トッド・マクレー外務貿易相は、今回の結果は、NZの農畜産物輸出にとって重要であり、インドネシアの輸入規制は改善されるだろうとしている。
また、米国のマイケル・フロマン通商代表は、今回の結果により、インドネシアの不当な貿易制限が取り除かれると、世界第4位の人口を有する同国に対する米国の高品質な農畜産物の輸出は拡大するとしている。また、トム・ヴィルサック農務長官は、今回の結果を「大成功」として、米国の農家の競争力はインドネシアにおいて回復すると見込んでいる。この他、米国食肉輸出連合会(USMEF)は、インドネシアがかつて第10位の米国産牛肉輸出先国であり、市場としての潜在能力も備えていたものの、さまざまな貿易障壁によって輸出拡大が阻まれてきたことに触れたうえで、今回の結果を評価する声明を発出している。さらに、米国で最大の農業圧力団体である米国農業連合会(American Farm Bureau Federation)も、本件についてオバマ政権およびフロマン代表に対し感謝の意を表明している。
ただし、インドネシアは、パネルの判断に不服がある場合には、WTOの上級委員会に申し立てることができ、同国の貿易大臣はマスコミに対し、今回の結果を受けて不服申し立てを行うことになるだろと述べている。
【青沼悠平、竹谷亮佑、野田圭介 平成28年12月28日発】
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