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酪農産業をめぐる諸課題 〜IDFA年次会合から(2)〜(米国)

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 1月29日(日)から2月1日(水)にかけて、フロリダ州オーランド市で国際乳食品協会(IDFA)の年次会合が開催され、主催者によると1100人を超える酪農・乳製品関係者が参集した。
同会合は、参加者らの意見交換の場としての側面がある一方、10以上のセッションが開催され、最近の米国酪農産業をめぐる諸課題について専門家らによる議論が交わされた。このうち、1月30日(月)に開催されたセッションの概要について、以下の通り報告する。
 

食料政策と次期農業法の行方

 「食料政策と次期農業法の行方(Food Policy and the Farm Bill- What’s Next?)」と題して、IDFAのデヴィッド・カーリン氏が進行役を務め、3名のパネリストが意見を交わした。

(パネリスト)
・クリスタ・ハーデン氏:デュポン社、副社長(前USDA首席補佐官)
・デール・ムーア氏:アメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)、農業・食料政策部長
・ランディ・ラッセル氏:ラッセル・グループ社、社長(元USDA補佐官)

次期農業法の策定

 次期農業法については、意見や志向を異にする関係者が多すぎることなどから起草の時点で一筋縄ではいかないだろうとの意見が相次いだ。
 レーガン政権で農務長官補佐官を務めたラッセル氏は、「下院では非常に保守的な30数名の議員が、現行農業法の支持水準に強く反対している」と述べた。また、ムーア氏は、「新農業法の成立には上院での賛成が60票は必要になるであろう(注)」との見解を示した。
 ハーデン氏は、新農業法の成立には、議会での超党派の支持が必要であることを強調し、この実現には、上院農業委員会少数党幹部のデビー・スタベノー議員(民主党、ミシガン州選出)と下院農業委員会少数党幹部のコリン・ピーターソン議員(民主党、ミネソタ州選出)の動向がカギとなるとした。

(注)議事進行の遅延を目的に意図的に長時間の討論を行うことで議事妨害を図った場合、上院議員の5分の3(60議席)以上の賛成を以て、その討論を終了させることができる。
 

次期農業法の性格

 ハーデン氏は、「現行の予算体系では、落花生産業に対して5年間で53億ドルの支出が約束されているのに対し、酪農に対しては10年間で7億7500万ドルにすぎない」とし、次期農業法の性格は予算によって決まるとした。
 また、ラッセル氏は、「栄養補助プログラム(注)を農業法に含めるべきか、それとも単独のプログラムとすべきかについては、政治的に大きく意見が分かれているものの、農業法予算の大部分を占めているこのプログラムを外しては農業法が成立しないであろう」と述べた。

(注)一般にフードスタンプと称される。

乳製品の輸出

 ラッセル氏は、米国の乳製品輸出が生乳生産量の約16%、金額にして年間50億米ドルに相当し、輸出先国としてメキシコ、カナダ、中国がそれぞれ1位、3位、4位に位置していることを指摘した。
 また、ハーデン氏も「乳業界において輸出が重要な地位を占める」とした上で、非常に重要な輸出先市場であるこれら3カ国とも、トランプ政権による通商政策変更の主な対象となっていると述べた。
 なお、パネリストは総じて、トランプ政権による通商政策の変更に対して憂慮を表明し、変更される場合には、農業分野からの意見を聴取する場が設けられるべきであることを強調した。

移民政策

 ムーア氏は、トランプ政権が移民の強制送還のため、議会の予算措置が必要となる1万人の職員を増員する意向を表明したことに疑問を呈し、これが実行されれば、酪農、果実、野菜分野に悲惨な影響が出る恐れがあるとした。

食品廃棄

 食料供給量の30〜40%に達している食品廃棄に関しては、質疑応答の中で言及があった。
 ハーデン氏は、「食品廃棄は、開発途上国では主に収穫段階で生じているのに対し、米国を含む先進国では消費段階で生じている」、「消費者団体は多くの意見対立はあるものの、食品廃棄を減らすことでは一致して行動できるのではないか」などと述べた。
 ラッセル氏は、『○日までに販売』という食品表示が多くの混乱を生じさせており、このような表示に対する消費者の一般的な認識が醸成されていないことで、米国だけでも年間1620億米ドル相当の食品廃棄が生じる原因になっているとし、この問題が下院農業委員会の第1回次期農業法公聴会で言及されたことを評価した。
 
セッションの様子(1)(左から順に、カーリン氏、ムーア氏、ハーデン氏、ラッセル氏)
セッションの様子(1)(左から順に、カーリン氏、ムーア氏、ハーデン氏、ラッセル氏)

乳製品の国際貿易動向

 「乳製品のグローバル化(The Globalization of Dairy)」と題し、IDFAのロバート・ヨンカーズ氏の司会の下、4名のパネリストが登壇した。

(パネリスト)
・プラシャント・トリパティ氏:International Dairy Farm Comparison Network、酪農研究者ネットワーク部長
・ジョセフ・グラウバー氏:International Food Policy Research社、参与(前USDA首席エコノミスト)
・プレベン・ミケルセン氏:PM Food and Dairy Consulting社、CEO
・チャック・ニコルソン氏:ペンシルバニア州立大学、教授
 議論のハイライトとしては、グラウバー氏による「多国間貿易協定は、二国間貿易協定より有意義だ」との主張が挙げられる。
グラウバー氏は、トランプ大統領が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱し、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉および二国間交渉を望んでいるとされることに対して、「多くの二国間交渉で生じるさまざまな基準を統一するのは困難であることから、破滅的な結果をもたらすだろう」とした。また、今でもWTOやさまざまな地域貿易協定において重要な位置づけにあるとして、ガット・ウルグアイラウンドを評価した。
 また、同氏は、乳製品貿易は関税や非関税障壁により国際的に高度に保護されているとの見解を示した上で、米国と日本が二国間協定を結ぶ提案が示されている一方で、米国を除き中国を加えるかたちでTPPが進んでいる現状に大きな懸念を示した。
この他、同セッションでは世界の生乳・乳製品の需給見通しが示され、ラテンアメリカにおける生産量の増加や、インドやアフリカにおける需要の伸長についても触れられた。
 
セッションの様子(2)(左から順に、ヨンカーズ氏、トリパティ氏、ミッケルセン氏、ニコルソン氏、グラウバー氏)
セッションの様子(2)(左から順に、ヨンカーズ氏、トリパティ氏、ミッケルセン氏、ニコルソン氏、グラウバー氏)
【調査情報部 平成29年2月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9533