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下院農業委員会公聴会で酪農政策などが焦点に(米国)

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 米国下院農業委員会は2017年2月15日、次期農業法策定に向けた公聴会を開催した。今回の公聴会では、2014年農業法で創設された酪農マージン保護プログラム(MPP)について活発な議論が行われた。

2016年のMPPの概況

 MPPは、参加登録した酪農家の収益(マージン)が一定水準を下回った場合に補てん金が交付される制度で、酪農家は自ら選択した保障水準に応じて掛け金を支払う仕組みとなっている(制度の詳細については、「畜産の情報」2016年3月号を参照)。しかし、一部の酪農家から、MPPにおける飼料コストの算定方法では実際の飼料コストと乖離があり、酪農家が本来受け取るべき補?金が支払われていないとの批判も挙がっている。
【リンク】畜産の情報2016年3月号 http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2016/mar/wrepo01.htm
 2016年のMPPの加入件数は、前年比3.6%増の2万5663件であり、保障対象数量は、同1.1%増の1592億1011万ポンド(7221万6000トン)であった。保障対象数量の分布を見ると、保障水準の最も低い4.0米ドルでの加入が大幅に増加した一方、その他の保障水準ではいずれも減少した(図)。
170224海外情報図1
 2016年は、第2期(3〜4月)のマージンが生乳100ポンド当たり7.15米ドルと算定され、保障水準を同7.5米ドルか同8.0米ドルに設定している酪農家が補てんの対象となった(表1)。さらに、第3期(5〜6月)のマージンは、MPPの運用開始以降で最低の同5.76米ドルとなり、保障水準を同6.0米ドル以上に設定している酪農家に対して補てんの発動があった。
170224海外情報表1
 2016年の掛け金と補てん金の収支を平均的な規模の農場で試算すると、保障水準を同8.0米ドルまたは同7.5米ドルに設定した場合、定められた掛け金を差し引いて、それぞれ年間で1095米ドル(12万5925円:1米ドル=115円)、1345米ドル(15万4675円)のプラスとなった(表2)。一方、保障水準を同7.0米ドル以下に設定した場合は、掛け金が補てん額を上回ったことからマイナスとなった。
170224海外情報表2

公聴会でのMPPに関する議論の概要

 公聴会で、ミズーリ大学のスコット・ブラウン准教授は、MPPの現状について「2014年農業法の議論の中で、保障水準6.5米ドルでの加入が生乳生産量の70%を占めると想定されていた。しかし、2016年の状況を見ると、同水準での加入は、生乳生産量のわずか2%強であった」と説明した。また、「MPPの運用開始以降、最も補てん金が支払われたのは、2016年第3期で1117万米ドル(12億8449万円)であった。連邦議会予算事務局は、2014年〜2023年の間にMPPによって9億1200万米ドル(1048億8000万円)が補てんされると見込んでいた。また、2億5000万米ドル以上が補てんされるとの政府見込みもあった」と当初の想定との乖離を指摘し、「MPPで保障されている水準(4.0米ドル)は、セーフティネットとしては最低限で、酪農家には不十分であることから、制度を見直さなければ、参加者は減少する一方だろう」と、MPPの改革の必要性について説いた。
 コリン・ピーターソン議員(民主党、ミネソタ州選出)は、MPPの改革案として、1年単位の登録ではなく、5年間一括とすることを提案しながらも、これだけでは飼料コストの算定方法が実態と乖離しているとの一部の不満が解消されないことから、参加者の大幅な増加は見込めないだろうと疑問を呈した。これに対し、ブラウン准教授は「参加登録が長期間有効であれば、酪農家は経営戦略を再考し、より高い保障水準を選択する可能性がある」として、参加者の増加につながるとした。
 また、ヴィッキー・ハーツラー議員(共和党、ミズーリ州選出)は、現在2カ月ごとに行われているマージンおよび飼料コストの算定を毎月行うことや、酪農家がMPPと酪農経営収益保険(LGM−Dairy)の両方に加入できるようにすることなどを提案した。
【調査情報部 平成29年2月24日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397