AIで注目されるアルゼンチンの鶏肉輸出
アルゼンチンは、鶏肉生産・輸出ともに世界第8位に位置づけられている(表1)。昨今、世界的に鳥インフルエンザ(AI)の発生が確認され、鶏肉需給が引き締まっている中、同国産鶏肉の引き合いが強まっているとされる。
1.鶏肉需給動向
アルゼンチン農産業省によると、アルゼンチンの鶏肉生産量は近年、さほど伸びていない(表2)。フェルナンデス前政権下では、経済低迷が続き安価な鶏肉需要が拡大したが、飼料の主原料であるトウモロコシの生産が輸出規制(輸出税および輸出許可制度)により伸び悩んだ結果、鶏肉生産にも影響したとみられている。一方、鶏肉輸出については、為替相場が政府の介入によりペソ高米ドル安で推移していたことなどにより、輸出競争力が低下し、2014年以降減少傾向で推移してきた。
2015年12月にマクリ現政権が誕生して以降、各種輸出規制は撤廃され、為替相場も切り下げられたものの、急激な経済構造の変化に伴うひずみが生じているとされ、国内経済や鶏肉産業が勢いを取り戻すまでにはもう少し時間を要するとみられている。なお、USDAによると、アルゼンチンの2016/17年度のトウモロコシ生産は、前年度比3割増の3650万トンと大幅な増産が見込まれており、これに伴って鶏肉生産の拡大余力が生じるとみられている。
次に、鶏肉生産量を州別に見ると、エントレリオス州とブエノスアイレス州が全体の約85%を占めている(表3、図)。同国の商業的な鶏肉生産は、1857年にスイス系移民がエントレリオス州のサンホセに入植して以降徐々に拡大したとされているが、現在でもトウモロコシ生産が盛んで大消費地と輸出港に近い地域に生産が集中している。
鶏肉産業は、他の主要鶏肉輸出国と同様に、インテグレーター中心の生産構造となっている。Cresta roja社など国内資本のパッカーが多いとされるが、ブラジルの鶏肉最大手であるBRF社も処理・加工場を複数保有している。生産量の8割は58カ所の連邦検査施設で生産されている一方、残りの2割は、州検査施設で生産され、当該州のみで流通している。なお、ブロイラーの平均出荷日齢は、国内向けが49〜51日齢、輸出向けは37〜40日齢とされている。
2016年のブロイラー処理羽数について、第1四半期(1〜3月)は、前年同期比10.0%減に落ち込んだ。これは国内第2位のCresta roja社が2015年12月に破産宣告を受け、融資を受けて生産再開するまでに時間を要したことが大きいとされる。
2.鶏肉消費と輸出
鶏肉生産量の仕向け先は、9割以上が国内である。国内では、サイズの大きな丸どりが伝統的に好まれる傾向にあり、公式な統計はないものの鶏肉消費に占めるカット品の割合は35パーセント程度にとどまっているとされる。一方、生活水準の高いブエノスアイレス州などでは、カット品のレッグ・クォーターやむね肉を好む傾向が強まっている。世界有数の食肉消費国であるアルゼンチンの2016年の1人当たり鶏肉消費量(可食処理換算)は、牛肉に次ぐ、43.8キログラムまで増加している。将来的には45〜46キログラム程度まで伸びる余地があるともされているが、成熟傾向にあるとみられている。
このため、USDA/FAS(米国農務省海外農業局)によると、近年輸出量が減少基調で推移する中、現政権は輸出を再興すべく、新規市場の開拓のためのプロモーション活動を支援する方針を示しており、2014年まで最大の市場であったものの政情不安や通貨安で不安定なベネズエラ市場に依存せず、アジアやアフリカなどの市場への販路拡大に注力しているとされる(表4)。なお、2016年の鶏肉輸出量のうち、カット品の割合が62%で、丸どりは38%となっている。
最後に、日本向け鶏肉輸出量は表5の通りである。価格競争力がブラジル産などに比べて劣るため、微量にとどまるものの、2016年は、丸鶏、カット品共に前年を大きく上回った。
【米元 健太 平成29年2月28日発】
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