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USDA、カリフォルニア州での連邦ミルク・マーケティング・オーダーの設立手続きを開始(米国)

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連邦オーダー設立手続きに至る経緯

 米国では、ほとんどの生乳生産地域が全国に10存在する連邦ミルク・マーケティング・オーダーに含まれており、オーダー管理者が毎月用途別に設定された4つのクラス別の乳価を算定し、生産者への支払い乳価の下限値として公表している。オーダーに含まれる地域内の酪農家は、自ら出荷した生乳の用途にかかわらず、当該オーダー内で処理された全ての生乳をプールした乳価を出荷量に応じて受け取っている。
 一方、カリフォルニア州は、1969年7月1日から同州政府が運営する州独自のマーケティング・オーダーを運用しており、連邦のオーダーには参加していなかった。また、同州では、州内の飲用乳需要を確保するとの観点から、州独自の生乳クォータ制度が実施されており、この制度の施行前の1966年または1967年の飲用乳向け生乳(クラス1)の生産量を基にクォータが割り当てられ、現在ではこのクォータが売買可能となっている。クォータ保有者には、州のプール乳価に無脂乳固形分1ポンド当たり0.195ドルが上乗せされて支払われる。現在、同州の酪農家の58%がクォータを保有しており、クォータの現在評価額は、数十億ドルに達するとされている。州独自のオーダーを廃止し、連邦オーダーへ組み入れる場合、連邦オーダーには存在せず、有価物となっているクォータの取り扱いをどのようにするのかということが大きな課題となっていた。
 USDAが最終勧告を取りまとめるために2015年、カリフォルニア州内で開催した公聴会では、生産者を代表する酪農協同組合が連邦オーダーの必要性を主張している。これによれば、同州のマーケティング・オーダーによるプール乳価は、2006年までは連邦オーダーによるプール乳価と同程度で推移していたが、2007年に同州オーダーにおけるホエイの評価額が市場連動制から固定価格制へ変更されたことにより、チーズ用生乳が含まれるクラス4bの価格が低下し、同州のプール乳価が連邦のプール乳価よりも生乳100ポンド当たり0.43〜4.27ドル(平均1.85ドル)安くなったとされている。また、同州のオーダーは、他州で生産され、カリフォルニア州へ出荷された生乳をプールの対象外としており、酪農家が自ら処理する生乳(プロデューサー・ハンドラーと称されるもの)についてもプール対象外となっていることから、通常であれば最も高い飲用乳向け生乳によるプール乳価上昇効果が州内酪農家全体に均霑(きんてん)されていないとの不満も表明されている。このような酪農家の不満は、以前からあり、現行の2014年農業法にはカリフォルニア州を連邦マーケティング・オーダーに組み入れるとの規定がなされており、今回のUSDAによる最終勧告のための作業も農業法による予算措置がなされているために可能となったものである。

カリフォルニア州の酪農

 カリフォルニア州は、酪農の歴史が浅いものの、米国東部に比べて入植の歴史が浅く、酪農に適した広大な土地があり、温暖な気候により飼料資源が豊富だったことから酪農が発達し、全米の生乳生産量の約20%を生産する米国最大の生乳生産州である。連邦官報によれば、州内の酪農家戸数は、2015年現在1438戸であり、このうち1338戸が北部、100戸が南部に立地しており、北部のモデスト市を中心とした渓谷地帯に酪農家が集中している。1戸当たりの乳牛飼養頭数(乾乳牛を含み、未経産牛を含まない)は、北部が1245頭、南部が952頭となっている。同州内には広大な土地が残されており、一般には酪農の規模をさらに拡大する余地があると見られているが、同州は全米でも最も環境規制が厳しい州として知られており、過去に行った生産者に対する調査では、成雌牛1500頭程度以上の経営規模拡大は不可能であるとの見方がなされていた。

USDAによる最終勧告

 USDAは、現行農業法の規定とカリフォルニア州内酪農家の要望に応え、2015年に同州内で公聴会を開催し、2017年2月14日、カリフォルニア州に連邦ミルク・マーケティング・オーダーを設立するとの最終勧告を連邦官報に公告した。
 この公告によれば、カリフォルニア州に設立されるオーダーの生乳の用途別クラス分けは、他の10のオーダーと同じ4クラスとし、クラスVとクラスWの生乳価格の算定方法も他のオーダーと同じとすることが規定されている(表)。この理由として、USDAは、クラスVとクラスWの生乳価格の算定に使われる原料乳製品は、国内全域を対象とした流通が可能なものであるため、カリフォルニア州だけを別価格で算定した場合、州内の酪農家が不利益を被る可能性があるためとしている。生乳クォータについては、現行通り、州政府がこれを管理し、乳価をプール化する前にクォータによる上乗せ分をプール全体から控除し、残りの総乳価相当額をプールすることとした。プロデューサー・ハンドラーについては、小規模なものを除き、これらの者が処理した生乳も州全体の生乳プールに組み込むこととされた。
 公聴会では、州政府と乳業者の双方が、乳業者の生産コスト増を懸念して、チーズ用生乳の価格算定基礎に含まれているホエイの価格を従来の固定単価方式から変更することに反対したが、USDAは、乾燥ホエイが全米規模で流通することが可能な乳製品であることを理由として、他の連邦オーダーと同様、市場価格を反映する方式を採用した。
 また、他州産の生乳をカリフォルニア州内で処理した場合の取り扱いについては、特に隣接するネバダ州の大規模酪農家が出荷する生乳が飲用乳に仕向けられており、これによって州内の酪農家が本来受け取ることができるはずの飲用乳向け生乳の価格からの利益が毀損されているとして、新設される連邦オーダーの生乳プール価格に組み入れるべきとされた。
 
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 連邦官報公告によれば、カリフォルニア州マーケティング・オーダーの施行日は5月15日とされており、2月中に州内でUSDAによる設立に関する最終勧告の説明会が開催するとともに、新設の連邦オーダーからの除外申請を施行当日まで受け付けることとされている。
【調査情報部 平成29年3月14日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9533