EUの大手ばれいしょでん粉製造企業、相次いで直近の業績を発表
最終更新日:2017年3月22日
2016年末から2017年初めにかけて、EUの大手ばれいしょでん粉製造企業が、相次いで直近の業績などを発表している。
なお、EUでは、28の加盟国のうち、10カ国にて、ばれいしょでん粉が生産されている。本稿で取り上げるオランダ、スウェーデンは、でん粉原料用ばれいしょ作付面積ベースでそれぞれEU第2位と第6位の生産国である。
オランダのばれいしょでん粉企業は、需要の変化への対応に自信
ばれいしょ生産は、地域により異なる状況
オランダ唯一のばれいしょでん粉製造企業であるアベベ社が2016年12月、直近の業績を発表している。
これによると、同社の2015/16年度(8月〜翌7月)の売上高は、5億8460万ユーロ(719億580万円:1ユーロ=123円)と、前年度を4.5%上回っている。一方、同年度のでん粉原料用ばれいしょ生産は、地域によって異なる気象条件の影響を受けたとしている。ある地域では、気象条件が良く、農地1ヘクタール当たりでん粉生産量も例年を上回った一方、別の地域では多雨に見舞われ、でん粉生産量の減少が顕著とされている。これらの結果、全体的には例年並みかそれ以上のでん粉生産量を確保したとしている。
なお、2016/17年度の生産状況については、9月の高温により全国的にばれいしょの生産量は減少したものの、でん粉含有率は上昇したとしており、年度初めの時点では、比較的順調な生産状況であることを示している。
需要の変化に応える重要性と自信を強調
同社は、でん粉関連製品の需要動向にも言及している。
まず、消費者意識の変化により、動物性タンパク由来の代替となる食品への需要が高まるとともに、「ベジタリアン」や「フリー・フロム食品(注1)」が重要な概念になっていることを強調している。その上で、同社は、そうした需要に応えるとともに、地域ごとにテクスチャー(注2)や味覚へのし好にも対応した特別なばれいしょでん粉製品・ばれいしょタンパク製品の製造に力を入れるとしている。
次に、食品産業向け製品に関して、「クリーンラベル(注3)」需要の高まりを特筆している。その上で、同社としては、クリーンラベル需要を満たしつつ、十分な機能性と製造しやすさを有する化工でん粉の製造を進めるとしている。
また、工業向け製品に関して、食品包装分野の重要性を強調している。これは、消費者が、従来の化学合成物質による包装ではなく、植物由来物質による包装を重視する傾向の高まりが背景にあり、でん粉製品は、そうした需要に応える上で最適であるとしている。
注1:「○○が(含まれて)ない食品」という形で示されるさまざまな食品のこと。特定の物質などが想定されているわけではないが、「グルテンフリー」、「添加物フリー」、「ホルモン剤フリー」などとして、使われることが多い。
注2:食物摂取時の歯ごたえや舌触りなどのこと。テクスチャーを高めるための「テクスチャー改良剤」の原料として、でん粉が利用されている。
注3:一般的に、表示が単純明快かついわゆる食品添加物を利用しておらず、「ナチュラル、ヘルシー、クリーンな原材料」のみを利用している食品に対して使われる呼称。
世界規模で事業拡大
同社は、世界的な事業展開についても言及している。同社は、近年、米国ニュージャージー州とアラブ首長国連邦のドバイに事務所を設立し、それぞれの地域における販売拡大の機会を追求している。
また、アジアについては、中国を中心に急速な都市化・労働人口の増加に伴う調理済み食品市場の拡大を期待している。そうした食品においては、テクスチャーの維持が大きな課題であり、同社の製品はそうした要求を満たすものであるとして、自信を示している。
スウェーデンのばれいしょでん粉企業の業績は堅調に推移
スウェーデンには、ばれいしょでん粉製造企業が2社存在し、そのうち最大の製造企業であるリッキビュー社が2月、直近の業績を発表している。
これによると、2015/16年度(9月〜翌8月)の売上高は、13億7600万スウェーデン・クローナ(177億7880万円:1スウェーデンクローナ=13円)と、前年度を10%以上上回っている。また、でん粉原料用ばれいしょ生産者も、直近5年間、収益性の大幅な改善を経験しており、主に単収の向上、でん粉含有率の上昇、同社主導による作付面積の増加によるものとしている。
2016/17年度についても、年度当初の4カ月、同社の業績は、でん粉原料用ばれいしょ価格の上昇にもかかわらず、好調な推移としている。また、同年度のでん粉原料用ばれいしょの生産量は、前年度を7〜8%上回ると見込まれている。
さらに、同社は、食品産業からの需要に応えるため、特殊なでん粉の製造能力の拡大に向けた、投資を計画している。
【根本 悠 平成29年3月22日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9806