米国農務省動植物検疫局(USDA/APHIS)は6月23日、本年3月に同国のテネシー州、アラバマ州、ケンタッキー州、ジョージア州において連続的に発生した高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)および低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)の疫学報告書をAPHISのウェブページにて公表した。報告書は全39ページから構成され、発生の概要、各発生事例の疫学的考察、ウイルスの遺伝的な系統学的考察、野鳥のサーベイランスなどの結果がとりまとめられている。
同報告書は、発生状況を振り返って分析することで、将来の病気の予防に資するものである。2014〜15年のHPAIの大発生の分析は、同国の発生時の対応を一段と進展させ、現在ある迅速な初動対応と24時間以内に殺処分するという目標は感染拡大を最小限度にとどめることに役立っている。ただ、飼養家きんにおける本病の感染予防のために最も重要なことは、農場バイオセキュリティの順守だとしている。
なお、本報告書は、APHISの獣医部(Veterinary Services)、野生動物部(Wildlife Services)、発生州の当局が協力し、発生農場の現地調査により収集したデータなどを専門的に分析したものである。主な内容は以下のとおり。
【発生概要】
- HPAIについては、合計2カ所の商用養鶏場で発生が確認され、1例目がテネシー州の肉用種鶏農場で確認(国立獣医研究所にて3月4日に確認)され、2例目も同州の肉用種鶏農場で確認(同3月15日に確認)された。
- LPAIについては、合計11カ所で発生が確認され、6カ所の商用養鶏場(アラバマ州×3、テネシー州×2、ケンタッキー州×1)と5カ所の裏庭養鶏場(アラバマ州×2、テネシー州×1、ケンタッキー州×1、ジョージア州×1)で確認された。
(※ 亜型はHPAIもLPAIも全てH7N9亜型であり、上記発生は全て3月に確認)
【各発生事例の原因分析】
- 商用養鶏場については、鶏舎構造として舎外にアクセスできない施設で飼われていたが、多くの鶏舎周辺には池や小川などが存在した。バイオセキュリティについては、全ての農場で衛生区域を設定しているものの、その内外で履物を必ずしも交換していない、出入りする車両を必ずしも洗浄・消毒していないなどの事例は確認された。
- 裏庭養鶏場については、商用とは異なり、全ての農場が舎外へアクセスできる形で飼われ、バイオセキュリティが商用と比較すると緩い部分が散見されたものの、商用家きん群や他の裏庭養鶏群との関わりは無く、裏庭養鶏群において、他農場から(への)の水平感染は重要な感染ルートではないことが示唆された。
- 発生農場周辺において、発生確認後に実施した野鳥サンプルからはAIウイルスは分離されていないが、これは以前に感染していたかもしれない野鳥からの限られた証拠でしかない。
- 今回の発生事例において、多くは野鳥からの感染であり、農場間の感染ルートについては限定的であると考えられるが、HPAIの2事例については、原因ウイルスが非常に高い相同性を有していることや発見されたタイミングなどの他の疫学的情報によると、1例目から2例目の農場へと(2次的に)感染が広がったと推察される。
- 鶏舎内への感染リスクとしては、鶏舎周辺のげっ歯類などを含む野生動物の存在、(穴があいているなどの)鶏舎の状態、バイオセキュリティ違反などが考えられる。
【原因ウイルスの分類と性状】
- 今回の原因ウイルス(H7N9亜型)は全て北米野鳥系統に由来するものであり、中国でまん延している同じ亜型のウイルスとは全く異なる。
- LPAIの原因ウイルスは、2016年にワイオミング州で鳥類標識調査とAIのサーベイランス調査に参加していた野鳥(ミカヅキシマアジ:Blue Wing Teal)から分離されたウイルスと近縁であり、今回のウイルスの祖先であると考えられる。
- テネシー州で2例発生したHPAIの原因ウイルスとその他LPAIの原因ウイルスは非常に近縁であることなどから、商用家きん群にLPAIとして導入された後に、家きん群の中でHPAIに高病原性化(低病原性から高病原性に変異)したことが示唆される。