オランダは九州程度の小国ながらも集約的な畜産業が行われ、国内消費をはるかに上回る農産物を生産し、世界に名だたる農産物の輸出国としての地位を確立している。乳用経産牛の飼養頭数は179万頭(2016年12月)、生乳出荷量は1432万トン(2016年)となり、日本の同頭数87万頭(2016年2月)、同生産量739万トンのほぼ2倍を有する。
その結果、土地への負荷が重く、家畜のふん尿に多く含まれるリン酸塩の排出量がEUの基準を上回っていたが、特例として基準値を上回る排出が認められていた。
そのような中において、生乳クオータ制度廃止(2015年3月末)を受けて、生産者の増産意欲の高まりから乳牛飼養頭数が増え、リン酸塩排出限度量を2015年、2016年と2年続けて超過した。
このため、欧州委員会は、2017年の排出超過については、リン酸塩排出削減計画を策定し、排出量をEUが特例として認めてきた水準まで引き下げることを条件に
これを認めた。
リン酸塩排出削減計画は、酪農、養豚および養鶏部門で1万800トンのリン酸塩を削減することを目標としており、酪農部門による削減が全体の75.9%を占める。
酪農部門の計画は以下の3つの柱からなる。
1.頭数削減計画
生産者は、本年12月までに2015年7月2日時点の飼養頭数となるよう12万4000頭を処分し、これによりリン酸塩5000トンを削減する。当初は4000トンの削減を目標としていたが、計画を上回る削減が進められたことから目標値が上方修正された。
生産者には、処分に応じて奨励金が支払われる。奨励金の単価は、8月までは経産牛換算1頭(12カ月齢以上の未経産牛は0.53頭、12カ月齢未満の雌子牛は0.23頭に換算。以下同)当たり120ユーロ(1万5600円:1ユーロ=130円)、9月以降12月までは同300ユーロ(3万9000円)となっている。
また、計画を達成できなかった場合は罰金が課される。2016年10月1日時点の飼養頭数を基準として、削減頭数が同頭数以下の場合は、同112ユーロ(1万4560円)、同頭数超の場合は、同480ユーロ(6万2400円)が徴収される。
なお、処分に当たっては、と畜のみならず、自然死、売却も可能とされている。
2.営農中止計画
2017年に経営を中止する生産者に対し、奨励金が支払われる。当初、リン酸塩2500トン(経産牛6万頭)の削減が目標とされていたが、1の進捗が順調であったことから、1500トン(同3万6319頭)に下方修正された。
早期削減を目指すことから、2月20日に受け付けられた申請1回目の奨励金は、経産牛換算1頭当たり1200ユーロ(15万6000円)に設定されたところ、予想を上回る申請があり、受け付けは1日で終了した。2回目の申請は5月8日から14日まで受け付けられ、奨励金は同730ユーロ(9万4900円)に設定された。
当初の削減目標には届かなかったものの、申請は打ち切られ、1回目の申請が9割を占める結果となった。
3.飼料削減計画
乳牛用配合飼料中のリン酸塩の含有量を1キログラム当たり4.3グラム以下に抑えることにより、リン酸塩1700トンの削減を目標とする。
同計画の対応により、2017年の生乳生産量は6〜10%減少すると見られることから、生乳生産者価格の上げ要因として期待されている。
一方、乳牛の処分により牛肉生産は増加すると見られることから、牛肉価格としては下げ要因となることが懸念されている。