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酪農・乳業の動向と貿易政策 〜IDFA年次会合から〜(米国)

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 2018年1月21日〜24日にかけて、カリフォルニア州パームデザートで国際乳食品協会(IDFA(注))の年次会合が開催された。IDFAによると、1000人を超える酪農・乳製品関係者が同会合に参加した。同会合は、参加者の情報収集、意見交換の場として毎年開催されており、今年は、「未来を形作る(Shape the Future)」をテーマに掲げ、酪農・乳製品の需給状況や今後の見通し、新たな政策に関する議論など複数のセッションが開催された。概要は、以下の通りである。
 
(注)IDFAは、全米の乳業メーカーおよび乳製品販売業者などを代表する組織であり、会員数は、約550者に及ぶ。本部はワシントンDCに構えている。全米で生産され、流通している生乳、チーズ、アイスクリームなどの乳製品の85%がIDFAの会員企業によるものとされている。
 
 

マイケル・ダイクスCEOの挨拶

 IDFAのマイケル・ダイクスCEOは、2017年の取り組みを振り返り、以下のように述べた。
・次期農業法への要望
 数カ月間にわたり、全米生乳生産者連盟(NMPF)と共同で、次期農業法における酪農政策の改善に関する要望を議会に対して行ってきた。この内容としては、酪農マージン保護プログラム(MPP)の改善、乳製品製造業者のリスク管理に関する制度の充実、補充的栄養支援プログラム(Supplemental Nutrition Assistance Program:SNAP)を通じた国内需要の創出が挙げられる。 酪農家と乳製品製造業者の双方に利益のある要望を盛り込み、互いに協力して農業法の議論に臨めたことは、特筆すべき点である。

・GI制度におけるチーズの名称
 日EU経済連携協定において、日本が地理的表示保護(GI)制度のリストに一般名称となっているチーズを含めることに反対する要望書を大統領あてに発出した。そして、12月に日EU間で「パルメザン」などがGIの対象外と決定されたことに対して、改めて歓迎の意を表する。

 ・乳製品の貿易交渉
 北米自由貿易協定(NAFTA)を含む近代的な貿易協定に対する呼びかけを行ってきた。最も目に見える成果は、トランプ大統領が、米国の乳製品業界を支持する立場を表明し、NAFTAの再交渉において乳製品分野で妥協しない姿勢がとられていることである。
 また、米国における乳製品の価値と日本、ベトナム、インドネシアおよびマレーシアとの貿易協定が経済へ及ぼす影響についての理解を促すために、米国通商代表部(USTR)のライトハイザー代表と何度も面談している。EUなどの輸出競合国が米国よりも良い条件となる交渉を進めている状況は、耐え難い。競合国が乳製品の輸出を開始した市場に参入することは、不可能ではないものの、骨が折れる。我々は、業界を代表して、メッセージを発信し続けなければならない。

 また、ダイクスCEOは、今後の乳製品市場の拡大のための3大要素として、以下の点を挙げた。
(1) 消費者ニーズと乳製品への認識
 消費者の飲料に対するニーズの多様化は、1970年代以降増加の一途を辿っており、企業は、これに対応すべく、飲料の種類を着実に拡大させてきた。業界としては、消費者のニーズに応えるだけではなく、購買傾向の理解やソーシャルメディアを通じたやり取りなどが必要である。  また、我々が発信するメッセージについても検討が必要である。特に、ミレニアル世代は、政府が発出している「米国人のための食生活指針」などではなく、家族や友人に知らせるための情報を探している。彼らは、家畜や従業員、環境に配慮した製品や責任を持って製造された製品を欲している。消費者の信頼を維持していくことが、今後重要である。

(2) 新たな商品の導入
  我々は、流行の先端に位置し、市場における優位性を確保する方法を模索し続ける必要がある。価値を持つ乳原料や市場性のある製品などは、市場拡大の機会をもたらすものである。これらの新たな製品の市場を拡大するためには、製造能力の拡大と消費者の安全と信頼を確保するために、世界的な規制を監視する必要がある。

(3) 変化および成長する世界市場
  乳製品業界にとって市場アクセスの獲得が重要なことについては、全員が同意するだろう。米国の生乳生産量は、国内消費量を上回るペースで増加しており、輸出がより重要になっている。
写真1 挨拶するマイケル・ダイクスCEO
写真1 挨拶するマイケル・ダイクスCEO

乳製品の国内市場に影響を及ぼす10の要因

 「乳製品の国内市場に影響を及ぼす10の要因(TOP 10 Issues in US Dairy Markets)」と題して、ジョン・ニュートン氏(American Farm Bureau Federation(AFBF)、マーケットインテリジェンス部長)から、概略以下の発表があった。

(1) 農家の経済性の悪化
 農家の純利益は、2013年の46%にまで減少している。また、酪農家の収入は、乳価の低下などにより、2014年から150億米ドル減少している。これを1酪農家当たりに換算すると30万米ドルの減少となる。この収入の減少により、酪農家の借入金返済能力に影響が出ており、資産に対する負債の割合は、4年連続で増加している。

(2) 消費者の嗜好の変化
 ベビーブーマー世代を上回り、最大の人口を占めるミレニアル世代は、家庭での食事に最もお金をかけない傾向にある。    
 近年、全脂牛乳やオーガニック牛乳を除き乳飲料の販売額は減少している。一方、アーモンドミルクやココナッツミルクの増加が著しい。このような動向は、生乳生産量が増加傾向にある状況下で、乳業界に大きな影響を与えている。

(3) 酪農産地の変化
 米国の生乳生産量は、この10年間で306億5400万ポンド(1390万トン)増加した。州別に見ると、飼料穀物安などを背景に生産が回復基調となったウィスコンシン州で最も(67億2500万ポンド)増加した。

(4) 生乳生産量の増加
 生乳生産量は、1頭当たり乳量の増加を背景に、2027年までに2500億ポンド(1億1340万トン)に達すると見込まれている。つまり、現在の生乳生産量に380億ポンド(1724万トン)が上乗せされる。

(5) 乳業工場へのアクセス
 増産分の生乳がすべて処理できるよう、工場の規模拡大や新設など乳業工場への投資が必要となっている。

(6) オーバー・オーダー・プレミアム(注2)
 生乳生産量が増加する一方、処理能力が不足しているため、一部の生乳を遠方の乳業工場に出荷せざるを得ないという状況がある。すでに、中東部および南東部では、オーバー・オーダー・プレミアムが急激に減少している。例えば、ミシガン州は、生乳処理能力の問題により、最も乳価の低い地域の一つである。
(注2)乳業メーカーから酪農家へ支払われる乳代のうち、連邦生乳マーケティングオーダー(FMMO)が定める最低取引価格に上乗せされる部分。

(7) バター消費増の一方で脱脂粉乳が重荷
 バター需要の高まりにより、バター生産の過程で生じる脱脂粉乳などの乳製品がEUを中心に供給過剰となっている。EUは、多くの脱脂粉乳在庫を抱えており、世界の脱脂粉乳価格を下落させている。

(8) FMMOの乳価算定式
 FMMO制度は、導入されてから約90年経過している。同制度による規制は、乳業工場の配置や投資判断に影響を与えており、米国の酪農・乳業の国際市場における競争力にも影響を及ぼしている。

(9) 規模の経済
 小規模酪農家と大規模酪農家への二極化の進展は、政策判断に影響を与えている。小規模と大規模では生産コストが大幅に異なっており、それぞれに必要とされる政策は、根本的に異なっている。

(10) リスク管理の強化
 現行の農業法によって導入されたMPPが機能していないことは、多くの文献によって示されている。AFBFは、MPPの改革を提案してきた。

今後の米国貿易政策

 「今後の米国貿易政策への影響(Influence the Future of U.S. Trade Policy)」と題して、IDFAのダイクスCEOの司会の下、3名のパネリストが米国の貿易政策を中心として意見を交わした。

(パネリスト)
・ダーシー・ベッター氏(米国通商代表部首席農業交渉官)
・ティム・グローサー氏(駐米ニュージーランド大使)
・デヴィッド・オサリバン氏(駐米欧州連合代表部大使)

 ベッター氏は、「米国の貿易政策の先行きは不透明であるが、国際市場に乳製品貿易の可能性があることは明らかである。」と述べた。オサリバン氏およびグローサー氏は、ベッター氏と同様に、世界的な人口の増加や中流階層の拡大を世界的な乳製品需要が拡大する可能性のある要因と捉えているとした一方、米国は最大の生乳生産国であるものの、最近の米国における政治的雰囲気やトランプ政権の貿易に対する姿勢が、米国を一線から遠ざけているなどとした。
 ベッター氏は、NAFTAの再交渉について、「1月23日からモントリオールで協議が行われるが、主要な争点は、妥結を予定している3月末まで持ち越されるだろう。しかし、メキシコ側の意思決定は、7月のメキシコ大統領選挙が近づくにつれ、時間がかかるようになる。そして、7月以降は米国の中間選挙の時期を迎えてしまう。仮に7月までに妥結されなければ、2019年までずれ込むこともある。」とした。
 また、グローサー氏は、米国がカナダに求めている新たな乳価制度の廃止について理解を示した他、米国のTPPへの参加についても受入れの可能性を示した。
写真2 貿易政策に関するセッションの様子(左から順にダイクス氏、ベッター氏、グローサー氏、オサリバン氏)
写真2 貿易政策に関するセッションの様子(左から順にダイクス氏、ベッター氏、グローサー氏、オサリバン氏)
【渡邊 陽介 平成30年2月2日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397