1月31日から2月2日にかけてアリゾナ州フェニックスで第121回肉牛産業会議が開催された。同会議は、全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)、ビーフチェックオフ、キャトルファックスなど複数の肉牛関係団体の共催により、毎年1月末から2月上旬に開催される。ただし、各団体はいずれもNCBAから派生した団体であり、実質的にはNCBA主導の会議であると言っても間違いではない。
同会議では、毎年、NCBAで政策関係のロビー活動を担当するワシントン事務所から、肉牛と牛肉をめぐる政策動向や毎年の重点課題を報告する分科会が開催されている。重点課題としては、土地問題、税制、貿易の3分野が例年挙げられるが、2018年は、以下の5分野が重点課題とされた。
1.2018年農業法
現行農業法が9月末で当初設定された適用期間を終了することから、次期農業法に向け、以下の項目の実現を目指す。
- 口蹄疫ワクチンバンクの設立に対する全額補助予算の獲得
- 環境品質奨励金プログラム(EQIP)と類似の環境保護プログラムの維持
- 農業関係研究予算の維持
- 貿易振興補助金プログラムの維持
- 市場歪曲的政策導入の阻止
2.規制改革
2017年には、環境保護庁(EPA)による米国の水規則(WOTUS)やUSDAによる穀物検査・肉畜取引管理局(GIPSA)規則の取り下げなどの成果があった。
- 運輸省が導入したトラック運行規則(運転手の1日当たりの労働時間の上限を14時間とし、このうち運転可能時間は最大12時間、次の労働までの間に10時間の休息時間をはさまなければならない。これを管理するために、トラックに電子データ記録装置の装着を義務付け)は、家畜を輸送するトラックには不適当。運転手2名同乗の場合、コストが上昇するうえ、運転手の確保が困難。家畜を輸送途上に10時間トラック内にとどめることはアニマルウエルフェア上問題。まず、家畜運搬車用の単独法制を目指し、その後、運行規則で家畜運搬車の例外化の獲得を目指す。
- 絶滅危惧種法の改正。米国では公用地を放牧地として貸借している例が、西部、中南部を中心に多く、同法の改正内容次第では、放牧地として利用できなくなる土地が拡大する可能性。
- ふん尿を有害廃棄物と同等に位置付け、排出量の報告義務を課す規則が発効。ただし、畜産への適用は90日間延期。NCBAは、再延期を目指し、最終的には適用除外を目指す。このため、会員牧場主に対し、延期期間が終了しても決して報告しないよう求めている。
- 山火事管理・資金プログラムの改正。
3.貿易・市場アクセス
NCBAは、TPPのもたらす利益に大きな期待を抱き、これを推進してきたため、米国のTPPからの離脱とその後の11カ国によるCPTPP合意の動きに対して、強い失望感が表明された。また、現在再交渉中の北米自由貿易協定(NAFTA)についても、米国の離脱の可能性が残されており、米国の肉牛産業にとって最大の輸出先であり、米国内で不要な部位や内臓肉の輸出先として重要なメキシコ市場を失うことへの懸念が示された。
NCBAからは、TPPから米国が離脱したことにより、米国の牛肉にとって極めて重要な市場である日本の牛肉の関税率が、米国の競争相手国である豪州などに対しては最終的に9%まで下がるのに対し、米国は38.5%のままとなることから、米国にとって非常に大きなリスクであることが強調された。この説明に対し、会場から、CPTPPの署名前に米国が復帰できるかとの質問がなされたのに対し、NCBAからは無理であるとの見解が示され、二国間交渉を早期に開始することの必要性が強調された。
- NAFTAによって獲得された市場アクセスを守ること。
- 米韓FTAによって獲得された市場アクセスと守ること。
- 二国間FTAを推進すること。
4.疑似食肉(フェイクミート)
牛肉を含む食肉の増産が見込まれる中、自由貿易協定によって獲得された市場アクセスの維持が不透明なことで、供給過剰による価格の下落が懸念される。その一方で、米国では動物愛護や健康への懸念から、動物性タンパク質から植物性タンパク質への転換が一部の消費者の間で進展している。このため、酪農産業と同様、食肉産業でも大豆など植物性タンパク質製品の台頭が脅威として捉えられている。
- 疑似食肉と誤解を生じる表示から牛肉産業と消費者を守ること
5.抗菌剤の利用制限
上記4とも関連するが、米国の肉牛産業では、成長を促進する目的で抗菌剤を飼料に混合して給与することが広く行われてきた。この飼育慣行を見直し、無秩序な抗菌剤の使用を制限して牛肉のイメージアップを図ろうとするもの。
- 動物用医薬品利用料金法の透明性の高い再施行の確保。
- 重要技術特別委員会による抗菌剤に関する検討の継続。