米国産農畜産物などに報復関税を賦課(メキシコ)
メキシコ政府は2018年6月4日、米国がメキシコの鉄鋼およびアルミ製品にかかる関税率を引き上げたことに対する報復措置として、豚肉をはじめとする米国産農畜産物に対する関税率を引き上げると公表した。メキシコは、米国による鉄鋼などの関税引き上げの適用から5月31日まで除外されていたが、6月1日以降適用対象となった。
メキシコ政府は、今回の措置について、「米国が講じた措置は、WTOおよびNAFTAの法的枠組みに照らし、セーフガード措置に該当する。米国は、NAFTAの規則に従い、措置を講じる作業の開始に当たり、締結国に事前に遅滞なく通知し、補償措置に関する協議を行うべきであったにもかかわらず、この義務を怠った。このため、NAFTAの規則に則り、メキシコは米国が講じた措置と同等の実質的な影響力を有する措置を課す権利を有している。」と説明している。
今回メキシコが講じた措置では、30億米ドル相当の関税が課されるとみられており、このうち畜産物に関する関税率は、表の通りとなっている。なお、今回の措置まで、米国産畜産物は無税であった。
例えば、豚肉にかかる関税率は、6月5日以降10%になっており、7月5日以降は20%に引き上げられる。なお、対象品目を区別するために、豚肉を原料としたソーセージに対する関税番号(1601.00.02)が新設された。米国食肉輸出連合会(USMEF)によると、メキシコは、米国からもも肉やうで肉を中心に約80万トンの豚肉を輸入しており、75%が加工用に仕向けられている。
また、メキシコ政府は同日付けで、輸入豚肉に対して35万トンの無税枠を設けることも公表した。この措置について同政府は、供給改善および消費者保護の観点から、豚肉供給元の多様化が必要であると説明している。対象となる関税番号は、0203.12.01、0203.19.99、0203.22.01、0203.29.99であり、期限は2018年12月31日までとされている。
メキシコ農牧農村開発漁業食料省は6月5日付けプレスリリースで、現在メキシコは、米国のほか、カナダ、チリ、デンマーク、スペイン、イタリア、フランス、ドイツ、ベルギー、オーストラリア、ニュージーランドからの豚肉輸入が可能であることから、これらの国からの輸入を検討するよう食肉業界に呼びかけた。
報道によると、メキシコ豚肉生産評議会は今回の措置について、「貿易を停止するわけではなく、国内在庫も十分にある。米国産豚肉への課税を一時的ではなく恒久的に継続してほしいとさえ思っている」と歓迎のコメントを寄せている。
一方、米国の食肉業界からは、メキシコ向け輸出への影響を訴える声明が相次いでいる。食肉加工業者の団体である北米食肉協会(NAMI)は、「今回の報復措置は、貿易紛争において勝者は存在しないことを再提起している。当協会は、メキシコおよび米国に対して、追加関税や市場アクセスへの障壁が影響を及ぼす前に、紛争の解決に向けて精力的に取り組むよう働きかける」としている。全米豚肉生産者協議会(NPPC)は、「重要な貿易相手との貿易紛争の激化によって、農村地域の負担は積み上がっている。メキシコは、米国の豚肉輸出量の25%近くを占めており、関税率の引き上げにより、メキシコ市場における我々の競争力がそがれている。」としている。
また、米国乳製品輸出協議会(USDEC)は、「我々の最大の市場であるメキシコにおけるチーズに対する関税は、我々の競争力を除去するものである。今回の措置は、米国の酪農家、乳業メーカー、輸出業者にとって著しい後退である。」との懸念を示した。
メキシコ政府は、今後トランプ大統領が新たな関税措置などにより貿易紛争を激化させるようであれば、年間40億米ドル輸入している米国産トウモロコシおよび大豆に対しても報復関税を課す可能性を示唆しているとも報じられている。メキシコのほかにも、中国やカナダなども米国産農畜産物への報復関税を課すこととしており、今後の動向が注目される。
【渡辺 陽介 平成30年6月28日発】
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