USMEF、メキシコの報復関税による豚肉輸出への影響を試算(米国)
米国食肉輸出連合会(USMEF)は2018年6月14日、メキシコが講じた報復関税による米国の豚肉輸出への影響に関する試算を公表したので、その概要を紹介する。
- 近年、メキシコの豚肉輸入量のうち90%が米国産豚肉が占めており、その約80%が今回の報復関税の対象となった豚肉品目となっている(表1)。米国の豚肉業界にとって、メキシコは重要な輸出先であり、米国の豚肉輸出に占めるメキシコの割合は、量では3分の1、金額では23%に及ぶ(2017年)。
- 今回の報復関税および合せて創設される無税枠により、(1)米国産豚肉の輸出量の減少、(2)メキシコ向けの主要部位であるもも肉を中心とした米国の豚肉価格の下落、(3)新たなメキシコの豚肉市場への参入者との競争とシェアの低下、(4)メキシコの食肉加工業者による豚肉から七面鳥肉への切り替え、(5)メキシコの小売業者による家禽肉への傾倒を引き起こすと考えられる。
- 今回の措置によって、短期的にはカナダ産豚肉が利益を得るとみられる。しかし、同国は、生産したもも肉の多くをすでにメキシコへ輸出していることから、メキシコ向けの販売を増加させる能力は限定的である。また、カナダの豚価は、米国の市場と密接に関わっていることから、メキシコおよび中国の報復関税による米国の豚肉価格の下落は、カナダの養豚業界にも影響を及ぼすこととなる。
- 長期的に見ると、EU産豚肉のメキシコ市場への足掛かりとなるだろう。現在、EU域内でメキシコ向け輸出の認証を受けている豚肉加工場は、60カ所ある(表2)。さらに、2020年までにはEUとメキシコの間でFTAが発効されると予想されるため、EUの輸出業者はメキシコ市場への参入を楽観視している。米国が持つ輸送面での優位性は維持され、メキシコの食肉加工業者としても米国産冷蔵豚肉からEU産冷凍豚肉への切り替えは容易ではないが、メキシコの業者がEU産の利用を試みて気に入れば、おそらく米国産からの脱却を図り、輸入先の多角化を進め続けるだろう。一方、米国産に20%の課税がされたとしても、EUの輸出業者が米国産の価格に対抗できるかは不透明であり、部位によってもさまざまである。
- カナダおよびEUのメキシコ市場でのシェア拡大により、2018年第1半期に90%を占めていた米国産のシェアは、同年下半期には75%に低下する可能性がある。仮に、下半期の輸出量が6万トン以上減少し、単価が第1四半期の水準で推移したと仮定すると、輸出額は1億米ドル以上減少することとなる(表3)。
- メキシコへ輸出されなくなる豚肉は、他の輸出市場および国内へ安値に仕向けられることとなる。最も影響を受けるのはもも肉で、もも肉価格の下落によって、食肉業界は下半期で3億米ドル以上の損失を被る可能性がある。また、ウデ肉(ピクニック)価格への影響も大きく、もも肉とウデ肉を合わせると、下半期で4億2500万米ドル、今後一年間で8億3500万米ドルの損失となる可能性がある。
【渡辺 陽介 平成30年6月28日発】
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