限外ろ過乳の輸入減と脱脂粉乳の輸出増が継続(カナダ)
カナダ酪農情報センター(Canadian Dairy Information Centre:CDIC)が6月14日に公表した直近の貿易データによると、チーズなどの原料として使用されるMPS(Milk Protein Substance:乳たんぱく物質)の2018年1〜4月の輸入量は、4758トンと前年同期を76%下回った。MPSの輸入量は2017年にも前年を37%下回っており、特に液状のもの、すなわち限外ろ過乳(注1)の輸入量が大きく減少した(図1)。この背景には、クラス7(注2)という新乳価クラスの導入によりカナダ産原料乳製品の国際競争力が強化され、カナダ国内乳業メーカーからの引き合いが高まったことなどがあるとみられる。
(注1)生乳から乳脂肪分を除去した後にろ過膜を透過させて乳タンパクを濃縮したもの。主にチーズの原料となる。
(注2)カナダで2017年2月から実施されている「原料乳製品国家戦略」において導入された新しい乳価クラス。従来、カナダでは最終用途別にクラス1〜5の乳価クラスが存在し、それぞれ異なる乳価が算定されているが、クラス7は脱脂粉乳や限外ろ過乳といった原料乳製品を最終用途とする乳価クラスであり、価格は他国産の価格を下回るよう算定される。カナダはこの新乳価クラスを通じて国産原料乳製品の価格競争力を強化することにより他国産の排除や脱脂粉乳の輸出拡大を図っているとみられ、米国をはじめとする主要乳製品輸出国は批判を強めている。同戦略の詳細については「畜産の情報」2018年3月号に掲載の『転換期を迎えるカナダ酪農乳業〜原料乳製品国家戦略導入の背景と影響〜』にて詳述しているので、そちらを参照されたい。
また、一部の原料乳製品については輸出も堅調に推移しており、例えば脱脂粉乳の2018年1〜4月の輸出は前年同期の2倍の水準となった。脱脂粉乳の輸出量は2017年も前年の3倍超と急増したため、高水準の輸出が継続しているとみられる(図2)。
今般の新乳価導入により、カナダの乳製品貿易相手国のうち最も打撃を被っているのは、最大のMPS輸入先である米国である(図3)。CDICによると、2017年の米国産のMPS輸入量は前年比39%減(3万1212トン)、輸入額は同52%減(1億2873万カナダドル)となった。こうしたことから、トランプ米大統領は昨年4月にもカナダの酪農政策を名指しで批判していたが、本年6月8日にはツイッターで再びカナダの酪農政策を批判した。さらに、同月15日にはパーデュー米農務長官もカナダの酪農政策に不満をにじませた。
同日、カナダのマコーレー農務・農産食品大臣と会談したパーデュー長官はカナダ放送協会(CBC)のインタビューにて、カナダが供給管理制度を存続させることに理解を示しつつも、「制度を維持するのであれば生産過剰により国際価格に下落圧力が加わることが無いよう供給量を管理すべき」と述べ、過剰な生産を容認する仕組みであるクラス7を廃止しない限り米加間の通商交渉が進展することは考えにくいと指摘した。
また、新乳価に対する批判はカナダ国内からも噴出している。カナダ最大の民間乳業メーカーであるサプート社のリノ・サプート・ジュニアCEOは6月18日、ロイター社のインタビューにて、供給管理制度を保持しながら同時に国際市場で価格競争力を得るための乳価クラスを創設するという状況を問題視した。同氏は今回のタイミングでコメントを寄せたことについて、クラス7の廃止は「筋が通っている」ことであり、そうする方がクラス7に拘泥する場合よりも米加間の自由貿易に与える悪影響が小さくなると説明している。
報道の中には、サプート社CEOによる発言が乳業と生産者の間に生じている亀裂を示しているとする見方もある。現に、国内酪農生産者からなるカナダ酪農生産者協会(Dairy Farmers of Canada)は一貫してクラス7を支持しており、今回の発言についても驚きをもって受け止めているとされる。
カナダはクラス7について算定方法などの詳細をいまだ公表していないが、この政策をめぐり国内外で批判が相次いでいる今日、同国の酪農・乳業界の対応に一層の注目が集まっている。
【野田 圭介 平成30年7月2日発】
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