欧州委員会、干ばつ被害に対する支援措置を公表(EU)
欧州委員会は8月2日、干ばつ被害に対する支援措置を発表した。
欧州委員会は、複数のEU加盟国で継続的かつ長期的に発生している干ばつについて、農作物の生産と動物福祉の面に大きな影響を与えており、特に飼料不足を招く懸念から、今年後半の畜産農家の所得に影響を及ぼす可能性があるとしている。
ホーガン農業・農村開発担当欧州委員は、「この長びく気象現象について非常に懸念している。被害を受けた国の閣僚らと連絡を取り、状況および影響の把握を行った」とし、「欧州委員会は、いつものようにさまざまな方法を用い、干ばつによる被害を受けた農業経営を支援する準備は整っている」と述べた。さらに「全ての加盟国に対し、規則の中で可能な全ての措置を検討するよう求めている」とした。
新たな支援措置
今回、CAP(Common Agricultural Policy:共通農業政策)の下での既存の支援に加えて、2つの具体的な支援措置が決定された。
(1)前倒し支払
農業経営のキャッシュフロー改善のため、直接支払いの最大70%、農村振興政策による補助金の最大85%が、12月から10月中旬に前倒しされて支払われる。
(2)緑化支払要件の一部免除
緑化支払の要件である「作物の多様化」、「生態系保全用地の維持」の免除により、休耕地などでの家畜飼料生産を可能にする。
農家が飼料生産を柔軟に行えるよう、緑化支払要件のさらなる免除についても検討されており、これらの措置は特に畜産農家にとって有益になる。
CAP下での既存の支援
加盟国による農業助成に関する既存の規則では、ある特定の条件に従い、干ばつによる被害に対し最大80%(条件不利地域では同90%)の支援が可能である。損害に対する補償については、加盟国は欧州委員会に通知することなく、農業者1人当たり最大1万5000ユーロ(196万5000円)の支援を3年間行うことができる。
さらに、農村振興政策においても、さまざまな可能性がある。加盟国は、干ばつの状況を「自然災害」と認定した場合、農業経営の復旧に要する費用の最大100%を支援することができる。この措置は遡及して実施することが可能である。その他にも、加盟国はリスク管理措置を通じて農業者を支援することができる。例えば、被害を受けた農業者に財政的な補償を支払うために、加盟国は、共同で積み立てた基金に拠出することができる。また、平均年収の30%を超える減収となった農業者は、財政的な補償を受け取れる。加盟国は、上記支援を行うために、農村振興計画を修正することができる。
欧州委員会は全ての加盟国に対し、干ばつの農業者への影響に関する新たな情報について、8月31日までに報告するよう求めている。報告は、今回の支援措置の妥当性と、適切と考えられる追加支援措置を検討するために使用される。
なお、現地報道などによると、欧州北部を中心とした熱波の影響で、多くの農業経営が干ばつの被害を受けている。長引く干ばつによる農作物の収量減が懸念されているほか、乾草などの飼料不足から家畜が早期出荷され市況に影響を及ぼすなど、農畜産業に影響が出始めている。
7月にベルギーのブリュッセルで、各加盟国の農業担当大臣らが集まって行われた欧州議会の農業水産評議会(AGRIFISH)では、ポーランドのヤン・クシシュトフ・アルダノフスキ農業・農村開発相が、現在の深刻な干ばつの状況を報告するとともに、被害を受けた農業経営を支援するための例外的な措置を求めた。そのほか、複数の加盟国の代表者からは、ポーランドとの連携を表明するとともに、特に家畜飼料への懸念が報告された。
【調査情報部 平成30年8月14日発】
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