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米国、カナダ、メキシコ、新たな貿易協定に合意(北米)

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 米国政府は2018年10月1日付けプレスリリースで、9月30日にカナダ政府およびメキシコ政府との間で、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA:United States–Mexico-Canada Agreement)について合意に至ったと公表した。同協定は、北米自由貿易協定(NAFTA)の近代化を目的にその内容の見直しが行われた結果、NAFTAに替わる新たな貿易協定として創設された。
 米国とメキシコの間では8月27日に予備的合意に至っていたが、米加間ではいくつかの点に関する交渉が難航していた。中でも乳製品分野は争点の一つとなっていた。最終的にカナダは、生乳供給管理制度を維持したものの、新乳価クラス(注)を廃止するとともに、米国産乳製品に関税割当を設定する結果となった。
 本件について、米加両国の酪農乳業界の反応について以下の通り報告する。

(注)カナダで2016年以降に導入された新しい乳価クラス。従来、カナダでは最終用途別にクラス1〜5の乳価クラスが存在しているが、新乳価クラスであるクラス6およびクラス7は、脱脂粉乳や限外ろ過乳といった原料乳製品を最終用途とする生乳に対して、他国産の価格を下回るよう算定される。カナダは、この新乳価クラスを通じて国産原料乳製品の価格競争力を強化することにより他国産の排除や脱脂粉乳の輸出拡大を図っているとされており、米国をはじめとする主要乳製品輸出国から批判されていた。同戦略の詳細については「畜産の情報」2018年3月号『転換期を迎えるカナダ酪農乳業〜原料乳製品国家戦略導入の背景と影響〜』に記載しているので、そちらを参照されたい。


諸手を挙げて歓迎する米国
  米国乳製品輸出協議会(USDEC)、全米生乳生産者連合会(NMPF)および、米国の乳業メーカーなどで構成される国際乳食品協会(IDFA)は、連名でUSMCAに対する歓迎のプレスリリースを公表し、各団体会長は以下の通りコメントを寄せた。

● トム・ヴィルサック氏(USDEC会長兼CEO)
米国の農家のために国際市場を開拓し続けるであろうNAFTAの大枠は維持された。また、我々は、他の国との自由貿易協定を追い求めたり、中国との貿易戦争を解消したりする必要がある。米国は国際的な貿易指針決定に必要不可欠なプレイヤーでありつづけなければならない。

● ジム・マルハーン氏(NMPF会長兼CEO)
この協定は、我々に対して、米国産の高品質な乳製品をカナダへ提供する市場拡大の機会を与えるものだ。トランプ政権が交渉の場で、我々の課題に注目してくれたことに感謝する。

● マイケル・ダイクス氏(IDFA会長兼CEO)
メキシコのマーケットアクセスの維持とカナダのマーケットアクセスの改善は、IDFAにとってNAFTAの近代化における最大の優先事項であった。また、我々は、クラス7乳価を廃止させたことを嬉しく思う。この新たな協定は、極めて重要なカナダおよびメキシコとの関係を保ち、米国の酪農乳業界にさらなる輸出機会を与えるだろう。


カナダでは政府への批判が強まる
 カナダ酪農生産者協会(Dairy Farmers of Canada)は10月1日の声明において、本件に対する深い落胆を示すとともに、酪農家を保護出来なかった政府に対し批判を強めた。声明では、EU-カナダ包括的貿易投資協定(CETA)および、包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)によって、既に毎年2億5000万カナダドル相当の損失を被ることが予定されている中、USMCAによってさらなる打撃を被ることになるとの懸念が示された。また、ピエール・ランプロン会長は「情熱的で誇り高く、品質にこだわる酪農家をはじめ酪農産業に携わる全ての人々に手向けられたメッセージが今日明らかになった。『酪農分野はトランプ米大統領を満足させるための切り札でしか無かった』ということだ。」と強い憤りをあらわにした。
 
▲ビデオメッセージでコメントを述べるランプロン会長
▲ビデオメッセージでコメントを述べるランプロン会長
 また、カナダ乳業協会(Dairy Processors Association of Canada)も同日に声明を発出し、USMCA合意への深い落胆とともに政府に対する失望を述べた。乳業界は酪農業界に多大な投資を行っており、仮に貿易協定によって生乳生産が減少するようなことがあれば、乳業界の投資利益にも影響するとして、DPACは以前から、DFCと協同して市場開放の阻止を訴えていた。
【渡辺 陽介、野田 圭介 平成30年10月11日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397